表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/157

第1話:むくわれなかった前世

 これは日本によく似た世界の話である。


『地域サッカークラブ、30年の歴史に幕を閉じる』


 地元新聞の片隅にその記事を見つけて、オレは全身を震わせる。

 記事をよく読んでいくと、地元のプロサッカークラブが経営難に陥り解散したのだ。


「マジか……」


 何度読み直しても内容は覆らない。

 念のために地元のニュースサイトをスマホで確認してみるが、内容は同じものしかい書いていない。


「あのプロチームが消滅か……」


 地元のサッカーチームは30年前に、アマチュアチームとして発足した。

 最高潮の時は、国内プロサッカーリーグのJ3まで登りつめていた。

 J2→J1。あと2個昇格していけば、国内最高峰のJ1までいけた栄華の時代もあった。


「ここ数年は負けが続いたからな……」


 チームは数年前のある事件をきっかけに、ボロボロになってしまった。

 その後は修正も利かずに、どんどん順位が落ちていく。


 そして今年になり、ついに地方リーグまで降格。今日の解散発表となってしまったのだ。


「オレにもっと応援する力があったら……くそっ」


 今から15年前。オレは地元のサッカーチームを応援するサポートになった。

 サッカーは本格的にやったことは無い。

 だが高校生の時に偶然見に行った、試合でサッカーに魅了されたのだ。

 

 当時のオレは趣味や特技は何もなかった。

 だから全ての時間とお金を、チームの応援に使った。


 毎週のようにスタジアムに応援に行き、他県での試合にも足を運んだ。


「あの頃は本当に楽しかったな……」


 オレは地元チーム以外にも、サッカー業界にハマっていった。

 他の国内のJリーグや、高校生のサッカーの試合も観戦した。


 海外のサッカーリーグも大好きだ。

 試合は海外に見に行くことは出来ない。だからネット番組で毎晩のように情報収集していた。

 

 高校卒業後。仕事と睡眠以外の時間は、全てをサッカー観戦に費やしていた日々。

 そう言っても過言ではない。本当に楽しい15年間であった。


「でも、地元チームが解散か……」


 やっぱり一番応援していたのは、地元のプロサッカーチームであった。

 だが、それも今日になり解散消滅してしまった。

 

 言葉に出来ない虚無感が襲ってくる。

“チーム・ロス”とでも言うのであろうか。

 オレの心にポッカリと大きな穴が空いていた。


「神様は残酷だ。オレからこの足だけじゃ、全て奪うのかよ……」


 自分の右足に視線を向ける。そこには義足がはめられていた。


 オレは小学4年の時、交通事故で右足を失っていた。

 だから学生時代はリハビリに精いっぱいな。とてもスポーツをやる余裕はなかったのだ。


「それに父さん……母さん……あおい……」


 同じ事故で失った家族の名を、思わずつぶやく。

 オレは交通事故で両親と妹。家族全員を失っていた。当時小学生4年生だったオレだけが、こうして生き残ったのだ。


「みんな、オレも、もうすぐそっちに逝くから……」


 だがオレの余命はあと少しであった。

 交通事故の後遺症で、脳に治せない病気を抱えてしまったのだ。

 

 後遺症が再発して、今はこうして病院のベッドの上にいる。


 医者の話を盗み聞きした。

 オレは本来なら、もうとっくに死んでもおかしくない状況だと言う。


 ここ1年間は入院しながら、サッカーの試合をネットで見ていた。


「地元チームの試合を観たかった……だからオレは生き延びていたのかもな」


 交通事故で天涯孤独になったオレに、サッカーは生きる希望を与えてくれた。

 地元チームの活躍は、病を遠ざけていたのかもしれない。

 

 この小さな街を盛り上げるために、必死で試合をする選手たち。彼らからは生きる勇気をもらった。

 本当にサッカーには今でも感謝している。


「悔しいな……本当に悔しいな……地元チームが、Jリーグで活躍する姿を見たかったな……」


 いつの間にかオレは涙を流していた。 


 それは後悔である。


 もっとチームを強く応援していたら、解散は無かったのでは……という悔しさ。


 もっと早くから応援をしていたら、違う未来があったのでは……そんな涙。


「このオレにもっと力があれば……チームを救えてかもしれないのに……」


 そう呟きながら、病室にあったサッカーボールに視線を向ける。

 

 それは入院したオレのために、地元チームの選手たちがプレゼントしてくれたもの。


 後遺症に負けるなという激励の言葉……そんな選手たちの寄せ書き。

 この世界にたった一つだけの、オレの宝物である。


「オレにもっと力が……」


 サッカーボールに手を伸ばす。最後にもう一度だけ、ボール触りたかった。


 だが、それは叶うことはなかった。


 オレはそのまま意識を失ったのだ。



 右足と家族。

 そして生きる希望であった地元サッカーチーム。


 全て失い、オレは命の最期の火……それが消えてしまったのである。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 誤字脱字 「神様は残酷だ。オレからこの足だけじゃ、全て奪うのかよ……」
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ