8-1 丹波亀山
翌日、丹波亀山に戻った永重は、その足で半佐のみを伴い父・永勝のもとに登城した。
すぐに永勝のもとに通された永重は、無事に荷を届け終えたことを伝えたのち、
重兼の年嵩の人足が、丹波亀山城や京で足利義昭公の奉公衆を見かけ、少し調べたところ二条家を訪れていたことを報告した。
そのことを聞いた永勝の反応は、意外なものだった――
「――こたびの荷運び、ご苦労であった。
家へ戻り皆休むがよい」
そう言って立とうとした永勝を、永重は呼び止めた。
「殿、奉公衆については……」
「捨ておけ」
永勝は永重を見ることなく、一言言い放った。
「殿、二条家は太閤殿下を快く思っていないと聞いております。
そのような公家のもとに将軍家奉公衆が訪れているのは……」
「永重」
永勝が厳しい表情で永重を見下ろして言った。
「捨ておけと云うたぞ」
半佐の身体が強張ったのを永重は感じた。
「父上……」
「このことは他言無用だ。
そなたらの与するところではない」
永勝の言葉を聞いた永重は、一瞬だけ戸惑った。
永勝は立ったまま、静かに言葉を続けた。
「永重。世には知るに足ることと、知ってはならぬことがある。
そなたの力で手を出せる範囲を超えれば、命を危うくするだけだ」
半佐が固唾を呑んで見守る中、永勝はさらに重ねる。
「このことは忘れろ。
これ以上調べることもまかりならん。よいな?」
「……承知いたしました」
永重は深く頭を下げ、それ以上は聞くことはなくその場を辞した。
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半佐とともに家へ戻った永重は、人払いをしたのち、重兼、月心、夕霧を自室へ呼び集めた。
そして、永勝とのやり取りを伝えた。
「……父上は知っていた」
重兼らは黙して耳を傾けている。
「あのような父上は初めて見た」
月心が聞く。
「して、如何なされますか?」
「……今は動かぬ。動けぬ」
永重はそう言うと、一同を見渡して
「皆もすまぬが、今は堪えてくれ。
そして夕霧」
「はっ」
夕霧が小さく頭を下げて応じた。
「頼明殿へ二つ伝えてくれ。
今は動けぬこと、しばらくは動静を見守ること。
この二つだ」
「ははっ」
「そして……京で見たことと父上から止められていること。
これらは今は伝えてはならん」
「承知いたしました」
夕霧は永重の目を見て、はっきりと答えた。
「そなたらにも思うところはあろう。
しかし、不確かな情報を出して迷い迷わせるよりは、な」
永重が月心や夕霧の心中を慮って言うと、夕霧はふっと笑い
「ご心配には及びませぬ。
我らは永重様の臣にございます」
永重は黙って夕霧に微笑んだのち、改めて一同を見渡して言った。
「皆、今は他言無用で頼む。
少し時間を置いて、父上と二人で話してみるつもりだ」
そう告げると、この場は解散した。
そしてその夜。
久しぶりに、永勝が家へ戻ってきた。
そして人払いののち、永重一人が呼ばれる。
そこで永重は、驚天動地の話を聞くことになる――――。




