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No.2の男

 【お勉強会】と言う名の研修。と言ってもきっと極々一部に触れただけであろう事は自分も理解をしていた。その研修も開店時間が近い。と言う事を理由に本日分は終わりとなり、俺は内勤さんの小林恭二さんの後に従いカウンター席に戻ると、カウンターの中に入り使用後に洗って水気を切っている最中のグラスを手に取り、冷蔵庫の中から炭酸飲料のジュースを注ぐと、グラス半分程を一気に飲み干した。自分が思っていた以上に緊張して喉も渇いていた事に、少しだけ驚いた。その後は、カウンター席で座って待機していると、お店の自動ドアが開き、着飾ったスーツやブランド物の服に身を包んだホストらしき人達がちらほらと顔を見せ始めた。俺はその入ってくる人達、1人1人に向けて大きな声でハキハキと。


 「おはようございます。本日からお世話になります東堂聖です。よろしくお願いします。」


 と挨拶を自分から率先して行うと、挨拶をした人達ほぼ全ての人が、俺の着ている【ジョルージオアルマーヌ】のスーツに目を見張りつつも。「おはようございます。」や「新人さん?よろしくね。」など挨拶を返してくれた。俺はその挨拶のやり取りを通じて、付き合いにくそうな人は居ない。と言う事に安心感を覚えた。


 そして、少しの時間が流れた後で、お店の自動ドアが開き、面接をしてくれたこの店の店長と内勤さんのリーダーだと言っていたこの店のマネージャーでもある、若林さんの2人が入ってきた。すると、既にお店の中に居たホストと内勤さんの全員が、店長と若林さんに向け挨拶をしていく。俺も自分から。


 「店長。若林さん。本日からよろしくお願いします。」


 そう声を掛けると、2人が俺に気付き店長から。


 「おっ!東堂君ちゃんと来てくれたね。良かったよ〜っと!それよりも何?その格好。それアルマーヌだよね?めっちゃ決まってるじゃん。そんな凄いスーツ持ってたんだね。」


 そう言われた。店長の隣に立つ若林さんも感心したような顔で見てきた。


 そんな店長や若林さんとやり取りをしていると、俺が先程店に入ってきたホストと思しき人達の内で、特にカッコいい人が店長に声を掛けた。


 「この新人さん?は、店長かマネージャーがどこかのお店から引き抜いて来たの?それとも、東京とか大阪なんかで働いてた方を連れて来たの?」


 とどう見てもホストとして働く事が今日初めての日を迎えるド素人には見てくれない、格好をしている俺の事を尋ねていた。


 「そうだよね。この格好見たら経験者。しかもそれなりの地位に就いてたような経験者に見えるよね。この子は誠の友達で【東堂聖】君。彼、今日がホスト初めての日なのよ。」


 とその話し掛けて来ていたホストの人に返事をしていた。その後、その人と店長、若林さんの3人から。「その凄いスーツどうしたの?」とか「新人に絶対見えないよ。」等と言われたので、俺がこのスーツを手にした経緯を話すと、店長と若林さんは一応の納得を見せてくれ、そのホストの人からは少しだけ落胆の表情が伺えた。


 「あちゃ〜姫神さんは相変わらず手が早いと言うか運に恵まれてると言うか……こんな背も高くて顔立ちも整った新人さんを、自分の派閥にもう組み込んでるんだもんなぁ……僕が欲しかったよ君みたいな新人さんなら。」


 と話し掛けてきた。俺は「あっ!俺は誠と同じ姫神さんの派閥の人間なんだな。そうだよなこんな高価なスーツまで買って貰ってるんだから。」と1人納得していた。そして、俺に話し掛けてきて何故か残念がっている人の事を、若林さんが紹介してくれた。


 「聖。この人はウチの店のNo.2の【早乙女和哉(さおとめかずや)】。大先輩だからしっかりと言う事を聞いて仕事を教えてもらえ。そして、1日でも早く売り上げで抜かしてやれ。」


 そう言った。それを聞いて俺は初日を迎えたばかりのド新人なんだから止めて下さいよ。と心の中で思った。紹介された当人は、笑顔を見せて。「改めてよろしくね聖君。」と言ってくれた。優しい人なんだろうなぁ。とそう思った。


 そのあと直ぐに、店の入り口の自動ドアが開き、ドヤドヤと何やら話し合いをしながら、数人のホストが店に入ってくると、新たに出勤してきていたホストや内勤さん達に向け大きな声で挨拶をする誠達、外販に行って帰ってきた若手のホスト達だった。


 そしてこの店のNo.2だと紹介された、早乙女さんが誠の顔を見付けると近寄り。


 「こら誠!何でこんなカッコいい友達を店に連れてくるなら、先に俺に紹介しないんだよ。」


 等と冗談なのか本気なのか分からないが、そんな事を誠に言うと、誠は「早乙女さん、勘弁して下さいよ。姫神さんに会ったのもただの偶然なんですよ〜。」と必死に言い訳をしていた。


 それを少し微笑ましく見ていた俺に向け、一緒に掃除をしていて顔だけは先程から知ってはいた若手の1人が声を掛けてきた。


 「さっきも少しだけ挨拶と話しをしたけど、改めてよろしくな。俺は【工藤龍(くどうりゅう)】って言うんだ。気軽に工藤とか龍とか呼んでくれよ。お前の事も聖って呼んでいいか?」


 そう自己紹介を受け俺の呼び方を確認してきた工藤龍と名乗ったホストに「東堂でも聖でも呼びやすい様に呼んでくれたら構わないですよ。よろしくお願いします。」と返事をすると。


 「確かに俺の方が早くからお店に在籍はしてるが、聖と同じでテーブルの脚をおしぼりで拭く身分だから一緒だよ。もっと気軽に話し掛けて来てくれたらいいから。」


 と言ってくれた。そしてその後直ぐに誠から「工藤は早乙女さんの派閥の人間。」と言う事を聞いた。


 俺はその時に感じた素直な気持ちを誠にぶつけてみる事にした。


 「なんか派閥って言う言葉がよく出てくる感じなんだけど、そんなに沢山の派閥があるのか?後、何か対立関係みたい感じなのか?俺はこのスーツのおかげで、誠と同じ姫神さんの派閥の一員と見られてるみたいなんだが。あっ!嫌!もちろんお世話になった姫神さんの派閥が嫌って訳じゃないからな。あの人絶対に良い人だしな。」


 そう言うと誠からは。


 「まぁ派閥は確かに存在してるな。これも慣れたら分かってくるんだけど、ホストって意外とチームプレイが重要なんだよ。後、派閥はあるけど別に対立とかはしてないから。ただ、そのチームプレイを一緒に行う仲間。って感じの軽いモノだから。派閥間で争い事なんかは無いから。ウチのお店基本みんながみんな仲良いし。」


 とお店の人間関係が非常に良好である事を教えてくれた。確かに自分よりも格下のホストではあるが、姫神さん派閥に所属している誠に対しても可愛い後輩。の様に早乙女さんも接していたし、早乙女さん派閥だと教えて貰った工藤とも、今さっき改めて挨拶も交わした事から、派閥間で何かある訳でも無さそうだと、取り敢えずは安心した。派閥で争い競い合い等をしていたら楽しく働く事も出来なくなる。そう思ったからだ。

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