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素人おっさん、第二の人生でサッカーライフを満喫する 作者:ハーーナ殿下@青森県弘前市
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第25話:決勝の行方

 全国大会の決勝戦が始まっていた。
 競技場は観客の歓声と、どよめきに包まれていた。

『リベリーロ弘前ひろさき、ゴーール! 4点目で、逆転としました!』

『横浜マリナーズ、ゴーール! 4点目で、同点に追いつきました!』

『リベリーロ弘前ひろさき、ゴーール! 5点目で、また逆転としました!』

『横浜マリナーズ、ゴーール! 5点目で、また同点に追いつきました!』

 実況者のアナウンスが、次々と競技場に響き渡る。
 なんと決勝戦は、激しい点の取り合いとなっていたのだ。

 互いに攻撃特化の作戦で、殴り合いのように点を取り合う。
 逆転と同点が、目まぐるしく入れ替わる。

 今までの全国大会の決勝の歴史では、あり得なかった展開にどよめきが。
 激しすぎる展開に、観客たちが大興奮していたのだ。



「お前たち、もう守りを固めろ! 相手のペースに合わせるな!」

 横浜マリナーズの監督はベンチから、大声で指示を出していた。
 まさかこんな乱打戦なるとは、予想していなかったのであろう。
 マリナーズの本来の強みである、強固な守備を指示していた。

「ヒョウマ君、相手が守りに入った。今がチャンスだよ!」
「ああ、コータ。オレ様もそう思っていたところだ!」

 だがオレたちは見逃さなかった。
 相手が守備寄りの陣形になった、その瞬間に襲いかかる。

『リベリーロ弘前ひろさき、ゴーール! 6点目で、また逆転としました!』

 ヒョウマ君の強烈なシュートが、相手ゴールに突き刺さる。
 相手の強固な守備を、ヒョウマ君得意の南米仕込みのドリブルで切り裂いたのだ。

「お前たち、いいぞ! 更に追加点を狙え!」
「「「はい、コーチ!」」」

 オレたちのコーチが、ベンチから指示を出してくる。
 こっちは勝っていても守備を固めずに、更に追加点を狙っていけと。興奮気味である。

「コーチもノリノリだな」

 試合中にも関わらず、オレは思わず苦笑する。
 前半ではコーチも、オレたちの超攻撃的な戦術に驚いていた。

 だが王者横浜マリナーズと互角に打ち合うオレたちの姿に、いつの間にかコーチも大興奮していたのだ。
 後半戦の今では、更なる攻撃を指示してくれる。戦術を子供たちに一任してくれるコーチに感謝だ。

「見たか、コータ。これでオレ様は3得点。お前は2得点だ」
「さすがはヒョウマ君。でもボクにも、まだチャンスはあるよ!」
「葵も頑張る!」

 今のところ得点勝負は、ヒョウマ君が3得点でハットトリック達成。
 オレが2得点で、妹の葵が1得点である。

 試合開始前に誰が一番多く得点できるか、この3人で勝負していた。
 だが、ここまで乱打戦になるとは、オレも予想は出来なかった。

 一方で横浜マリナーズも前半は、攻撃的な戦術で攻めてきていた。
 対するオレたちリベリーロ弘前も、超攻撃的な戦術。
 その両者の戦術がかみ合った、奇跡の乱打戦と言っても過言ではない。

『横浜マリナーズ、ゴーール! 6点目で、また同点に追いつきました!』

 また相手に同点に追いつかれた。
 さすがは王者の横浜マリナーズである。
 圧倒的な選手層の厚さと連携で、うちの守備陣をずたずたに引き裂いていく。

「コータ、すまん。また同点にされてしまった……」
「大丈夫です、キャプテン。またオレたちが逆転しますから!」
「ああ、頼んだぞ!」

 守備の要であるキャプテンは謝ってくる。
 だが今の同点は仕方がない。
 むしろ、この状況なのに6点で済んでいる、先輩たち守備陣に感謝だ。

「さて、どうするコータ? 時間帯的に、この状況は少しヤバいぞ?」
「そうだね、ヒョウマ君……」

 今の同点打でちょっとマズイ状況になった。
 今のところ試合展開は、一進一退で同点である。

 だが残り時間が、あとわずかなのだ。
 あと1、2回の攻防で、試合時間は終わってしまうであろう。
 今までの流れなら、時間的に同点で終わってしまう。

 決勝ルールでは同点の時は、延長戦を行う。
 それでも決しない場合は更にペナルティキック方式により、勝利チームを決定するのだ。

「延長戦はマズイね、ヒョウマ君」
「ああ、そうだな」

 これはオレとヒョウマ君の意見の一致である。
 延長戦になったら、選手層の厚い横浜マリナーズは有利なのだ。
 集中力の切れてきた、先輩たち守備陣が壊滅してしまうであろう。

「よし、それなら、ボクに考えがある。ヒョウマ君、葵。最後のワンプレイは、ボクに任せて!」
「なんだと⁉ ちっ、仕方がない……その代わりに、必ず決めろよ、コータ」
「葵はもちろん、お兄ちゃんを全力でサポートするね!」



 そんな緊張の中で、決勝戦の残り時間は刻々と過ぎていく。
 今も6対6の同点のまま。

 状況は自軍の蹴るフリーキックからスタートである。
 守る横浜マリナーズはガチガチに、ゴール前の守りを固めていた。

「よし、ここを守り抜けばオレたちマリナーズの勝ちだぞ!」
「ボールを半個分の隙間も空けるな!」
「全員で守備に付けろ!」

 彼らは勝利を確信していた。
 何しろ選手層の厚さと総合力は、横浜マリナーズの高い。
 このまま延長戦に持ち込んだら、自分たちマリナーズが絶対に勝つと、確信しているのであろう。

「よし、予想通りにガチガチの守りか。じゃあ、ヒョウマ君、フリーキックは君が蹴ってちょうだい」
「ああ、オレ様しかいないな」

 オレは相手の守りを見て、頭の中でイメージを作る。そしてキッカーを隣のヒョウマ君に指名する。

「あと、ヒョウマ君。蹴るのは、あの場所に、こんな感じで蹴って欲しいんだけど?」
「あの場所を狙えだと⁉ コータ、お前、正気⁉」

 オレの指示した場所は、相手の守備のDFのある場所。ボール半個分も失敗できない小さな空間である。

「たしかに最高難易度……でも、ヒョウマ君なら絶対に大丈夫! ボクの信じるヒョウマ君なら、絶対に狙えるから!」
「『ボクの信じるか』……ああ、このオレ様に任せておけ!」

 ヒョウマ君は頼もしい笑みで返事をしてくれた。
 そしてフリーキックを決めるために、真剣な表情になる。集中力を極限まで高めているのだ。

「さて、葵はフリーキックと同時に、あそこに走り込んで! こぼれ球を本気で決める気迫で」
「うん、分かったお兄ちゃん!」

 葵にも作戦を伝える。
 これで最後の作戦は整った。

ピピー。

 審判の開始の笛の音がなる。
 いよいよ決勝戦の最後のプレイ。

「いくぜ!」

 ヒョウマ君が叫びながら、ボールを蹴る。
 作戦通りに寸分の狂いもなく、指示の場所にフリーキックを決める。

 だが相手も覇者横浜マリナーズ。屈強な守りでフリーキックを止める。

 止められたボールはゴール前の、ちょうど誰にいない場所に転がっていく。
 オレの作戦通りの状況である。

 そのこぼれ球に葵が走り込む。
 相手の守備陣は、葵に反応して動き出す。葵の前方に守備の壁が出来てしまう。

「今だ!」

 オレはその瞬間を見逃さなかった。
 こぼれ球に誰よりも早く反応して、ボールを奪う。味方の葵よりも先に、ボールを奪ったのだ。

 これは幼稚園の頃から今まで鍛錬してきた、スポーツビジョンと判断力の賜物。
 オレは誰よりも早く一歩目を、動き出していたのだ。

「14番を止めろ!」

 相手の守備陣もすかさず反応する。
 オレに向かって、例のエースの3人が迫ってくる。

 目の前には強固な包囲網がしかれてしまった。
 ボール1個すら逃げ出す穴はない。オレは完璧に包囲されてしまったのだ。 

 誰の目にも、そう見えていたであろう。

 このオレ以外には!

「いくぞ!」

 オレは敵の3人に向かって、ドリブルで突撃していく。
 そして三人にボールを奪われそうになった瞬間……“一つの技”を繰り出す。

 オレの身体はボールと共に、相手の視界から姿を消していくのだった。



『あっ…………? リベリーロ弘前ひろさき、ゴーール! 7点目で、最後にまた逆転としました!』

 数秒後。

 沈黙の後、アナウンスの興奮した声が響き渡る。
 オレが包囲網を突破して、逆転ゴールを決めたのだ。

ピッピー!

 そのまま試合終了の審判のホイッスルが、芝生のピッチに響き渡る。

「ふう……勝ったのか……」

 競技場の電光掲示板を見つめながら、オレは息を吐き出す。

 そこに映し出されたのは『7対6 優勝 リベリーロ弘前ひろさき』という文字。
 オレたちは勝利した。

 全国大会で優勝することが出来たのだ。



「やったな、コータぁぁ!」
「凄いぞ、コータぁぁ!」

 少しの静寂があってから、競技場に大歓声が起こる。
 そして先輩たちがオレに駆け寄ってきた。
 オレの全身を興奮して叩いてきた。凄い力だ。

 痛い、痛い。
 最後の技で少し無理をしてしまった。
 その影響で満身創痍なんだから、もう少し優しくしてくだい先輩たち。

 でも先輩たちが頑張ってくれたお蔭、ここまでこられた。
 本当に皆の力でつかんだ勝利だった。

「やったね、お兄ちゃん! さすがは私の自慢のお兄ちゃん!」

 妹の葵が興奮のあまり抱きついてきた。
 葵はもう3年生だし、けっこう女の子っぽくなってきた。だから大観衆の前で抱きつかれるのは、少し恥ずかしい。

 でも葵がおとりになってくれたお蔭で、オレは最後に点を決められた。
 本当に感謝している。

「ふん。やったな、コータ」
「ヒョウマ君もナイス、フリーキック」

 最後に待っていた、ヒョウマ君とハイタッチをする。
 ヒョウマ君もクールな笑みを浮べていた。

 それにヒョウマ君の最後のフリーキックは本当に凄かった。
 あの難しい指示のキックを、見事に決めてくれた。世界トッププレイヤーみたいな正確さだった。

 そのお陰でオレはドンピシャで、ルーズボールを奪えたのだ。

 最後の1秒までギリギリの戦いだった。
 勝てて本当によかった。



「うっうっ……」
「う、うっうっ……」

 オレはふと気が付く。
 天然芝の競技場ピッチ・フィールドから泣き声が聞こえてきた。

 負けたチームの選手……横浜マリナーズの選手たちが泣いているのだ。
 芝生に倒れ込みながら、顔を両手で隠しながら泣いていた。

「あっ……」

 オレは思わず言葉を失う。
 それは去年の準々決勝で負けた、オレたちと同じだったのだ。

 むしろ、それ以上に悔しそうに全員が泣いていた。
 彼らはJリーグの名門のJジュニアチームである。常勝を期待されて、ずっと練習して戦ってきた。

 それだけに決勝戦で負けてしまったことが、本当に悔しいのであろう。誰ひとり立ち上がれずにいた。

「いこう、ヒョウマ君」
「そうだな、コータ」

 そんな横浜マリナーズの選手たちに、ヒョウマ君と近づいていく。

「ナイスプレイでした。最後の挨拶があります」
「う、うっうっ……そうだな、14番……ありがとな……」

 オレたちは彼らに声をかけて起こしていく。
 そっと背中に手を当てて、立ち上がるのをサポートしてあげる。

 相手の8人の選手に、一人ずつ声をかけていく。敬意をもって接していく。

 彼ら横浜マリナーズは本当に強敵だった。
 圧倒的な才能と、積んできた練習の技の数々。去年のチームを上回る強敵であった。
 そんな彼らだからこそ、尊敬の念をもって起こしていく。

『国際試合のサッカーは戦争』とも言われる。
 だが同時に世界一の紳士のスポーツであり、スポーツマンシップを重んじる競技だ。
 サッカーを通じて心身を鍛え、相手をリスペクトの精神を養っていくスポーツなのだ。

 こうしてオレたちは相手を全員起こしていく。
 両チームの全員が中央に集まり整列した。

「7対6、リベリーロ弘前ひろさきの勝利です。互いに礼!」
「「「ありがとうございました!」」」

 審判の声に続き、両チームの子供たちが声の限り叫ぶ。
 頭を深く下げて、互いの健闘を称え合う。

 互いに握手し合って、言葉を交わしあう。

 お前のドリブルは凄かった……

 君の守備は半端なかったよ……

 あのキックはどう蹴るんだ?……

 また、やろうぜ……

 そんな感じで、サッカー少年たちは互いに語り合う。
 全力を出し合い、戦った相手だからこそ、分かりあえる瞬間であった。

「ふう……終わったな……」

 そんな青春の光景を見つめながら、オレは深く息を吐き出す。
 長かった全国大会が、こうしてようやく終わったのである。
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