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素人おっさん、第二の人生でサッカーライフを満喫する 作者:ハーーナ殿下@青森県弘前市
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第64話:本気の全力

 1軍との交流戦が始まる。
 今はすでに前半が終わり、休憩時間となっていた。

「0対2か。やっぱり1軍は強いな……」

 オレたち2軍は負けていた。
 前半は全く手も足も出ず、1軍におされていたのだ。

『どうした、お前たち? このままで負けてしまうぞ!』

 ベンチで2軍の監督が、オレたちに向かって叫んでいる。
 前半は明らかに調子が悪かったのだ。

(たしかに皆の悪いクセが、また出ちゃった……感じだったな)

 前半を思い返す。
 チームメイトは気負いすぎて、連携がとれていなかった。
“結果を出せば1軍に昇格できる!”そんな想いが強すぎたのだ。

 その結果、チームメイト同士で横の連携が悪くなってしまった。
 オレが入団する前の悪い状態に、また戻ってしまったのだ。

(ここは大幅な変更が必要だ。好調になった公式戦の後半のように)

 個々の能力は、たしかに1軍に劣る部分もある。
 だがこの2軍も総合力では高い。

 更に今は1軍の調子が悪い。
 こちらのチームの連携さえかみ合えば、正気はまだあるのだ。

(ここは監督に戦術変更を、オレが進言した方がいいのか? いや、それはダメだ……)

 今のオレは入団したばかりの一選手に過ぎない。
 以前のリベリーロ弘前とは違い、ここでは監督のプライドを守らないといけない。

(こんな時は、いつもはエレナが……)

 最後の頼みの綱は、特別アドバイザーのエレナ。
 彼女がガツンと言ってくれたら、監督と選手にも変化が起こる。

 最近の彼女は勝利の女神としての、一種のカリスマ性を兼ね備えたのだ。

(でも、今日のエレナは……)

 今日のエレナは少し変であった。
 この作戦会議も積極的に参加してこない。

 いつもだったら公式戦の時のように、監督の采配に口出しをしてくるはずだ。

(エレナは何か焦っているのか?)

 監督の後ろに立つエレナの視線は、遠い1軍に向けられている。
 相手を……ユリアンさんを意識するあまり、試合に集中できていないのだ。

 やはり、この兄妹の間には何かトラブルがあったのか?
 気になるが兄妹同士の問題に、他人のオレは口を出す権利はない。

(でも……今はそんなことを、言っている場合じゃない!)

 オレは覚悟を決めた。
 虚ろな目をしているエレナの目の前に、進んでいく。

「しっかりしてくれ、エレナ!」
「えっ……コータ?」

 突然オレが詰め寄っていったので、エレナは驚く。
 だが構わずに彼女の両肩に手を置き、その瞳を見つめる。

「君はこの2軍の特別アドバイザーだろう? 今は目の前の試合に集中するんだ!」
「でも、コータ私は……」
「皆の顔を見てみて? みんなエレナの言葉を待っているよ!」

 2軍の選手はエレナに視線を向けていた。
 自分たちの勝利の女神の、いつもの強気なアドバイスを待っていた。
 監督の話よりも、彼女が気になって仕方がないのである。

「みなさん……し、仕方がないですわね。私がいないと、本当にダメな人ばかりですわね!」

 エレナはごほんと咳払いをする。
 少し目を閉じて、開いた顔には、いつもの勝気な表情が戻っていた。

『監督、ちょっといいかしら?』
『もちろんです。エレナ・ヴァスマイヤー特別アドバイザー』

 監督は暖かい笑みで、エレナに席を譲る。
 まるで彼女が復活するのを待っていたようである。
 何だかんだエレナ嬢様のことを、2軍の皆は愛していたのだ。

『それではアドバイスしますわ! 1軍はたしかに個々の能力は高い……でも、公式リーグ戦の弱点を抱えたまま、今も改善していない分がありますわ』

 エレナはノートを取り出して、オレたち選手に説明していく。
 そのノートには1軍のデータが、細かく書かれていた。

 交流戦が決まった日から、彼女も必死になっていたのだ。
 2軍を勝利に導き、一人でも多く昇格できるように、思ってくれていたのだ。

『なるほど。エレナお嬢様の作戦に、賛成だな』
『ああ、たしかに、これなら1軍の連中をぎゃふんとさせられる』

 話を聞く選手たちも、感じ取っていた。

 この11歳の少女の熱意を知っていたのだ。
 サッカーに対する熱意が、ここにいる誰よりも強いということを。

『でも、お嬢さま。相手の8番……あのユリアンはどうする?』
『たしかに。あいつを抑えない限りは、オレたちに勝ちはない』

 エレナの作戦には、一つだけ問題があった。
 それは1軍のユリアン・ヴァスマイヤーをどう止めるか?
 調子がいい彼が起点になり、2軍は劣勢に押されてしまったのだ。

『それは大丈夫ですわ! コータ、あなた後半は本気を出すのよね?』
『へっ? ボ、ボクはいつも本気だけど……』
『嘘よ。あなた1軍の選手に見惚れていたでしょう?』

 なんとオレのクセが、エレナに見抜かれていた。

 オレのクセは“有名選手に見惚みとれてしまう”ということ。
 簡単に説明するとオレは『有名選手のプレイに、見惚れてしまうクセ』があるのだ。

 前半1軍の有名選手のプレイに見惚れてしまった。
 これは未だに治せないクセであり、サッカーオタクすぎる併発の病気かもしれない。

 くそっ……今まで誰にもバレたことがなかったクセなのに。
 このお嬢様は、ただ者ではないのかもしれない。

『コータが見惚れるクセは、オレたちも知っていたぞ』
『そうだよな。あからさまにガン見しているからな』
『本人は観察のため、と思っているらしいけどな。はっはっは……』

 なんとチームメイトまで見抜いていたのだ。
 恐るべし2軍の皆さん……。

 だがオレは見惚れながらも、ちゃんと真面目に観察もしていた。
 だから1軍の選手の全データは頭に入っている。

 バレてしまったら仕方がない。白状するしかない。

『エレナ、それならボクは後半ちゃんと本気を出すよ』

 交流戦は前後半あわせても40分しかない。
 前半はスタミナを温存しながら、緩急を付けたプレイをしていた。
 だからスタミナ問題も大丈夫であろう。

『後半の20分は“本気の全力”を出すよ、ボクも』

 20分は今のオレの“本気の全力”の限界稼働時間である。
 大人が相手でも20分だけなら、負けない自信があった。後半はその全てを出し切る。

『ということは、コータ……』
『お前、今までの公式リーグ戦よりも……?』
『あのテクニックと鋭さの、更に上を出せるのか?』

 チームメイトは驚いていた。
“コータ・ノロは手加減していた。実は更に上での段階がある”
 まさかの暴露発言に驚愕している。

『だ、だって、ボクはまだ12歳の子どもだから……』

 子どもであることを盾に弁明しておく。

 仲間を騙した訳ではないが、全能力を解放したプレイは負荷が大き過ぎる。
 だからチームメイトにも内緒で、力をセーブして戦っていたのだ。
 リーグ戦でも要所だけ全力を出す感じだった。

『こータの本気か……面白れぇな、みんな!』
『ああ、1軍の連中をぎゃふんと言わせられそうだな!』

『それにエレナお嬢様のためにも、絶対に勝たないな!』
『あと、監督のためにもな』

 何だか皆はいい雰囲気になってくれた。
 前半のバラバラ感が嘘のように結束をする。

 エレナの作戦を頭に叩き込み、監督からのアドバイスも参考にしていく。
 2軍チームに活気が戻ってきたのだ。

(なんかいいな……やっぱりサッカーは、こういうのが有るからいいな……)

 そんなベンチの光景を見ながら、オレは幸せな気分になる。
 自分の保身のためのプレイではない。

 是認が本気でサッカーを楽しもうとしている、素晴らしい空気だった。

『そろそろ後半いくぞ!』

 監督から合図がある。
 いよいよ後半の時間となったのだ。

『よし、いくぞ!』
『1軍の連中をビビらせてやろうぜ!』
『ああ、オレたちの力を見せるぞ!』

 チームメイトは気合の声と共に出陣していく。
 前半とは違い、その眼には強い意思が籠っていた。

“チームを勝たせよう!”という想いで団結していた。

 こうなった時のチームは、実力以上の力を発揮する。

 そして奇跡を起こすこすことを、オレは知っていた。

 よし。後半はオレも頑張るとするか。

「コータ……ありがとね……」
「ん? なんか言った、エレナ?」

「な、何でもないわ。1軍を……お兄様たちを倒してきてちょうだい!」

 何かエレナまでテンションが変になっていた。
 これも2軍の不思議な高揚感のお蔭かな。

「あいよ。任せてちょうだい!」

 そしてオレも絶好調になっていた。
 全身に力がみなぎり、右足が軽くなっている。

「久しぶりの“本気の全力”か……ボクも楽しまないとね!」

“本気の全力”を出したのは、セルビオ君やヒョウマ君と戦った……あのとき以来である。

 あの日からオレは身体と技も成長していた。
 どんなプレイが出来るか、自分でもワクワクしていた。

「さて、いくか!」

 こうしてオレたちは1軍に挑戦するのであった。



 そして20分後。
 作戦変更は見事に的中する。

 オレたちは3対2で、逆転勝利することができたのだった。

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