7-1 京
月心、夕霧の二人が永重に仕えて三日後。
半佐、重兼を加えた五人は、京にいた――
遡る事二日前。
足利義昭公の奉公衆、槇島昭光が京の都にいる――
月心がその事を報告してきた。
本能寺の変ののち、京は織田信長の次男である信雄の勢力下にあり、その信雄から京都所司代に任じられたのが前田玄以であった。
天正十二年(1584年)に秀吉の勢力が京まで伸長すると、玄以は秀吉に仕えるようになり今日に至る。
玄以は在京の公家衆や、数多い寺社とも繋がりがある人物であった。
永重は月心から報告を受けると、父・永勝へ上洛を申し出た。
名目は地震に対する物資の供出である。
すでに石川頼明へも米と塩、炭を送っており、藤懸家は決して裕福ではなかったものの、永勝は反対せずこれを了承した。
これから冬を迎える中、震災を受けた各地へ向けて支援は始まっており、永重らは大いに感謝された。
そして物資を届け終えた五人は、京の南にある旅籠に身を寄せていた。
時刻は昼過ぎのことであった。
永重と半佐、重兼が物資を届けて回る一方、月心と夕霧は槇島昭光の動向を探っていた。
「――何か分かったか?」
重兼が問うと、月心は険しい顔で答えた。
「はっ……件の方が訪ねていた先は分かりました」
「どこだ?」
永重が問う。
「それが……二条家でございます」
重兼が、はっと息を呑んだ。
二条家――
摂家であり、現在の当主・二条昭実は前関白でもある。
今年の文月(7月)、五摂家筆頭であった近衛家の圧力により関白職を秀吉に譲り、自らは従一位に転任していた。
……一同、言葉を失った。
「二条家、か……」
永重は低く呟き、一点を見つめたまま動かない。
太閤殿下を快く思っていない二条家。
その太閤殿下の養嗣子である中納言。
そして、そこに出入りする足利将軍家奉公衆。
「偶然とは思えんな」
重兼が腕を組み、静かに言った。
「二条殿が関白を退いたのは今年の夏だ。恨みがないとは言えまい。
そこへ足利の名を背負う者が出入りしているとなれば……」
「火種、というわけですね」
半佐が苦々しく続ける。
月心は一歩進み、声を落とした。
「件の方は、あくまで『客人』として、しかし人目を避けるように通っておりました。
夕刻から夜半にかけて、とのことです」
「密談、か」
永重はようやく顔を上げた。
月心が頷く。
「屋敷の奥、書院ではなく庭に面した小座敷が使われております。
警戒も厳しく、近づけるのは下働きのみであったと」
「何を話していたんだろう……」
永重の問いに、月心は一瞬だけ逡巡し、それから口を開いた。
「『御所』と、『秀吉』。それから――『再興』との声が聞こえたとのこと」
その言葉に、空気が張り詰めた。
「再興、だと?」
重兼が思わず声を荒らげる。
足利将軍家。
もはや過去の亡霊であるはずだった。
「……さすがに計りかねるな」
永重は静かに言った。
「二条家を楯に朝廷へ糸を伸ばすつもりか。
それとも……」
重兼が続ける。
「どちらにせよ、太閤殿下がお聞きになれば、穏やかでは済みますまい」
永重は月心と夕霧に視線を向ける。
「よく調べてくれた。もう追わずともよい。
我らは明日いったん丹波亀山に戻る」
月心と夕霧が一礼する。
次に重兼と半佐に目をやり
「父上に報告する」
そう言うと永重は、ゆっくりと腰を上げた。
冬を迎える京の都の空は、穏やかで、何事も起こらぬかのように澄んでいた。




