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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第十六章 蓬莱諸島>
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#16-32 少女と海、あるいは碧鯨




 へへっ……、釣り上げてやったぜ……、大物をよ……。


 なんてね。いやー、でもそんなことを言いたくなるくらいには手強かった。っていうかタフだった、クジラは。




 クジラをターゲットに定めた私は、まずはホウちゃんに協力して貰って浮島から超広範囲に探知魔法を展開した。ノウアイラの南沖にクジラが出没する情報は精霊樹から得ていたから、たぶんこの辺りにも居るだろうってね。


 したらば案の定、かな~りデカい反応を発見。ホウちゃんによるとクジラで間違いないとのこと。――ノウアイラのショタ神様がコッソリ教えてくれたらしい。これはお酒をお供えしなきゃいけないパターン? やっぱり?


 じゃあホウちゃんに渡しておくからお届け――は、まだできないのか。じゃあ首尾よくクジラをゲットできたら、ノウアイラにお供えに行ってきましょう。


「じゃあ、行って来まーす。日を跨ぎそうなら連絡するから」


「うん、気を付けてね。……本当に一人で大丈夫?」


「というか、メインウェポンのハンマーを使いたいから、むしろ一人の方がやりやすいんだよね」


「そっか……、仕方ないね」


「うん。舞依は舞依のお仕事を頑張って」


「分かった、こっちの方は任せて。気をつけていってらっしゃい」


 頬に手を添えてチュッと口づけを交わす。


「うん。お土産、期待してて」


 そうして蓬莱を出発した私は、飛行船で目的の海域まで一気に飛んだ後、筏にモードチェンジして、のんびり釣りでもしながらターゲットが現れるのを待つことにした。


 ターゲットのクジラは、正しくはストームホエールという名称。シロナガスクジラに似た外見だけど何せ魔物だから、必ずしも生態はヒゲクジラとは一致しない。具体的には、割と何でも食べる。あと巨大さから一度暴れ出すと海が大荒れになる。ストーム(=時化)の由来ね。


 なんでも食べるから食事の為に浅いところに上がって来るってことは無いんだけど、生き物としてはクジラだから、必ず呼吸の為に海面に現れるタイミングがある。そこを待ち伏せする作戦です。


 ――ただかな~り長く息が続くらしい。なのでのんびり釣りでもしながら、気長に待つことにしましょう。


 待機中…… 待機中……


 おっ、また釣れた。鰹っぽいお魚。ちょうど群れが居る海域で、八〇~一〇〇センチくらいのが入れ食い状態。もうこれで釣果は十分なんじゃ――いやいや、初志貫徹、大物クジラを手に入れるまでは帰れません。


 それにしても一人で遠出するのは久しぶりだなー。皆と合流してからはほぼ一緒に行動してたからね。蓬莱が形になりつつなる今はそれぞれの仕事があるから別行動が増えたけど、それでも舞依とは一緒に居ることが多い。


 こうやって一人で筏に乗っていると、最初の無人島から出発した時を思い出すね。あの時は漂流者と間違われてたのが、今や国を創って――建国宣言はまだだけど――大国の王族を招待するに至ったと。いやー、思えば遠くに来たもんだ。


 なんてしみじみ思い返してたら、探知魔法の反応が動きを見せた。食事か呼吸かは分からないけど、浮上して来る。――っていうか、この鰹の群れってもしかしてクジラのごはんだったり?


 浮上位置を予想しつつ、一旦気球モードにチェンジして上空で待機する。どうやら今回は呼吸に来たみたいだね。鰹の群れはスルーしてる。


 ザバッと海面から頭――いや、背中? を出したクジラが潮を吹き上げる。やや青みのあるエメラルドグリーンの体色が綺麗だ。


 さて、では手っ取り早くやっつけてしまいましょう。トランクをハンマーにチェンジ、電撃を付与して、せーのっと!


 ドッゴーン! バリバリバリッ!


 ギュインとハンマーを巨大化させて思いっきりクジラに向けて振り下ろす。インパクトと同時に大きく水飛沫が立つ――けど。


「手応えが変? もしかしてレジストされた!?」


 グギャアァァァーーーッ!!


 クジラが大きく口を開き、咆哮する。クジラって声を出すの? なんて野暮なことを言ってはいけません。何せこれは魔物なので。


 なんて言ってる場合じゃあない。出会い頭にデカい一発を食らわせて気絶させ、トランクに収納。バチマグロと同様に凍結で〆る。これで万事オッケー。


 ――の、予定だったんだよね。


 いや、まさか電撃を抵抗レジストした上で、ハンマーの衝撃すら魔法障壁で耐えるとはね。完全なる想定外。いやー、参った参った。


 同じく巨大な海棲魔物のバチマグロをこれで仕留めたから、同じ手で片が付くと思い込んでた。でも思い返してみると、バチマグロの場合は弱点に一定のダメージを与えると気絶するっていう性質だったんだよね。うっかりしてた。


 うーん、完全に敵認定されてしまったね。でもまあ考えようによってはこれで良いのか。海の底に逃げられちゃったらどうしようもないから――なんて思ってたら、ビーム(っぽい魔法)が飛んできた。


 宙を駆けて弾幕ビームを避けつつ観察する。ふむふむ、どうやらクジラは体の側面に魔法発動体が一列に並んでいて、そこから全方位にビームを飛ばせるらしい。だったら背中に一機に近づいちゃえば死角に――って、ローリングしたぁっ! 危なっ、鰭(手)でビンタを食らうところだったよ。


 巨体からは想像できないくらい機敏に動くね。なんとなくフィディっぽい感じがする。もしかするとドラゴンの鱗みたいに、運動性を補助する専用の魔法発動体を持ってるのかもね。まあ流石に空を飛ぶことは無いと思うけど――無いよね?


 牽制に魔法を連発してみるものの小動もしない。というか、皮が厚いのか魔法障壁が優秀なのか――たぶん両方だと思うけど――この程度じゃあ、まるでダメージが通らない。


 さて、どうしたものか? 問題なのは、全力でぶちのめすような攻撃を選択できないところなんだよね……。忘れてはいけない、私は魔物の討伐に来たんじゃなくて食材の確保に来たんだから。皮に多少傷がつくくらいならともかく、丸ごと消し炭にしてしまっては意味が無い。


 考えつつ、クジラとガチバトルを繰り広げる。ただまあこれがデカいわタフだわしつこいわで、面倒なことこの上ない。持久戦を挑もうにも向こうの魔力量も大概で、当分息切れは期待できない。


 うーん、多少身に傷が付くことは許容範囲として、ちょっと大きめの魔法をぶつけてみるか。照射したところを凍らせる凍結ビームの魔法でクジラの全身を薙ぎ払えば、多少は効果があるんじゃなかろうか?


 という訳で早速魔法をチャージ。……このくらいでいいかな? よーし、まずは隙を作るために巨大ハンマーで一発!


 ゴスーンッ! ドッパーン!


 ハンマーの衝撃でクジラの周辺に水飛沫が上がる。とはいえ相変わらず障壁に阻まれて大したダメージにはなっていない。でも本命はこの次。ポイッとハンマーを投げ捨てて魔法発動体代わりに刀を手に取り、クジラに狙いを定める。


 食らえっ! 凍結ビーーーーム!


 ビシューンと白いビームが伸び、クジラの頭部に命中。凍り付き始める。


 よしっ、効いてる! 後はこのまま薙ぎ払え――


「なっ!」


 このまま全身を凍らせてやろうと思った矢先、クジラが予想外の行動に出た。体を捻りつつ横回転して、背びれで大量の海水を巻き上げたのだ。


 凍結ビームは照射した部分を凍らせる魔法だから貫通力は無い。ちっ、想像よりも頭が回る。クジラのくせに生意気だぞ!(←ガキ大将風に)


 南の海に氷山を作ったところで意味が無い。魔法をキャンセルしつつ海水を避けて上空へ退避する。ついでに刀をしまってトランクも回収しておこう。


 クジラはどうしたかな――っと、海の中に潜ったか。頭の氷を溶かしに行ったのかな? それとも逃げた? いや、好戦的な魔力の反応は変わって無いからそれは無いね。


 ん? 海中で反転して――勢いを付けて一直線に海面に向かって――


 グオォォォーーーーンッ!!


 うわっ! 飛び上がって来た!? しかも口を大きく開けて、私を丸のみにする気っぽい。


 躱すのは簡単。それよりもわざわざ弱点を晒しているようなものなんだから、口の中に魔法をぶっ放す? それとも物語よろしく、敢えて丸のみにされて体の内側から攻撃するとか?


 うーん、前者はダメージは入りそうだけど、チャージが足りないから斃すには至らなそう。後者は話のネタとしてはアリだけど、魔物の胃袋の中に入るのは御免被りたい。――いや、だってキモチワルイじゃない?


 しょうがない、ここは躱して仕切り直そう――


 ピーン!


 閃いた! そうだよ、わざわざ自分から海の上に飛び出してくれたんじゃん! これはいわば、私がクジラを釣り上げたのと同じようなもの。即ち、釣り人(わたし)の勝利が確定したも同然!


 え? 釣り上げるも何も、そこは空の上だろうって? フッフッフ。何も問題はありません。何せ私にはトランクがあるので。


 クジラの下の海面に向けてトランクを投げ、自分を一旦収納。すぐに外に出てトランクを筏モードに、クジラが上に完全に乗っかるくらい巨大に!


 ドッスーンと轟音を立てて乗り上げたクジラを拘束魔法で固定する。普通の鯨なら自重を支えきれずに肋骨が折れて死ぬと思うけど、流石にそう楽には行かないか。


 とは言え、もはやこいつは俎板の鯉。出鱈目に魔法を乱射して来るけど、厄介な機動性を封じてしまったら後はこっちのもの。慎重に背中に登り、魔力の流れから脳の位置を特定。集中的に凍結魔法で凍らせることで、ようやくクジラは沈黙した。


 さっとトランクに収納して時間を止めておく。血抜きとか解体とか熟成とかは、帰ってから秀と相談しつつやるとしよう。


 いやー、想定よりも大変だったねー。いつの間にかもう夕方だし。危ない場面があった訳じゃあ無いけど、ちょっと慢心があったかもしれない。うん、気を付けましょう。








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