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【御礼10,000PV到達】戸侯記  作者: 和音


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6-15 丹波亀山


翌朝――



永重、半佐、重兼の三人は、連れ立って登城した。


登城後、永重はすぐに永勝へ面談を申し入れ、控えの間で待っていた。

しかし、一刻を過ぎても声はかからなかった。



「……何事か起きたのでしょうか」

半佐が我慢できず口にした。

重兼は床几に座ったまま、じっと目を閉じている。


「父上――殿もお忙しい身だ。待つしかあるまい」

永重はそう言うと、床几から立ち上がり、軽く伸びをした。


永重は元服後、永勝のことを衆目の前では「殿」と呼んでいた。

永勝に何か言われたわけではなく、自ら考えて公私を明にして使い分けていたのだ。


それを知っている半佐は、思わず「父上」と言った永重を見てくすりと笑い、

「左様ですね。失礼なことを申しました」

そう言うと、大人しく板床に座った。



それから半刻後、ようやくお呼びがかかった。

永重らは部屋に入り、畳の上に胡坐をかいて座り頭を下げた。


頭を上げて永勝を一瞥した瞬間、三人は一瞬、動きが止まった。



永勝は、憔悴しきっていた。



「……殿、大丈夫でございますか?」

永重がそう尋ねると、


「……長いこと待たせたな。大丈夫だ」

永勝は無理に笑みを浮かべて永重を見た。


すると永勝が突然

「――永重。皆も。

これより言うことは他言無用だ」

表情を改め、意を決したように言うと続けた。


「中納言様は、長くは持たぬやもしれぬ」

永勝は目を閉じ俯いて大きく息を吐いた。


「大垣よりこちらに戻ってのち、ここ最近は快方に向かっておられたのだが……。

先日の地震じゃ。

御身体が弱っておられたところにご心労も重なり……」


永勝は目を閉じ、俯いたまま、長く息を吐いた。

部屋の中には、誰も言葉を発せぬまま重苦しい沈黙だけが落ちた。


「……あの揺れの折、中納言様は御殿を出て庭へ避難なされた」

永勝はぽつりと続けた。

「だが、その際に足を取られ転ばれた。

大事には至らぬと報せは受けたが……

以来ずっと床に伏され、今朝方はほとんど御言葉も交わせぬほどの――」


永勝の声が最後のほうでかすかに揺れた。

それを隠すように唇を結び、しばし視線を畳に落とす。


永勝は今度は大きく息を吸い、永重をまっすぐ見て言った。

「もしもの際には――我ら藤懸家は太閤殿下のもとに参る」



永重は、しばし言葉が出なかった。

父上――殿の言葉の重みが胸にずしりと落ちる。


「……承知いたしました」

やっとのことで口にした言葉に、覚悟の色を込める。

半佐も重兼も、無言で頭を垂れたままだった。


「今後のことを、しっかりと考えねばならぬ」

永勝は静かに告げ、肘木に寄りかかり目を閉じた。



永重は、近江の石川頼明の援助要請に対し、米と塩、加えて炭を送ること。

そして自らの扶持から新たに側付きを二人雇うことのみを伝えた。


いずれに対しても永勝の反応はやや鈍かったが、最後には

「そなたの考えるようにいたせ」

と了承してくれた。




永勝の部屋を辞し、廊下へ出たところで永重は足を止めた。

後ろに控えていた半佐も足を止める。

障子越しに射し込む朝の光が、板敷の上に細く伸びている。


「――言えなかった」

先を行っていた重兼が足を止め、振り返る。


「これ以上ご心配をお掛けすることは出来ぬ。

月心(げっしん)らが忍びであることは、当面伏せておく。

……足利公の件もだ。

特にこの件は我々ではどうする事も出来ぬ」


そう言うと永重は一度だけ障子の向こうを振り返り、それから踵を返した。

半佐と重兼も、何も言わずにその後に続いた。




城を辞し家路につく道すがら、三人の間に会話はなかった。


丹波の空は高く、澄んでいる。

だが、その静けさがかえって不安を募らせた。





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