黄金の対価と勇者の影
1. 無造作な「略奪品」
ギルドマスター室を後にした俺たちは、再びミーナの待つカウンターへと戻った。
ギルドカードをしまい込み、身を翻そうとした時、ふと思いついた。
「あ、そうだ。魔石と素材の買取もしてもらえるか?」
「も、もちろんです! こちらのカウンターで承りますよ」
俺は『無限収納』に手を突っ込み、道中で仕留めた魔物の素材を、音を立てて無造作に放り出した。
「なっ……どこから出したんですか、それ!? 空間魔法の使い手ですか?」
「……たくさんありますね。ん? これは!!」
ミーナの目が、山積みの素材の中から一際異彩を放つ銀灰色の毛皮に釘付けになった。
「大牙狼の牙と毛皮! それにCランク魔石まで……! 間違いありません。ストリーマーのお二人は、やはりすでにCランク以上の実力がおありのようですね……」
鑑定のために奥から出てきた職員たちも、若すぎる二人が持ち込んだ「Bランクに片足を踏み入れた獲物」を見て顔色を変えている。
「数も多いのでお時間頂きますが、どうされますか? 明日にでもまた来られますか?」
「いや。行く場所もないし、金もない。ここで待たせてもらう」
「私は……読み書きの本はありますか?」
不意にリナが口を開いた。知力95に跳ね上がった彼女の脳は、新しい情報を猛烈に欲しているようだった。
「資料室に、読み書きや魔物、植物の初級本が置いてあります。持ち出しは禁止ですが、資料室内であればお好きなだけお読みください」
「アラト、私、資料室で本を読んでみてもいい?」
「ああ、もちろんだ。無理はするなよ」
リナの背中を見送り、俺は暇つぶしに依頼ボードへと足を向けた。
2. 騎士団の不名誉
まだ文字が読めない俺は、主に挿絵やマークを眺めていた。だが、一枚の依頼書に目が止まった。
(……この顔、まさか)
そこには、見覚えのある傲慢な男の似顔絵が描かれていた。近くにいた職員を捕まえて内容を読んでもらう。
「……今代の勇者、騎士団副団長ヴィンスが行方不明。目撃情報求む、か」
高級そうな紙、隅に刻印された騎士団の紋章。それはまぎれもなく、ヴィンスの捜索願だった。
「ヴィンス……まだ見つかってないのか。あいつ、あの高さから落ちて死んでないのかよ」
ふと気づけば、その豪華な依頼書は、掲示板の隅で埃を被りかけていた。汚れ一つない綺麗な紙面は、誰の手にも触れられていないことを意味している。
「なあ。これ、なんで誰も受けてないんだ?」
近くにいた中堅風の冒険者に声をかけると、彼は鼻を鳴らして吐き捨てた。
「……まあ、騎士団の依頼だからな。あいつらのために動こうなんて奴は、冒険者にはいねえよ。俺たちがドブをさらってる間、あいつらは綺麗な鎧を着て踏ん反り返ってるだけなんだからな」
冒険者と騎士団の確執。DFのゲーム設定にもあったが、現実はより根深く、冷ややかな空気が流れているようだった。
3. 24万8,000ガルドの「重み」
「ストリーマー様、窓口へお越しください」
ミーナの声に呼ばれ、資料室のリナと合流してカウンターへ戻る。そこには驚くべき金額が記された明細書が置かれていた。
【買取明細】
・Cランク魔石(大牙狼):100,000 G
・グレートウルフの毛皮:20,000 G
・グレートウルフの牙:80,000 G
・森林蛇の毒腺:25,000 G
・鉄猪の蹄(5頭分):20,000 G
・雑多な魔石・素材一式:5,000 G
合計:250,000 G
「入国税の立替金、お二人で2,000ガルドを差し引きまして、248,000ガルドのお渡しとなります。よろしければこちらにサインを……いや、拇印でもいいのでお願いします」
すると、隣にいたリナがスッとペンを取り、流れるような手つきで書類に自分の名前を書き込んだ。
「私が書くわ」サラサラ……。
「「え!?」」
俺とミーナの声が見事に重なった。
「も、文字書けたんですか!?」
「いいえ、さっきまでは書けませんでした」
リナが事もなげに答えると、ミーナは呆然と呟いた。
「さすが知力95……。サインありがとうございます。お支払いはギルドカードにチャージもできますよ。王都ならほとんどの店でカード払いが可能です」
「……それじゃあ、俺とリナのカードに10万ずつ入れてくれ。残りの4万8,000ガルドは現金でもらう」
「かしこまりました。確かに」
手渡されたのは、確かな重みを感じる革袋と、魔力を込めると残高が見れるギルドカードだった。
4. 日常への帰還と不吉な予兆
リナは、短時間でかなりの知識を吸収したのか、その瞳にはさらに深い理知の光が宿っていた。
「リナ、まずはまともな服を買いに行こう。今日は宿を取って屋根の下で寝るぞ!」
「……うん、アラト! 私、水浴びもしたいわ!」
泥と魔力の腐食にまみれた衣服をなびかせ、俺たちはギルドの重厚な扉から飛び出した。
無限収納の中で感じる金貨の音が、これまでの8年間のドブさらいを過去へと押し流していく。だが、背後の掲示板に貼られたヴィンスの似顔絵だけが、不気味な予兆として俺の意識にこびりついていた。




