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【御礼10,000PV到達】戸侯記  作者: 和音


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24-1 名護屋城【文禄の役-着陣】


天正二十年(1592年)皐月(さつき)(5月)――



永重(ながしげ)の姿は肥前(ひぜん)の国にある名護屋(なごや)城に()った。


ここは、太閤秀吉が朝鮮出兵における本陣として、前年に築城させていた。

天守は五重の七階層となっており、豪奢(ごうしゃ)御殿(ごてん)も建てられていた。

周囲おおよそ一里(4km)内に百二十以上の陣屋(じんや)が置かれ、約十万人が住む城下町も形成されていた。



(さかのぼ)ること卯月(うづき)(4月)。

藤懸三河守(みかわのかみ)永勝は、手勢二百人を率いて丹波を出発した。


永重はそのうち二十四騎を従えて参陣していた。

その中には、半佐(はんざ)重兼(しげかね)伊織(いおり)月心(げっしん)の四人も含まれていた。

もう一人の直臣(じきしん)である夕霧(ゆうぎり)は、自らの不在時の守りとして雪乃(ゆきの)()けてきた。


丹波を出国し山陽道を西進、翌の皐月(5月)初旬に、ここ名護屋城に着陣していた。



「想像を絶する規模ですな」

重兼が愛馬の鞍を外しながら言った。


「さすが太閤殿下であらせられる。

が、ここからまた海を渡るは少々不安もございます」

伊織も同じく鞍を外しながら言った。


「我らがどの隊に入るのか。まずはそこからだな」

永重も夜光(やこう)から鞍を外しながら言った。


「まだ何も聞かれていないので?」

半佐が永重から鞍を預かりながら応じる。

半佐は今回は徒歩での参加となっていた。


「大殿は聞かれておろうがな、我らへの沙汰はまだだ」

永重が答えた。

その他の二十名を含め一行は、木板に『藤懸ノ陣』と墨で書かれた陣屋に入った。

その陣屋は、簡易的なものとはいえ木造の立派な建物であった。



永重は板の間に座ると大きく息を吐いた。

「さすがに疲れたな」

重兼らも下座に座る。

足軽の二十名は、土間に敷かれた(むしろ)の上に(くつろ)いだ。

「皆もよう歩いた。土間ですまぬが、まずはゆるりとしてくれ」

永重がそう言うと、足軽たちは各々に「ははっ」と返した。


永重は半佐から白湯(さゆ)を受け取ると

「皆にも配ってやってくれ」

と半佐に言い、半佐は足軽たちにも白湯を配って歩いた。


「甘やかしすぎですぞ、若殿」

重兼が言う。

「これから働いてもらわねばならぬ。心配せずとも締めるところは締める」

永重は苦笑いしながら答えた。



すると四半刻(しはんどき)後。

永勝が陣屋に戻ってきた。弟の永元(ながもと)も一緒だった。

「――陣触(じんぶ)れが出た」

二人ともその表情はやや険しい。


すぐに半佐が土間から足軽たちを住居用の長屋に移動させ、重兼らもその場を辞した。

半佐は、永勝と永元の白湯を少しぬるめに差し出した。


永勝は上座に座って白湯を一口啜ったのち

「我らは九番隊だ」

そう言うと、懐から折りたたまれた紙を取り出し、皆の前に広げた。


そこに書かれていたのは――


大将 豊臣秀勝

副将 織田秀信、細川忠興

目付 太田一吉

武将 羽柴藤五郎、木村重茲、

   …、藤懸永勝


総勢で二万五千になろうかという大軍であった。


なお、大将である豊臣秀勝は、かつて永勝が仕えていた於次(おつぎ)秀勝とは異なる。

秀吉にとっては甥であり、三人目の秀勝であった。


「九番とは、ずいぶん後ろの隊にございますな」

永重が言う。

「兄上。細かいところはこれからですが、我らは兵站(へいたん)の確保と予備兵としての役割かと」

永元が答える。


「ふむ……」


「我らは壱岐の勝本城で待機となる」

永勝が言った。


壱岐勝本城――

壱岐は、ここ名護屋からはおおよそ五里(20km)に位置する離島である。

そこには先年に秀吉の命で築城された勝本城があった。

まぎれもなく、朝鮮出兵のために新たに築かれた城であった。


「承知いたしました。いつ頃出立となりますか?」

「わからぬ。下知がくだればすぐであろうがな」

永勝が答えた。


「もう一つ」

永重は永勝の顔を見て聞いた。

「軍目付(めつけ)は他はどなたでござるか?」


永勝は少し言いよどみ

「我ら九番隊に属する太田一吉殿、本陣に居る旗本(はたもと)後衛衆の熊谷直盛殿と――


一呼吸置き答えた。


「九番隊に属する竹中重利(しげとし)殿だ。

ご正室が、かの竹中半兵衛重治様の妹君。

よってそなたが一緒に元服した、重門殿の叔父にあたる方だ」




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