第43話:世界大会に到着
“U-12ワールドカップ”
オレたちは今回の開催地のフランスに到着した。
リベリーロ弘前の一行はフランス国際空港に降り立つ。そのままバスに乗り換えて、大会の会場に向かっていた。
「おお、凄い! 外国だ!」
そんなバスの車内で、オレは大興奮してした。窓の外の景色に噛つく。
「おお、あれは大聖堂かな? あっちは城の跡地かな? 凄い、本当にフランスだ!」
窓の外の景色はTVで見た、まさにフランスであった。
石造りの町並みやレンガの建物。古い中世風な建造物などが並んでいる。
今年の“U-12ワールドカップ” の開催地はフランス。大会のメインスポンサーの関係で、今年はこの国で開催されるらしい。
「いやー、さすがは文化の国フランスだね」
バスの外の景色に何度も感動する。
前世のオレは世界史が大好きであった。
特に中世風でファンタジーな世界も大好物。サッカーと共に尊い趣味の一つである。
そんな夢にまで見たフランスの街並みが、目の前にあった。まさに鼻血ものである。
ここまで飛行機はかなりの移動時間だったが、その疲れも興奮で吹き飛ぶ。
「あっ。見て、ヒョウマ君。大きな川があるよ! もしかしたら、セーヌ川かな?」
何となくオシャレな川が見えてきた。隣の席のヒョウマ君に聞いてみる。
「あれは違うぞ、コータ。セーヌ川は、もう少し先だ」
「なるほど。そっかー、ヒョウマ君はフランスに来たことがあるんだね」
セレブな澤村家は毎年、海外旅行に行っている。ヒョウマ君も幼稚園の時から、ヨーロッパ旅行を経験していたのだ。
ちなみに今回のリベリーロ弘前の、旅行費用は全てタダである。
大会主催者とサッカー協会の方で、経費を負担してくれたのだ。
タダと言っても、選手は12人と監督は一人まで、という条件付き。
だからオレたちも今回は、『レギュラー選手8人+控え4人とコーチ1人』という少数精鋭で、フランスにやって来た。
他のチームメイトは日本に残って、ネット配信で応援してくれる予定だ。
「おい、コータ。あんまりはしゃぐなよ。……って言っても、この様子じゃ、仕方がないか?」
コーチは注意を半分諦めていた。
何しろオレ以外のチームメイトも全員、バスの中で興奮している。
空港を出発した時から、バスの中はお祭り騒ぎである。
好奇心旺盛な小学生たちは、初めてのヨーロッパの景色に興奮しているのだ。
冷静なのはヒョウマ君だけだった。
「じゃあ、騒いだままでもいいから、耳はこっちを向けてくれ。今後のスケジュールを発表するぞ!」
「「「はい、コーチ!」」」
スケジュールと聞いて、オレたちは姿勢を正す。
いよいよ“U-12ワールドカップ”の詳細なスケジュールが、発表されるのだ。
「今日はこのまま練習場に行く。そこで軽く身体をほぐしておけ。でも無理はするな。その後はホテルで休憩だ。時差ボケの調整もあるから、気を付けろよ」
日本とフランスでは、かなりの移動距離と時差がある。
だからリベリーロ弘前は余裕をもって、前入りしていた。
これは万が一の飛行機トラブルへの対応と、こうした体調の調整をするためだ。
「明日じゃ開会式があって、その後に練習がある。そして本番の試合は、明後日の朝からだ。一日何試合もあるから、気合入れていくぞ」
大会の第一試合は、明後日の朝からとなる。
32国チームを8グループかに分けて、リーグ戦で予選を行う。一日に3試合もあるので、かなりハードなスケジュールだった。
「上手く予選リーグを突破できたら、次の日がトーナメントだ。そのまま準々決勝と準決勝、最後は決勝戦がある」
予選を突破した8チームだけ、最終日のトーナメントに出場できる、日本でもよくある方式。
合計2日間で、一気に優勝チームを決定するという日程だ。
(最多で2日間で6試合か。かなりハードだな。だが、なんとかなるか……)
オレはスケジュールを再確認する。
日本のジュニア大会でも、今回と似たケジュールは多い。一日に2、3試合はザラである。
その辺の調整は、オレたちは大丈夫であろう。
(あとは外国のプレッシャーか……)
リベリーロ弘前にとって、今回は初の国際試合となる。
特有の空気に飲まれず、チームの皆が全力を出せれば何とかなるであろう。
「よーし、会場が見えてきたぞ。今日と明日のスケジュールは、さっき言った通りだ。団体行動を忘れるな!」
「「「はい、コーチ!」」」
バスはパリ市内にあるサッカーパークに到着した。
いよいよオレたちはパリの大地を踏むのである。
◇
フランス到着の初日、その後。
この日は予定通りに進めていく。
パリ市内にあるサッカー練習場で、皆で身体を慣らしていく。
フランスの風景と空気に、チームメイトの身体は固かった。
この日は旅の疲れもあるので、コーチも無理はさせない。
時差ボケの調整をしながら、ホテルでゆっくり休む。
◇
フランス2日目になる。
午前中は開会式に参加した。
ヨーロッパ式のお祭りのような、派手な開会式だった。
その後は大会場所に、練習に行く。
天然芝が8面もある、広大なサッカーパークである。
さすがはヨーロッパのサッカー文化は、日本とは比べものにならない。
「よーし、お前たち。明日からの試合はここで行う。今日の内にフランスの芝に慣れておけ!」
「「「はい、コーチ!」」」
そう元気よく返事したが、リベリーロ弘前の面々は緊張していた。
「おい、あれ、ブラジル代表だよな……?」
「あっちはイタリア代表か……」
「みんな、上手いな……」
「それに身体が大きいな……」
他の31カ国のチームも、周りで練習していたのだ。
各国の代表ユニフォームを着た、300人以上の異国の子供たちの光景。
そのプレッシャーに押されていたのだ。
「じゃあ、ヒョウマ君、いくよ!」
「ああ」
そんな重いプレッシャーの中、オレはパス練習を始める。
確かに外国人だらけの、この場の雰囲気は緊張する。
だがオレとヒョウマ君は、元U-15代表を経験していた。あの時のプレッシャーに比べたら、たいしたことはないのだ。
「おーい、みんなも、やろうよ! ここの天然芝、キレイだよ!」
「お、おう、そうだな、コータ」
「オレたちもやろうぜ!」
「そうだな!」
リベリーロ弘前の面々は動き出す。
オレの誘いに練習を始める。
「なんだ……フランスの芝も日本と同じだな」
「そうだな。同じだな!」
ボールを蹴りだしならが、皆の表情が変わる。
さっきまでの重いプレッシャーが消えていくのだ。
「コータのお蔭で、私もリラックスできた」
「「「えー、コーチも⁉」」」
「緊張していたの⁉」
「なーんだ! わっははは……」
そんな感じでいい笑いながら、全員がリラックスしていた。
これなら明日からの本番でも、本来の力を発揮できそうである。
いい雰囲気に、キャプテンであるオレもホッとする。
◇
そんな時、事件は起きる。
「あっ……返せよ!」
チームメイトの一人が、誰かに向かって叫んでいた。
いったい、どうしたのだろうか?
オレはヒョウマ君とのパス練習を中断して、そちらに向かう。
仲間同士の喧嘩とかでなければ、いいけど。
「ねえ、どうしたの?」
「おう、コータ。あいつが、オレのボールを、いきなり奪っていったんだ!」
「えっ?」
練習していたボールを誰かに取られて、チームメイトは困っていたのだ。
この場所に部外者は入れないはず。
では、いったい誰がボール?
『ヘーイ。最近の日本人はサッカーが上手いんでしょ? このオレから奪ってみてよ!』
ボールを奪っていた相手は、外国の少年だった。
オレたちにスペイン語で挑発してきた。
(えっ……あの子は……⁉)
相手のユニフォームと背番号。その面影のある顔を見て、オレは心の中で絶句する。
(あの選手は……そんな、まさか……⁉)
相手の選手に見覚えがあったのだ。
間違いなく前世で穴が開くほど見ていた選手の、若き日の姿である。
(そんな、将来のスペイン代表が、こんな所で……)
前世ではスペインA代表でありながら、スペインリーグの得点王&MVP。
「“無敵王子”セルビオ・ガルシア……だと……」
その伝説のスーパースターが目の前の降臨したのだ。




