7.ツナと卵のサンドイッチ
神殿に出かけた翌日は、なんとなくだるい。
それが、ここ6ヶ月ほどでリッカが自覚した症状だ。
(たった半日くらいのお出かけなのに……)
しかも、行き帰りのほとんどは転移魔法。たいして運動量があるわけでもない。
(人疲れって言っても……)
疲れる理由は、おそらく他人に会っているからだろうと予想するも、
「ちょっとギルドの人や門番さんに会った時に挨拶するくらいなのに……」
リッカは大きく息をついた。
それほど長いこと話をしている訳ではないし、内容も気疲れするような内容ではない。しかも、話している時に特に不快になったことも、ほぼない。
(1回だけ、受付が女の子になった時に色々聞かれたけど……)
本当にそれだけだし、何より昨日買い取りカウンターでアーバンや受付で働いて入る料理好きの女性……名札にはジョーと書かれていたか……と話した、キノコの肉詰めの話は楽しかったのだ。
「今日はそのキノコ料理しようかと思ったんだけどな」
口に出したら体が動くのではないかと思ったが、今日のリッカの体はびっくりするほど重く、木の背もたれ付きの椅子にずるずると座ったまま動けなかった。
「どうしよう」
時刻は昼前だが、朝から水を一口飲んだきりだった。
まるで半分椅子からずり落ちそうな状態で、リッカはアイテムボックスのディスプレイを眺めた。
「炭酸水……」
食台の上にことりと出てきたのはペットボトル。すぐに結露が現れる所を見ると、キンキンに冷えているのだろう。
あまり考えずに蓋を開け、シュワリと喉が痛くなるほどの冷たさを流し込んだ。急に流し込んだせいか、喉から胃にかけてなんとも言えない違和感が襲ってきた。
「あ……」
リッカのブラウンの虹彩が、ディスプレイに写っている。
「サンドイッチ」
(ツナマヨサンドと、卵サンド)
なぜだかとても懐かしい気がして、ノソノソと椅子に座り直して、ビニールの包装をペリペリと剥がす。
ふわふわとした白いパンに挟まれた、もったりとしたツナとマヨネーズ。三角にカットされている端を口に入れた。レイヴァーンのすぐ固くなるパンとは違う、なんとなく冷たいけれどふわふわした食感。
小麦の味やらなにやらはレイヴァーンのパンの方が美味しいのはわかるが、それとは違う優しい食感のパンとしっかり味のついたツナマヨが、胃のなかに滑り込んだ。
(ああ……初めてコンビニでサンドイッチ買ったとき、妙に大人になった気がしたような気がした……のかも?)
確かな実感というのはなかったが、なんとなく思い出した感覚に、自然と唇が緩く弧を描いた。
(冷えた炭酸水は、食欲を増進させるんだったな、多分)
卵のサンドイッチを口に運ぶ頃には、ペットボトルの中身は
半分ほどになっていた。
残りを口に入れて、リッカはついディスプレイを操作する。
(これはスマホとかと違って、指紋が残らないからいいよね)
リッカがセカイさんから受けとったアイテムボックスとその操作板は、本人以外には視認できず、操作板も空中に指を滑らせているようにしか見えないだろう。
「あ、やっぱりこっちにも炭酸水はあるんだ」
天然の炭酸水が存在しているのを確認して、リッカは地図を操作してその地域を眺めて見た。
火山地帯であることを確認して、もしかしたら炭酸泉でもあるのかと想像する。
(松葉のサイダーとかでも作る方法はあるから、炭酸水自体はあっでおかしくないか)
ダルダルと動けない体も、食事が入ると少しだけだが動けるようになった。
(でも……今日は本でいいや)
晩御飯までは、ゴロゴロしながら読書しよう。
(ひさしぶりに、ミステリーでも読むかな)
結局、夕飯はレトルトのお粥になったが、その次の日はずっと楽に動けた。
た。
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本日のご飯
・ツナと卵のサンドイッチ コンビニとかのアレ
・レトルトの梅粥
・強炭酸水 500ml
なぜか動けない日でも、ご飯食べただけ偉いということで。