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【御礼20,000PV到達】戸侯記  作者: 和音
■第四章■

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97/115

30-1 壱岐沖【文禄の役-第二次海戦】

難しかったです。

なんとか情景が浮かべばいいのですが……汗)


天正二十年(1592年)神無月(かんなづき)(10月)中旬――壱岐・勝本城。


夜明け。

空は薄く晴れ海は()いでいた。


だが――城内の空気は重かった。


「……三日、ですか」

半佐(はんざ)の声は低かった。

板の間に座る永重(ながしげ)は帳面を閉じた。

「対馬への補給が三日遅れている」


重兼(しげかね)が腕を組む。

釜山(プサン)の前線が持ちこたえられるかどうかの瀬戸際ですな」


伊織(いおり)が続ける。

「すでに兵糧の配給を削っているとの報も来ております」


沈黙。


それはただの遅延ではなく、"戦の失速"に直結するものだった。

永勝(ながかつ)が静かに言った。

()舜臣(スンシン)は、完全に流れを握ったな」

誰も否定しなかった。


永重はゆっくりと立ち上がった。

そして海の方へ歩く。

「……まだ、詰んではいない」


小さな声だったが全員が顔を上げた。


永重は振り返る。

「だが――このままでは詰む」

重兼が目を細める。

「策がある、と?」


永重は一瞬だけ黙り――

そして言った。

「ある」

その一言で、空気が変わった。




--------------------------




同日・壱岐北方沖。

昼。


陽光が海を照らし遠くまで見渡せる視界。


その沖に――

船団があった。


だがそれはこれまでのような小規模な輸送ではなかった。


関船。

安宅船(あたけぶね)

輸送船。


数はおよそ三十艘。

旗は掲げられている。

隠していない。


「……露骨ですな」

重兼が苦笑する。


伊織が低く言う。

(おとり)どころではないですな」


半佐が戸惑う。

「若殿……これは」


永重は答えた。

「見せている」

その視線はまっすぐ沖を向いていた。

()()()()()と言っている」




--------------------------




同刻――対馬海峡。

朝鮮水軍。


見張りが声を上げる。

「船団確認!」

報がすぐに本船へ届く。


李舜臣はゆっくりと顔を上げた。


「数は」

「三十」


わずかな沈黙。


「隠しておりませぬ」


その報に周囲の将がざわめく。


一人が言う。

「罠では」


別の者が言う。

「だが、この規模は……」


李舜臣は静かに海を見た。

「……急いでいる」

ぽつりと呟く。


将が問う。

「どういたしますか」


しばし沈黙。

やがて――


「全艦、準備」


短い命令だった。




--------------------------




壱岐沖。

日本側船団。


重兼が笑う。

「来ますな」


伊織が頷く。

「来ない理由がない」


だが――半佐はまだ理解しきれていない。

「若殿……本当に、これで」


永重は静かに言った。

「これは運ばぬ」

「……え?」

「運ばせる」


その一言に三人の目が変わる。

永重は続ける。

「敵にだ」


沈黙。


重兼の口元が歪む。

「……なるほど」

伊織も理解した。

「奪わせる」


永重は頷く。

「そうだ」


そして指を海へ向ける。

「だが――」

一拍。

「ただ奪わせるだけでは終わらぬ」


やがて。


水平線に影が現れたのは朝鮮水軍。


整然とした隊列。

そして中央に――異様な船。

亀甲船(きっこうせん)


半佐が息を呑む。

「……来た」


永重は目を細めた。

「来たな」


両軍の距離が縮まる。

朝鮮側が横陣を敷く。


日本側は――動かない。


重兼が低く言う。

「逃げぬのですな」

「逃げぬ」

永重は答えた。

「逃げれば、意味がない」


やがて――砲声。


ドーーーーン!!

海が裂ける。


第一撃。

水柱が上がる。


だが日本側は動かない。

二射、三射。


船団が揺れる。

それでも――動かない。


伊織が歯を食いしばる。

「……耐えるのですか」


永重は答えた。

「違う」


そして、手を上げる。

「今だ」


その瞬間。


日本側の船団が――崩れた。

四方へ散開。


だが逃げる動きではない。

ばらける。


そして――一部の船が()()()


重兼が笑った。

「置いたな」

伊織が言う。

「積んでいる船を」


その通りだった。

三艘。


明らかに重い船。

動きが遅い。


朝鮮側から見れば――()()()だった。




--------------------------




朝鮮水軍。


将が叫ぶ。

「中央三艘、荷あり!」


だが――

李舜臣はすぐには動かなかった。


じっと見る。


船の沈み。

動き。

周囲の護り。


「……露骨だな」

低く言う。

だが次の瞬間。

「だが――本物だ」


決断は速かった。

「中央を断て」

艦隊が動く。




--------------------------




日本側。


半佐が叫ぶ。

「来ます!」


永重は頷いた。

「よし」

その声には、確信があった。


やがて接触。

朝鮮船が三艘へ迫る。


砲撃。

火矢。


ついに一艘が炎上する。


「やられた!」

半佐の声。


だが――

永重は動かない。

「……まだだ」


その時だった。

沖。さらに外側。


見張りが叫ぶ。

「船影!?」


重兼が振り向く。

「なに?」

伊織が目を見開く。


「……第二船団」


それは――先ほど散開した船団の一部。


だが。

()()()から回り込んでいた。


しかも――

「速い……!」

軽装。


最小限の荷。

だがその中央に――


「……本命か」

重兼が笑う。


永重が静かに言った。

「こちらが、本当の流れだ」




--------------------------




朝鮮側。

将が気付く。


「後方――新たな船団!」


その瞬間。

李舜臣の目がわずかに細くなった。

「……そう来たか」


初めてだった。

ほんの僅かに。

()()()()が生じたのは。


海は一気に動き始める。


囮。

本命。

そして選択。


戦は――次の局面へ入る。




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