8.異世界キノコの肉詰めグラタン
前の日のだるさが嘘みたいに、体が軽い朝だった。
窓の外は、薄い雲を透かして陽が差している。
小鳥の声と、湧水の音が遠くから聞こえてきた。
(今日は、ちゃんと作れる……かも)
椅子の背にもたれたまま、リッカは深呼吸をした。
昨日まで重かった空気が、少しだけやわらいでいる。
「ギルドできいた、あのキノコの肉詰め料理……」
思い出した瞬間、自然とアイテムボックスを開いていた。
そこには、昨日ギルド帰りに森で自分用にとってきた大きなキノコ。
手のひらよりも少し大きく、白い傘の裏にはびっしりとひだが並んでいる。
肉厚で、水を吸うとすぐに柔らかくなりそうだ。
傘の裏に指を滑らせながら、リッカは小さく呟く。
「これ、肉詰めグラタンにしよう」
アイテムボックスから、玉ねぎと挽き肉を取り出した。
少量のオイルで炒めると、玉ねぎの独特の香り、肉から出た油の匂いが部屋に広がった。
カセットコンロの火を調整しながら、缶のホワイトソースを取り出した。
(これ、『いいやつ』だ)
おそらく、このホワイトソース缶は。前世でも見たことがあるのかもしれない。
ホワイトソースに少しだけチーズを溶かし、炒めたものと混ぜる。
それをキノコの傘のくぼみに詰めて、スキレットに並べる。
「オーブン、本当は200度くらいだろうけどわからないから……20分くらいでいいか」
オーブンは、作り付けの窯に火の魔石と大きな薪を入れて、温めておいた。その中に棒でスキレットを押し込んで、窯の前で待つことにした。
リッカはその間、ぼんやりとアイテムボックスの中の本棚を眺めている。今回はキノコ図鑑にする。電子書籍ようなそれのページを捲るスワイプ作業は必要で、時折紙の感触が懐かしくもある。
薪の匂いの中に、チーズの匂いが混じった。
立ちのぼる香ばしい匂いが、現実へ引き戻す。
「……いい香り」
焦げ目のついたチーズの下から、肉汁とソースがとろりと溶け出す。
スプーンを入れると、キノコの香りと肉の旨みが一体になっていた。
一口食べた瞬間、リッカは目を細める。
(そうそう、こんな感じだよね……多分)
食べながら、ふとアーバンの顔を思い出した。
料理の話をしていた時の、穏やかな笑顔。
(みんなで食べたら美味しいのかな……?)
その思いを打ち消すように、リッカは小さく首を振った。
今はまだ、誰かのためにではなく、ちゃんと食べられる自分になるために作っているのだ。
「さて、明日は何を作ろうかな」
窓の外では、夕陽がオレンジ色に山の端を染めている。
リッカは湯気の立つ皿を見つめながら、静かに笑った。
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本日のご飯
キノコの肉詰めグラタン
・異世界の肉厚キノコ。巨大椎茸をイメージしてください。
・アイテムボックスのひき肉・玉ねぎ・ホワイトソース缶・チーズ
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