第51話:【閑話】とあるスペインチームの監督の話
《スペインのセルビオのチームの監督の話》
フランスのパリで開催された“U-12ワールドカップ”が終わり、我々は地元スペインに戻ってきた。
今回の成績は準優勝。昨年のベスト8を上回る好成績であった。
出来れば優勝しかたかったが、ジュニアの国際大会の一つだ。
準優勝でも上出来だといえよう。
「ヘーイ、監督。相談があるだけど」
「どうした、セルビオ?」
チームの練習の休憩中に、選手の一人が尋ねてきた。
このジュニアチームの中でも、ひと際体格がいい少年セルビオ・ガルシアだ。
「ちょっと先ほどの紅白戦の動画を見せて欲しい」
「さっきの? ああ、ここにあるぞ」
常時撮影している練習動画を手渡す。
選手が自分のプレイを確認することは、よくあることだ。
だが私は内心では驚いた。
何しろこの少年は今まで一度も、自分のプレイ確認したことがなかったのだ。
(どうしたのだというのだ?)
このセルビオ・ガルシアと少年は普通ではない。
スペインサッカー界でも“10年に一度の素質”と言われるほどの天才なのだ。
そのため自尊心もかなり強い。自分のプレイに自信がありすぎたのだ。
「どうした、セルビオ? 何か心配なことでもあるのか?」
急な心境の変化を訪ねる。
この少年はスペインサッカー界の至宝。
来年、上のジュニアユースチームに引き渡すまで、大切に扱う必要があるのだ。
ジュニア監督の私は“スペインの至宝”を預かっている……そんな身分に過ぎない。
「うーん、どうしても負けたくない相手が、見つかった。だから、もっとレベルアップしたいんだ」
「負けたくない相手? ジュニアユースの選手にか? それともトップチームか?」
「いや、12歳の同じ年だよ」
なんと信じられない発言だった。
ヨーロッパの同年代の中でも、今のところセルビオの才能は突出している。
それなのに、負けたくない相手が見つかっただと?
一体どこの誰であろうか?
だが思い当たるふしがない。
何しろ最近のスペイン国内の大会や、ヨーロッパのジュニア大会でも、この少年は敵なし状態だった。
特に苦戦をした記憶はなく、ライバルの存在を監督の私は知らないのだ。
先週の“U-12ワールドカップ”でも、決勝戦以外はハットトリックを決めて、無双状態だった。
「ん? もしや“U-12ワールドカップ”の決勝戦で戦った、日本の……あの9番か?」
最近での唯一の黒星といえば、“U-12ワールドカップ”の決勝戦だけだ。
相手は日本のリベリーロなんとか、という街クラブ。
エース9番の少年のことなら私も記憶があった。
あの少年はアジア人にしては、珍しいタイプのストライカーだった。
順調に成長していけば、将来的にはヨーロッパでも通用するであろう。悪くはない素質だった。
だが、この至宝セルビオ・ガルシアの才能とは、比べものにならない印象だったはず。
「日本の9番? ああ、サワムラか。彼も素晴らしいね! きっと将来は日本の代表クラスになって、ヨーロッパでも活躍するよね!」
日本の9番……サワムラに対するセルビオの評価は、私より高いものであった。
彼は今後も急成長していくと見ているという。
この少年が他の同年代のことを、これほど褒めるのを初めて聞いた。
「では負けなくない相手は、違うのか、セルビオ?」
「ああ。オレのライバルは14番のコータさ!」
「日本の……14番?」
そう言われても、すぐに思いだせなかった。
あの日本チームで9番以外に、目立った選手はいないはず。
例外として7番の少女は記憶にある。
まだ11歳ならが、我がスペインチームの守備陣を圧倒した少女。あの子は将来すごい選手になるであろう。
だが女子選手は私の監督の管轄外である。
「14番……14番……ああ、あの選手か⁉」
ようやく思い出した。
日本の14番は、セルビオに終始マンマークについていた少年だ。
影の薄い選手だが、守備力だけはかなりのモノがあったと記憶している。
「だが、あの14番には致命的な欠点があるぞ?」
その欠点があったからこそ、私は14番の記憶が薄かったのである。
「彼には“光る才能”がない。残念ながら彼は今後、芽は出てこないであろう」
長らく監督をしていた私には、選手を見る目が備わっていた。
それは“才能がある子が光って見える眼力”である。
ちょっと大げさに聞こえるが、簡単に説明すると観察眼の一種だ。
これは他の経験のある監督やスカウトマンにも、ある経験的な能力である。
これによると将来的にトップチームや、代表で活躍する凄い選手は、幼い頃から“光るプレイ”をするのである。
最初は上手くない子でも、“光る”者は必ず爆発的に成長していく。
そのいい例が、目の前にいるセルビオ・ガルシアである。
数年前、この少年が入団テストを受けに来たとき、私や他のコーチは驚いた。
何しろセルビオはボールを触っているだけで、太陽のような強烈な光を放っていた。
だからその日の内にチームは、セルビオと彼の両親と契約を結んだのだ。
「残念ながら、あの14番は、あれ以上は昇ってこない。日本国内で終わる選手であろう」
それが私の最終的な見立てだ。
セルビオはサッカーの才能があるが、まだ幼い12歳。経験的な観察眼が足りないのであろう。
「そう言うと思ったよ、監督。でも、不思議じゃない? なんで、そんな選手がオレを1得点に抑えて、逆に2アシストも出来たんだい?」
「あっ……それは……」
諭したはずのセルビオから、逆に指摘され私は言葉につまる。
よく考えたら、そうである。
この至宝の少年を1得点に抑えるなんて、スペインのユース代表でも難しい。
それほどまでにセルビオの得点能力は、国内でも突出したのだ。
「特に最後の、コータのドリブルフェイントからのパス……あれには、流石のオレも驚いたね。抜かれた後に鳥肌ものだったね」
「最後の? あのドリブルに失敗して転んで、偶然足に当たって出したパス……がだと?」
その14番の偶然のプレイは覚えている。
あの偶然の積み重ねがなかった、我がチームは逆転優勝していたはずだ。
あれはセルビオのミスでもなく、アンラッキーだったはずだ。
「あれは失敗でも偶然もない……コータは狙って出した技だよ、監督」
「そんな馬鹿な……あれを故意にだと……⁉」
まさかセルビオの説明に絶句する。
何故なら、あのように転んだ状態で、正確なパスを出せるはずはないのだ。
私も元プロのサッカー選手として、その位の常識は分かる。
(だが万が一、セルビオの説明が正しいとしたら……)
そう考えた時、私は背中がゾクリとする。
あのような奇跡のプレイを、狙って出せる選手がいたら大発見である。
それも東洋のサッカー後進国の日本に、いたとでもいうのか?
あの14番……コータという少年は、それほどまでの素質の持ち主だったというのか。
「そういえば、コータは光っていたよ! 無色透明だけど、物凄い輝いていたよ! あとサワムラは氷のように青いけど、試合中は赤く燃えていたね。コータの可愛い妹はオレンジだったね!」
更に驚いた発言だった
なんとセルビオも“才能の光”が見えていたのだ。
しかも色だと……?
そんな話は、他の監督からも聞いたこともない。
もしかしたら天才にしか見えない、特別な観察眼なのかもしれない。
いや、“野生の勘”とでも呼ぶのであろうか。
「そんな訳でオレは、これからもっとレベルアップしていくから。よろしくお願いくね、監督! “男子三日会わざれば、刮目して見よ”だ!」
最後のは、いったい何語であろうか。
謎の言葉を言い残し、嬉しそうにセルビオは去っていく。
「日本の、リベリーロ、14番のコータか……」
私はその名を、もう一度つぶやくのであった。
◇
《サッカー素人なハーーナの小話》不定期便
“U-12ワールドカップ”は架空の国際大会ですが、モデルは〝ダノンネーションズカップ”という大会です。
FIFA(国際サッカー連盟)公認の“小学生年代のワールドカップ”と言われています。
世界32か国で開催され、毎年世界で250万人が出場という大規模な大会です。
ちなみに
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2014年:横河武蔵野FCジュニア 優勝
2016年:ヴァンフォーレ甲府U-12 2位
2013年:横浜F・マリノスプライマリー 3位
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と、ここ数年は日本のジュニアチームが凄い成績を収めています。
こうして調べてみると、日本のジュニア世代は世界でも凄いのですね!
では、今回の小話はここまで。
私にサッカーのことで教えたい情報があれば、いつもで感想でお気軽にどうぞです。




