挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
素人おっさん、第二の人生でサッカーライフを満喫する 作者:ハーーナ殿下@青森県弘前市
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

23/68

第23話:大会2日目、3日目

 全国大会の2日目がスタートする。

 今日は午前中に、1次予選リーグの第3試合が行われる。
 オレたちリベリーロ弘前ひろさきは2連勝で、既に予選突破を確定していた。
 この第3試合は負けても、午後のベスト16のトーナメントに進出できる状況だ。

「この第3試合、無理はするな。去年の二の舞になる。だが気を引き締めていけ!」
「「「はい、コーチ!」」」

 試合前にコーチから指示が出る。
 “去年の二の舞”……昨年の全国大会で、オレたちは予選からギリギリの戦いをしていた。

 そのお陰でレギュラー組から故障者が続出。他に比べて選手層の薄いリベリーロ弘前は、その影響でベスト8敗退したのだ。

 その失敗を繰り返さないように、今年のコーチは作戦を立てていた。

 いよいよ第三試合が開始となる。

「そこで見ていろ、コータと野呂妹」
「うん、前半は任せたよ、ヒョウマ君!」

 その作戦とは前半、オレと妹の葵がベンチで待機。ヒョウマ君は前半からの出場である。

 これにより実質的なチームの攻撃力は、減少するであろう。
 だが主要選手のスタミナは節約できる。
 午後からのベスト16のトーナメントを考えた、秘策なのだ。

「先輩たち、前半は頼みます」

 ベンチにいるオレは、戦いの場に向かう先輩たちを送りだす。
 正直なところ、この作戦は不安なところもある。第三試合に負けてしまえば、チームの流れが悪くなってしまうのだ。

 それに今思うと緊張してきた。
 そういえばオレがこうしてベンチで、自軍の公式戦試合を見ているのは初めてなのだ。

「コータ、任せておけ! オレたちも先輩として、カッコイイところを見せてやる!」
「そうだな。5、6年の意地を後輩に見せてやろうぜ!」

 キャプテンをはじめとした先輩たちは、そんなオレに頼もしかった。
 彼らにはたしかにヒョウマ君や、名門ジュニアの選手のように天賦てんぶの才能はない。

 だが“サッカーを大好き”という気持ちは、他の名門チームにも負けていなかった。
 小学1年生から6年間続けてきた、彼らのサッカーへの想いをオレは信じて待つ。



 第3試合がスタートする。
 試合は前半0対0のまま均衡して進んでいた。
 相手は強豪チームであり、死ぬ気で攻めてきていた。

 それを自軍リベリーロ弘前は、耐えに耐えた。6年のキャプテンを中心に、先輩たちが身体を張って守ってくれたのだ。

 そして前半の最後。ヒョウマ君が動く。
 稲妻のようなカウンターで、見事に1点を入れたのだ。

 これで1対0前半を終える。

「よし、作戦通り、後半はヒョウマを下げる。野呂兄妹、後半は頼んだぞ」
「「はい、コーチ!」」

 ヒョウマ君と先輩の一人はここで交代。
 次はベンチに待機していた、オレと葵の出番である。

「コータ、後は頼んだぞ」
「お疲れさま、ヒョウマ君。後はボクが体力を温存させならが、全力でたくさん頑張るよ!」
「なんだ、その矛盾は? まあ、お前らしいな」

 気のせいか、ヒョウマ君が笑ったような気がする。
 いつもはクールで冷静沈着なヒョウマ君が?
 もしかしたらオレの頑張りが、評価されたのかもしれない。

「お兄ちゃん、後半は一緒に頑張ろう!」
「ああ、そうだな、葵。お父さんとお母さんも、いいところを見せないとな」

 ヒョウマ君のことは置いておき、試合に専念しないと。観客席には今年も両親が応援に来ていた。
 もうすぐ後半戦がスタートするのだ。

 さて、後半の前に状況を、もう一度確認しよう。
 得点は1点差で勝っている。
 これならオレのいつもの全力プレイではなく、7割くらいの力でいけそうだ。

 だが油断する訳ではない。緩急をつけて、試合を展開していくのだ。

(イメージとしては未来のアノ選手を意識しよう……)

 オレは脳内に一人の天才プレイヤーを思い浮かべる。
 そのサッカー選手は前世で世界トップクラスと言われた。

 彼は未来のサッカーでは考えられないほど“走らない” 選手。それでありながら世界最高峰の結果を出していたのだ。

(今日オレは……ゆっくりとボール回しに参加して、得点のチャンスの時に体力を効率的に。あとは勝負のポイントを見極める……それでいこう!)

 未来のその選手の動きを、脳内でシンクロさせていく。
 これまではオレは、彼を真似することも不可能であった。だが最近は右足が軽く、全身の調子もいい。

 これなら少しくらいな、いけそうな気がする。体力の消費を最低限にして、攻撃をしていくことが出来る。

 それに勝っているオレたち攻め続ければ、守備の先輩たちも体力を回復できる。
 後半はオレのゲームメイクの腕の見せどころだ。

 よし! 気合いを入れていこう。



 こうして後半が始まる。
 作戦通りに展開は進んでいく。

 オレはスポーツビジョンと判断力で、試合をコントロール。相手の攻撃を先読みして、柳のように受け止めていく。

 そして相手の隙を見つけて、反撃に映る。
 最終的にはオレのラストパスから、葵が華麗に1点を決めて、2対0で勝利した。

 オレたちは全員の体力を温存しつつ、3連勝でベスト16のトーナメントへ進出したのだ。



 その日の午後に全国ベスト16のトーナメントがスタートする。

 オレたちの相手はJリーグのジュニアチームであった。
 だが昨年戦った横浜マリナーズU-12よりは、強くはなかった。

 そのお陰もあり、2対1で勝つことができた。
 結果の得点だけ見れば、かなり僅差きんさである。

 だがオレはそこでも“緩急つけたプレイ”を実践していた。
 午前よりは、上手くできたような気がする。オレは中盤にいながら試合展開を、ある程度コントロールできたのだ。

 そのお陰で僅差でも試合は危なげなかった。オレたちは主力選手をローテーションさせて、体力を温存できたのだ。



 次の日の全国大会3日目となる。

 この日は午前中に準々決勝、午後に準決勝が行われる。
 かなり大事な一日である。

 なにしろ昨年、リベリーロ弘前は準々決勝で敗退。
 つまり自分たちが超えられなかった場所に、再び挑むのである。

 だが不思議なことに、オレたちのチームは落ち着いていた。
 上手く言えないが、全員が波の乗っていたのである。勝利という運気に乗っていたのだ。

 更に初出場の昨年とは違い、スタミナ配分も万全であった。
 大会1日目は全力で予選に挑む。

 二日目は余力を残しながら戦う。
 これにより3日目の今日も、全員の身体が軽いのだ。

 昨年の満身創痍まんしんそういと違う。
 三日目の今朝は、昨年とは別人のように、全員が爽やかだった。旅館の朝ごはんも、もぐもぐ食べていた。

 それからオレたちは選手層が、前より厚くなっていた。
 昨年はオレとヒョウマ君の2人だけが、攻撃陣で奮戦していた。
 だが今年は期待の星であるあおいが、攻撃陣に加入している。

 また5、6年の先輩たちも昨年より成長していた。
 昨年の全国大会を経験したチームとして、精神的にも肉体的も。全てにおいて成長していたのだ。

 それにオレは新しい“緩急つけたプレイ”を順調に使いこなしていた。
 周りから見れば歩いているような、怠慢たいまんなプレイスタイル。だが実戦では効果は絶大だった。

(ああ、このチーム……リベリーロ弘前は本当に強い)

 今年は何回も、オレはそう思っていた。
 だが今回のコレは、本物の直感に近い。

 そう思っていたら、試合が終わっていた。



【準々決勝は2対1で勝利】

【準決勝は3対1で勝利】

 オレたちのチーム、リベリーロ弘前はトーナメントを勝ち抜いていたのだ。

「おおおお! やったな、コータ! ナイスゴールだ!」
「さすが、お兄ちゃん!」
「ふん。オレ様の次くらいに、たいしたものだな、コータ」

 気が付くとキャプテンの大声が、聞こえてきた。それに葵とヒョウマ君の声も。

 気が付いた時は準決勝であった。
 なんとオレが3点目を入れた場面であった。

 その前の準々決勝と、準決勝の内容も微かに、自分の記憶が残っていた。
 ちゃんとオレはいつものように試合もしていたのだ。

 これは不思議な感覚であった。
 例えるなら“究極に研ぎ澄まされた日本刀”ような感じ?
 不思議な感覚にオレは陥っていたのだ。

 集中しすぎて、おれは未知の感覚に陥っていたのかな? 
 とにかく勝ち進めたことは、本当に嬉しいことだ。

「うん、みんな、ありがとう。これで、いよいよ、だね……」

 こうしてオレたちは勝ち進んだ。
 明日は決勝戦。
 全国大会の最後の一戦だった。

 相手はもちろん、横浜マリナーズU-12。
 全国大会2連覇中の強豪チームに、オレたちは挑むのであった。



 その日もオレたちは常宿に戻った。
 鹿児島県の会場の近くにある旅館。
 この三日間、お世話になっているので、帰ってくると落ち着く感じがする。

「夕飯を食ったら、風呂に入れ。明日は決勝戦だ。今日は早く寝ろ!」
「「「はい、コーチ!」」」

「オレも今宵は寝酒を断つ!」
「えっ、コーチが寝酒を?」
「大丈夫かな?」
「むしろコーチが寝られなそう!」

 メンバー全員とコーチで夕食を食べる。
 酒好きのコーチの断酒宣言に、誰もが笑い声を上げていた。明るく、いい雰囲気である。


 夕食後は大浴場に皆で入る。
 今日ばかりは誰も、湯船でバカ騒ぎをしていない。
 連戦で汚れきった、自分の身体を丁寧に洗っていた。


 風呂の後は全員で、ストレッチとマッサージタイム。連戦の自分の疲労を、誰もが労わっていた。 
 サッカーで傷だらけの両足。アザだらけの全身。
 サッカー少年たちには勲章のようなものだ。


 その後は自分のスパイクシューズを、布で磨いていく。
 練習のし過ぎで、全員の靴がボロボロになっている。
 本当はそろそろ新品に買い替えないといけない。

 でも“勝利のゲン担ぎ”のために、全員が使い古したのを履いていた。
 そんな愛着のある相棒を、チームメイトみんなで丁寧に磨いていく。



「おい。あと、1時間で消灯だぞ。そろそろ、寝る準備を……って……」

 そんな中。
 見回りに来たコーチは、声を止める。消灯一時間前に、子どもたちは爆睡していたのだ。
 自分のサッカー道具を、抱えたまま寝ていたのである。

「やれやれ風邪ひくなよ……」

 コーチは子どもたちに、静かに布団をかけていく。そして各部屋の電気を消していくのであった。

 こうしてリベリーロ弘前の決勝戦前夜は更けていく。



「いよいよ明日は決勝戦か……」

 そんな中でオレは一人だけ起きていた。
 まだ消灯前なので、旅館のロビーに一人でいたのだ。

「そろそろボクも寝なきゃ……でも……」

 不思議と寝られなかったのだ。
 気分が高揚しすぎて、身体の疲労が眠気を越えていたのかもしれない。
 あと、少しだけロビーでリラックスしていよう。

「ん? まだ起きていたのか、コータ?」
「あっ……ヒョウマ君も?」

 そんな場所にヒョウマ君がやってきた。
 彼も気分が高揚して、眠れなかったという。

 いつもはクールで冷静沈着。完璧な精神状態と思えた、ヒョウマ君にしては珍しいことだ。
 ちょうどいい。
 ヒョウマ君とサッカーの話でもして、リラックスしてから寝よう。

「ところで、コータ。前から聞きたいことがあった。お前は“何者”だ?」
「えっ……?」

 まさかの質問であった。
 リラックスどころかオレは息が止まり、心臓音が激しくなってしまう。

 こうして全国大会の最後の夜が、本当の意味で始まるのであった。
ツギクルバナー
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ