33-5 丹波【半佐の嫁探し】
松丸が誕生した翌日の同じ頃。
半佐は藤懸永勝の屋敷に居た。
「雪乃殿も息災なのだな?」
「はっ。母子ともにお健やかにお過ごしにございます」
永勝の問いに半佐が答える。
永重の嫡男・松丸の誕生について、早馬を走らせて知らせていたものの、仔細報告のため半佐が訪っていた。
「御無事で本当に良かった」
華も笑みを浮かべて安堵していた。
「しかし松丸とはな……」
永勝が笑みを浮かべて呟く。
「何だか嬉しゅうございますね」
華も嬉しそうに言った。
「某も御名前を伺った瞬間は、思わず顔が綻んでしましました」
半佐も同じ思いだった。
「某にとっては忘れられぬ御名前にございますれば……」
呟くように続けて言った。
それを聞いて永勝が言う。
「そうであろうな。儂以上に其方は思うところがあろう」
そして遠くを見て
「月日が経つのは早いものだな……元服からもう十年か。
儂らも年を取るはずだ」
「ほんとに」
永勝と華が笑いながら話す。
「三日後には顔を見に皆で行く。永重に伝えよ」
「ははっ」
永勝が言うと半佐が応じた。
そして。
「次は其方だな」
永勝が笑みを浮かべたまま半佐を見据えて言う。
「は?」
きょとんとする半佐。
「は?じゃない。次は其方も身を固めねばなるまい」
「え?あ……いえいえ、某は……」
「いくつになった?」
「は。二十八になりもうした」
「もうそんなになるか……誰ぞ、心に決めた者はおるのか?」
どきり、と焦る半佐。
「は……いえ、特には……」
「あれ?そうなの?私はてっきり夕霧とそういう仲なのかと……」
華が言う。
「滅相もございません!夕霧殿には伴伊織殿が……」
「え?そうなの?」
正直、分からない。
本音を言えば、夕霧の事は心のどこかにある。
ただ、半佐にとっても、のちに聞いたあの忍城で起きた出来事は大きかったのだ。
起きた事そのものもだが、夕霧が背負ってしまった業のようなもの。
それは半佐には正確には分からない。
分かりたくても理解できないものだ。
ただ一つ、夕霧にとって大きいものである事は分かる。
そしてその夕霧を支え、寄り添ってあげられるのは半佐ではなく、それが理解出来る伊織なのではないか、と。
「これ、半佐」
難しい顔をして考え込む半佐に永勝が声をかける。
「あ……申し訳ございませぬ」
半佐が慌てて詫びる。
「よし。それなら儂がひとつ探してやろう」
膝をぽんっと叩いて永勝が言う。
…………え?
「いえ、あの……――」
「遠慮するでない。其方も立派な武士だ。
ひとつの家の主として平松家を考えていかねばならん」
「は、はあ……」
「心配するな、任せておけ」
永勝が満面の笑みを浮かべて言う。
――心配だ……。
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それから一週間後。藤懸永勝邸――
永重と半佐は、呼ばれたため永勝邸を訪っていた。
――恐らくは半佐のことだろう。
二人ともそう思っていた。
つい先日、永重のところに松丸の顔を見に来た永勝より、「半佐の嫁探し」の事は聞いていた。
永重はもちろん大賛成であった。
そしてまだ決まってもないのに、その話を聞いた皆で半佐を冷やかしまくった。
特に重兼は、半佐の顔を見てずっとニヤニヤである。
「どんな御方かの?」
「好みはどんなのだ?」
しきりに半佐に纏わりついて聞きまくっていた。
しかし、重兼は心から喜んでいたのだ。
重兼にとって半佐は弟のような存在だった。
天正大地震の時に出会い、それから十年。
永重に仕える二人は、直臣の中でも最も長く共に過ごしてきた。
時には槍や乗馬を教え教わり、寝食を共にしてきた。
だから重兼は嬉しくてしょうがないのであった。
しばらくすると、永重と半佐が待つ広間に永勝がやって来た。
座すると開口一番に
「決まったぞ」
満面の笑みを浮かべて永勝が言う。
――決まった??
半佐の顔が引き攣る。
「殿。いや、父上。決まったというのは半佐の御相手でございますか?」
永重があえて父に対して問う。
「うむ。半佐の奥となる御方だ」
永勝が笑みのまま答える。
「父上。その……どういった御方なのですか?」
永重が恐る恐る聞く。
永勝はにやりと笑って答えた。
「聞いて驚くなよ?其方ら二人もよく知る方の御息女だ」
「「え???」」




