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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第十六章 蓬莱諸島>
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#16-37 バカンス(美食〇〇〇編)

遅ればせながら、あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。




 三日目のディナーは和食です。もっと言えば懐石料理風というか料亭風というか、そんな感じね。これは先王陛下リクエストが「どちらかと言えばあっさりしたものが食べたい」とのことだったので、そうなりました。なおメインの食材がイノブタとクジラであることに変わりはありません。


 ちなみに試作品を作っている段階で秀の妙な拘りが炸裂した。曰く――


「この食器では駄目だ。皿が完成しない(キリッ)」


「「己は海〇雄〇か!」」


 とのこと。ちなみにツッコミを入れたのは私と久利栖。


 ちなみに食器自体はちゃーんと高級品です。王族を招いてのディナーに下手なものは使えないし、元々この城には来客用と思しき食器のセットが山ほどあったからね。念の為にレティとシャーリーさんにチェックして貰って、グレードとしては申し分ないとのお墨付きも貰っている。


 二日目のフレンチディナーはそれでよかったんだけど、懐石料理となるとこれでは納得ができないらしい。いや、まあ、秀のフォローをする訳じゃあ無いんだけど、確かにコレジャナイ感はあったんだよね、日本人組は全員。なおこっちの世界組は和食に先入観が無いから、例えばスープ皿に味噌汁が入ってても特に変とは思わないみたい。


 和食の器って材質、形状、絵付けなどなど、デザインのバリエーションが豊富だからね。秀はそういったものを見慣れているだけに、自分の料理もそうありたいと思ってしまうんだろう。


 料理が良ければ皿はシンプルなものでいいだろうっていうのも、一つの考え方でそれを否定はしない。けどまあ、料理長シェフ――じゃなくて、この場合は板長さんか。板長さんのご要望ですからね。作るしかないでしょう、満足する器を!


 誰がって? って、そりゃまあ――私しかいないじゃない。


 とは言え、私の陶芸経験なんて旅行先の体験工房で御茶碗を作ったくらいしかないから、そんな大層なものは作れない。あの時は二個マグカップを作って、一個は舞依にお土産にしたんだけど――って、その話は今はいいか。


 なので秀が希望する器をリストアップして、地球の世界樹情報から似通った形状の有名作品をピックアップ。錬金釜で丸パクリするという、日本に居たら確実にお縄になるであろう荒業で作ったのでした。


 その甲斐あって、出来上がった器には板長さんも満足し、先王陛下にも振る舞える皿が完成した。皆さん笑顔で舌鼓を打っている。よかったよかった。


 王都の醤油&味噌造りは概ね安定してきて、これからは量産体制を整える段階に入っていく。この料理の味付けはいわゆる“さしすせそ”(+みりんと酒)が基本だから、今後の王国における食文化の発展の参考にもなるんじゃないかな。


 え? 指導がなければこのレベルの再現はできない? うーん……、それは確かにね。とは言っても秀(=王様)は多忙で料理の指導に出向くのは無理だし――という訳で、後日王城から有望な若手の料理人が修行にやってくることとなった。


「料理にも器にも拘った皿やら若手の料理人が修行に来るやら、どこぞの料亭かっちゅう感じやな。いっそ秀プロデュースで店を出すか?」


「ってことは……、屋号はやっぱり美食〇楽部?」


「せやな。会員制で一見さんお断りや」


「あはは。僕プロデュースの店っていうのは吝かでは無いけど、僕としてはもっと庶民向けの……、同好会くらいのお店にしたいね」


「つまり……美食同好会やなっ!」


 私と秀とで思わず吹き出す。なんとな~く同好会だとワンランク落ちそう? いや、でも一応“美食”の名を冠してるんだから、やっぱり高級路線? うーん、ちょっと謎なお店だね。面白くて良いと思います。


 ――なんて、この時は冗談で言ってたんだけどね。


 少し後のこと、秀の元に修行に来た料理人さんが腕を磨くための場として、ちょっとお高めのレストランが蓬莱にオープンすることになる。で、企画の段階で久利栖が「美食同好会」ってふざけて言ってたら、いつの間にかそのままそれが店名になってしまったというオチが付くんだよね。まあ私と秀も面白がって美食同好会を連呼してたから、久利栖だけのせいでは無いんだけど。


 まあ、アレです。国の中枢にいる人間があんまりテキトーなことを連呼してはいけません、ってことね。三人並んで舞依と鈴音から叱られてしまいましたとさ。


「何度も言うようだけど、人手がないことにはねぇ……。考えてみるとキッチンカーもそうだけど、秀は料理で商売をするなら庶民向け志向があるのかしら?」


 鈴音がした問いかけに、秀は何かに気付いたような表情で大きく頷く。


「ああ、確かにそういうところはあるかもね。変に取り繕ったりしないで、楽しく食べて飲んで話をして、っていう景色が好きなんだよ。ある種の憧れでもあるのかもしれない」


「常に笑みを絶やさず、マナーに気を付けて、会話を回すことにも気を配る……なんてしていては、料理の味なんて印象に残りませんからね」


「全くもってその通りだね」


 家柄的にそういう経験が多いのは舞依と秀だからね。お互い理解できる部分があるのだろう。うーん……、とはいえ私的にはちょっと面白くない。鈴音もなんかビミョ~な表情。後で舞依をムギュッとして――ついでにちょっと擽っちゃおうかな。私をモヤッとさせた罰なのだ(←理不尽)。



 和食ディナーは皆さん満足してくれたようだ。最後に出したデザートの抹茶アイスには王妃様ズが揃って目を輝かせて、お土産にと所望されていた。


 ちなみにお土産は抹茶アイスの他に、イノブタのベーコン・ソーセージと、原料から全て蓬莱産の日本酒(清酒)をリクエストされました。気に入ってくれたようで何よりです。


 そして王家からは逆に置き土産として、こちらに先行して寄越して準備を手伝ってくれたメイド部隊を貰い受けることとなった。そのまま使用人として移住させるってことね。


 って彼女たちの意思は大丈夫なのかな? と思って訊いたところ、そもそも今回のメイド部隊は移住前提で希望者を募っていて、実際に働いてみて上手くやっていけそうなら決定ということだったらしい。


 それにしても良いのかな? だってこのメイドさんたちは、それこそ王様・王妃様のお世話だって任せられる、極めてよく訓練されたメイドエリートでしょ? そりゃあこちらとしては有難い話だけどね。彼女たちならメイドの指導役として申し分ない。


「なに、遠慮することは無い。それにこれは我々が滞在する時に、より快適に過ご為でもあるのだよ」


 と、先王陛下がお茶目にウィンクしつつニヤッと笑う。


 ええと、それはつまり、また遊びに来る気満々と、そう言う訳ですか。そう言う事なら、遠慮なく受け入れるとしましょう。王族がちょくちょく遊びに来るなんて、リゾート地の宣伝としてこれ以上は無いしね。――ま、まあ迎賓館で働く人は居が痛いかもだけどね(汗)。




 そんな感じでいくつかのサプライズはありつつも、先王陛下と王妃様ズ、側近の方々をトランク飛行船で王都へ送り届け、バカンスの三日目は終わった。








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