表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/157

第8話:2年生。運命の出会い

 オレは小学2年生になった。

 2年生になったからといって、特に変わったことはない。

 相変わらずサッカー漬けの毎日である。


「行ってきます!」

「待って、お兄ちゃん! アオイも行く!」


 そうだ。一つ変わったことがある。

 それは一歳年下の妹のあおいも、小学校に通い始めたことだ。


 同じ小学校なので通学も、自然と一緒に行くことになる。まだ一年生なので、車とか心配だ。 


 葵に合わせて、オレもゆっくり歩いた方がいいのかもしれない。


「アオイも、お兄ちゃんと同じ速さで歩く! 大丈夫!」


 だがあおいは元気であった。

 トレーニング速度で通学するオレと、同じ速さで登校できた。


 妹も幼い頃から、オレと一緒にサッカーの練習をしていた。もしかしたら、そのお陰もあり知らないうちに、体力が付いていたのかもしれない。


「お兄ちゃん。学校に行く道は、冒険みたいで楽しいね!」

「そうだな。冒険&トレーニングだな」

 

 葵の頑張りのお蔭で、オレの登校時間のサッカートレーニングを継続できた。有りがたいことである。


 それにあおいも少し経ったら、友達と登校するであろう。そうなったオレは更に厳しい、登下校時間のトレーニングをするつもりだ。



「コータ。来週からお前は4年生の選手コースにいけ」


 そういえば2年生になって、変わったことがもう一つある。

 それはコーチから、上のクラスに行くことを命じられたことだ。


「ボクはまだ2年生ですが、いいんですか、コーチ?」

「ああ、お前の両親の承諾もある。それに、もうスクールの3年生では、お前の相手にならない。上で期待しているぞ」

「あっ、はい……?」


 そんな感じで訳も分からずに、オレは選手コースに昇格することになった。


 基本的に選手コースは4年~6年生までしかいない。

 オレはまだ2年生になったばかり。本当に大丈夫なのか? 不安しかない。


「お兄ちゃん、頑張って! お兄ちゃんなら大丈夫! アオイもスクールコースで頑張るから!」


 そういえば前と変わったことが、更にもう一つ。

 あおいも同じサッカーチームに通うことになったのだ。


 妹はまだ1年生だから、去年のオレと同じスクールコースからの開始となる。

 女の子はチームに少ないから、同級生の1年生の男の子と混じって練習していた。


 あおいは女の子だから大丈夫かな。

 少し心配である。転んで怪我しないか心配だ。


「お兄ちゃんに比べたら、みんな下手だから大丈夫だよ! アオイが一番上手いよ!」

「そうなのか、葵?」


 そう言えば幼稚園の年少組の時に比べて、妹はだいぶサッカーが上達していた。

 最近ではオレとの自主練でも、だいぶ集中力が続いている。家の練習部屋でも、いつも足技を一緒に練習していた。


 それに公園での葵との1対1の練習。最近ではオレも気が抜けない鋭さになっていた。

 スピードが速いあおいは、目を離すと一瞬でオレからボールを奪っていくのだ。


 もしかしたらオレの妹は1年生の中でも、けっこう上手い方なのかもしれない。



「さて、オレも妹に負けないように、頑張らないとな」


 今日からコーチの指示通りに、オレは4年生選手コースでの練習に参加する。


 これまでは在籍していたのは、1年から3年生までのスクールコース。いわゆる遊びのコースだった。


 だが今度からは4年生から6年生までの選手コース。

 このチームの小学生年代の代表チーム。本気でサッカーで勝ちたい人のためのガチなコースだ。


 選手コースか……。

 うーん、いよいよか。名前を聞いただけでも緊張してきた。


「2年生の野呂コウタです。皆さん、よろしくお願いします」


 練習前に4年生の前で、ペコリと挨拶をする。

 何度も言うが、小学生の時期の年齢の差はかなり大きい。一番年下のオレは、低姿勢でいくしかないのだ。

 

「おい、あいつが噂の……」

「ああ。飛び級できたらしいぞ……」

「あんなにチビなのに、ヤバイらしいぞ……」


 4年生たちは何かざわざわしていた。オレの全身を舐めるように観察さしてきた。

 この選手コースには知った顔は、ほどんといない。

 なんかドキドキ緊張してくる。


「よし、挨拶も終わったところで、練習開始だ。地区大会まで時間がない。気合いを入れろ!」

「「「はい!」」」


 選手コースのコーチの合図で、練習が始まる。

 4年生たちは気合の返事。オレも負けずに声を出す。



 選手コースの練習が始まる。

 練習時間はスクールコースと同じ、放課後の2時間が基本。


「うわ……4年生の人たち、気合入っているな……」


 だが内容の濃さがスクールコースとは、まったくの別ものであった。子どもたちの気合いが凄いのだ。


 ちなみにスクールコースには、遊びで入会して子供もけっこういる。

 運動不足の解消や、習いことの一環として、そんな感じで親に言われて、仕方がなく通っている子もいた。


 だが選手コースは違っていた。


「オレは将来、Jリーガーになる!」

「それならオレは日本代表になる!」


 全員がそんな感じ、本気でプロサッカー選手を目指していたのだ。

 4年生は今のとこと全部で18人。現実的な話、その中でプロになれる者は、一人もいないかもしれない。


 だが全員が本気で夢を見て、全力でサッカーに打ち込んでいるのだ。


「やばい……みんな、凄い、上手い! そして楽しい!」


 選手コースの練習が続いていく。

 練習しながら、オレは思わず声をもらす。


 はっきりといって4年生の人たちは上手かった。


『敵に勝ちたい! ライバルよりも上手くなりたい!』……そんな感じの執念が、今までとは違うのだ。


 2歳も下のオレが、そんな厳しい環境の中で練習するのは大変だった。

 年齢による体格差や足の長さ。根本的な体力が全然違う。


「くそ……体格差で負ける相手には……よし、相手の死角に入るようにして……」


 だがオレも負けてはいなかった。

 大変だからこそ、自分が成長していくのが実感できるのだ。


「よし。明日のミニゲームでは絶対に抜くぞ……」


 選手コースに昇格したての頃。オレはダメだったこともある。でも次回では、オレは自主練で修正していく。

 相手は2才も歳上の4年生。だが気持ちではオレも負けない。


『足の長さで負けるのなら、スタートの一歩を早くする』

『体格さで負けるのなら、テクニックを磨いていく』

『体力で負けるのなら、頭を使って勝負する』


 毎日の練習が本番の試合のように、全力で練習に望んでいく。

 本気の4年生に失礼がないように、オレも全身全霊で練習にうちこむ。


「あの4年生に勝つには、もっとこう……それに、あの時のプレイは……」


 そんな感じで必死に過ごしていく。

 4年生との練習と、一人での自主練習の繰り返しの毎日。


 気が付くとあっとう間、月日が経っていた。

 いつの間にかオレが2年生になって、4ケ月が経っていた。



「えー、お前たちに新メンバーを紹介する。夏休みの間だけの短期期間だが、今日から選手コース4年と練習する」


 夏休みに入った8月のある日。新しいメンバーがやってきた。

 オレの時と同じ様に、コーチが練習前に紹介してくる。


「オレ様は澤村ヒョウマ。2年生だ。将来の日本代表の10番。以上だ」


 新メンバーがコーチの隣で自己紹介してきた。何とオレと同じ2年生で、飛び級での昇格だった。


 でもオレとは逆の太々しい態度。はっきりいって、かなり上からの目線である。


 うわー、ヤバイなこの状況は……。

 これには4年生も方々も激怒であろう。


「おい澤村って……?」

「ああ。あの澤村選手の……」

「まさか、このチームに入ってくるとはな……」


 だが4年生はざわざわしていた。

 怒るどころか、どこか奇異の目で新メンバーを見ていた。


 それにしても“澤村ヒョウマ”?

 オレもどこかで聞いた名前。前世の時に、聞いたことがある名前だ。

 でも記憶が混乱して、どうしても思い出せない。


「あのー、先輩、澤村って……?」


 仕方がないので、隣の先輩に聞くことにした。

 この様子なら、何か知っているのであろう。


「コータ、お前知らないのか? アイツの父親は有名な元Jリーガーの澤村選手……その息子だぞ」


 なるほど、そうか……そういうことか。

 

 澤村選手のことは、もちろんオレも知っている。

 前世ではサッカーオタクだった知識は伊達じゃない。


 そして記憶が混乱した原因が分かった。

 

“澤村ヒョウマ”


 その名は前世でも、オレは聞いていた。

 何とこの選手は将来的には、プロのサッカー選手になるのだ。


 圧倒的なテクニックで、将来を有望された選手だった。

 だが不幸な怪我に泣かされて、最終的にはJ2止まりだと記憶している。


(でも、澤村ヒョウマ選手……この街の出身じゃないよな?)


 有名な選手の出身地くらいは、オレは記憶していた。だから先ほどは誤差に混乱したのだ。


 澤村ヒョウマ選手がこのチームに入ったのは、夏休みだけの一次的なものなのか?

 それなら前世の選手記録にも、載ってないのは理解できる。


 そう言えば、コーチが最初に『夏休みの間だけの短期期間』だけと言っていた。

 つまりこの澤村ヒョウマ選手とは、短い期間だけのチームメイトなのだ。


(でも、これは朗報だぞ!)


 オレは心の中で、思わずガッツポーズする。

 何故なら“プロのサッカー選手になる確定の人”が、目の前にいるのだ。しかも同じチームの中に。


(これでオレの将来を計れるかも……)


 今のところオレのサッカー選手としての、才能は未知数である。

 だが、この澤村ヒョウマが今度から、才能を測る指針になってくれるであろう。


 夏休みの間。この男に追いつくことが出来たなら、オレにも可能性がある。将来的にプロサッカーになる可能性があるのだ。


 まさかのゲリライベントの発声に、オレのモチベーションは爆上りである。


「おい、そこのチビ。なに見てるんだ?」

「ううん。何でもないよ。ボクの名前は野呂コウタです」


 チビとはオレのことだろう。確かにオレの方が少しだけ、身長が小さい。

 相手はかなり不遜な態度だが、オレは全く気にしてはいない。


「同じ2年同士、よろしくね、ヒョウマ君!」


 何故なら今のオレは、最高に興奮していたからだ。

 澤村ヒョウマという逸材を目の間にして、これまで以上にサッカーを頑張れそうだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ