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戸侯記  作者: まさごろう


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4-2 行徳寺

予定を変えて、少し情景を深堀しました。


兵庫助は一同を見渡すと、しばしの沈黙ののち、口を開いた。


「皆の者、ここまでよく頑張ってくれた」

そう言ってから、続ける。


「行徳寺の御住職と話をつけ、我らはしばらくの間ここに留め置いていただけることと相成った」


安堵のため息が、あちこちから漏れた。



「御方様方と性慶殿らは奥の間に、我らはお堂をお借りできるとのことだ」


そして一呼吸置き、


「……ようここまでついて来てくれた。改めて、礼を言う」


そう言って、兵庫助は深々と頭を下げた。


顔を上げるや否や、右手に木笛を掲げる。


「これより先は、交代で番を務める。

当番はのちほど伝える。

何かあれば、この笛にて合図とする。

……まずは各々、体を休めよ」


そう告げると、兵庫助は足軽の一人を呼び、最初の番を命じた。

そして御方様方を促し、奥の間へと案内しようとした。



「よいかえ?」


散開しかけていた足軽たちは、その声にぴたりと動きを止め、声の主を見た。


「皆の者、わらわからも深く礼を申します」

ねねの方がそう言い、母のなか、お智の方もまた頭を下げた。


松丸らは皆、即座に膝を着き深く頭を垂れた。



兵庫助が御方様方を伴い奥の間へと姿を消すと、足軽たちは再びそれぞれ思い思いに腰を下ろし、ようやく寛ぎ始めた。


「……ようやく、ひとときの安堵じゃな」


誰ともなく呟きがもれる。

皆疲れの色は顔に出ていたが、目はまだ鋭く意識は緩んでいない


別の足軽が背を伸ばして伸びをする。


松丸の視線がふと外に向く。

半佐も松丸の視線を追い、陽が差している外を見る。


境内は静かに佇み、松丸が目を閉じると風に揺れる木々の葉がささやく音だけが耳に入った。



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夕刻――夜の帳がゆっくりと境内を包もうとしていた。


寺の許しを得た松丸たちは、境内の片隅で火を熾し湯を沸かした。


長浜を出て以来満足に身体を清めていない松丸たちは、控えめに言って物凄い悪臭を放っていた。

少し冷たい風が頬を撫でると、近くの者のにおいが鼻先に迫り思わず顔をしかめるほどであった。


布で手際よく身体を拭く者、髪を乱れたまま整える者、それぞれが静かに自分の身を整えていた。



松丸は身体と頭を拭いたのち、目を閉じ、深く息を吸い込む。


鍋から浮き上がる湯気と、木々の香りが混ざる境内の空気は、戦場や逃避行のそれとはまるで別物で、思わず心の奥が緩むのを感じた。


しかし同時に、目を閉じると不意に賊に襲われた時の足音が蘇る。


身体は休まっても心はまだ戦の余韻に縛られている――

その微かな緊張が、今の安堵を逆に鮮明にしたのであった。






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