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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第十六章 蓬莱諸島>
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#16-28 一回だけとは限らない




「話を戻すけど、結局蓬莱初めての結婚式は、ジェニファーさんとハインリヒさんの組になりそうってことだね」


 私と舞依は日本の家族と連絡が付くようになってからって考えてるから、二年くらいは先だろうし、まあそうなるかな。


「記念となるのが僕らで構わないのかな?」


「そうだな。新参者の私たちが皆を差し置いてとなると、些か気が引ける。私たちは祝福を貰えればいいのだし、式は簡素に済ませて屋敷でパーティーをするだけでもいいのではないか?」


「慣例的に良くは無いけど、形式的にでも式を挙げておけば、まあ体裁は……」


 二人の発言で分かると思うけど、こっちの世界にも結婚式と披露宴に似た概念がある。


 神殿を貸し切りにして、大勢の招待客が参列し、新郎と新婦が祝福を受ける儀式を大々的にかつ仰々しく行う結婚式。神殿を貸し切りにするから当然多額の寄付が必要だし、衣装を揃えたり――貸衣装なんてありません!――式次第を覚えたりと、時間もお金もかかる。


 で、それとは別に披露宴的なパーティーをやることが多い。これはもう規模も予算もピンキリで、お貴族様が自分の屋敷で広大な庭まで解放して大勢の招待客を招いて行うものもあれば、庶民が親しい者だけを集めてやるホームパーティーみたいなものもある。


 結婚式は基本的に貴族か大きな商家くらいしかやらない。逆を言えばそういう家が結婚式を行わないままいつの間にか結婚していたりすると、何か訳アリなのではと勘繰られることにもなる。


 庶民の場合は、街にいくつかある分殿で年に二度、結婚するカップルが集まって合同で祝福を受けられる日があって、これには無料で参加できる。個々のカップルで祝福を受けることもできるけど、寄付をして予約を取らないといけないからあんまりいないらしい。


 貴族の結婚式はもはや行事だし、庶民の方はそれとは真逆に全然特別感が無くて日常の一コマと化しているんだよね。もうちょっとこう、庶民でも頑張ればできるくらいの特別感がある結婚式は無いものなのか? いや、私たちが蓬莱でそういう式を作ればいいのか。私たちの国なんだしね。新しいスタイルを作って行こう。


「いや、それは構いませんよ。むしろ蓬莱としてもお二人の結婚は後押ししたいところですし。だよね、怜那さん?」


 確かにね。対立する皇国と王国の貴族同士が結婚するっていうのは、ある種の象徴になるかも。まあ殊更喧伝することは無いので、その辺はご安心を。


 え? そう言う事ならむしろ積極的に広告塔として利用してくれていい? それはまたどうして? あー、なるほど。結婚したことを周知の事実にしてしまった方が安心できると。


 更に言えば、例の婚約解消騒動はかなり広く知れ渡っていて、その被害者の筆頭であるジェニファーさんの同行は注目されていた。遅かれ早かれ皇国(実家)にも伝わるだろうから、噂として変に歪んで届くよりも正確な情報を発信してしまえと。なるほどねー。その潔さは流石です。


 そう言う事であれば遠慮なく。


「ああ、有効に活用して欲しい。これが多少なりと、皇国と王国の関係改善の役に立てばよいのだが……。難しいだろうな」


「僕らだけでは、そうかもしれないね。でも学院で知り合って、良い関係を築けている者たちは少なくない。僕らの結婚が彼らの耳に届けば、もしかしたら一歩踏み出す者も現れるかもしれないよ」


「そして私たちと同じように国を出るのか。人材の流出が深刻だな」


 ジェニファーさんがくすくすと笑いながらちょっぴり皮肉交じりの冗談を飛ばす。


 っていうか、流出した人材の受け入れ先って自動的に蓬莱になるのかな? うーん、コレはもしかして国際問題に発展してしまうかも――なんて、それはちょっと飛躍が過ぎるか。


 二人が国元を飛び出せたのは、婚約解消騒動に端を発するイレギュラーだ。普通ならば基本的に貴族の結婚は家同士の言わば契約で、そうそう覆せるものでは無い。だから二人の結婚を知ったからと言って、我先にと駆け落ちして来るようなことにはならないだろうとのこと。


 それだけ両国の対立は根深いという事。まあ大災厄以降、およそ千年もの間対立してて関係改善の兆しが無いっていうんだから、一朝一夕に解決するものじゃあないって話ね。


 ともあれ、大まかな方針は決まったね。それじゃあ後は気楽にご飯を頂くとしましょう。







「そういや今更なんやけど……、お爺ちゃん神様から貰う予定やった祝福は、結局無駄になってもうたな」


 その日の夕食の席で、ふと思い出したように久利栖が言うと、鈴音と秀が「あ~」と同意する。


「あの時は先の事がまだ分からなかったし、まあ仕方が無いわね。……というか、その後の浮島と城のインパクトが強すぎて、そっちが依頼の報酬みたいな感じになってたわ」


「そうですね、私もすっかり忘れてしまっていました。……もっとも私の場合は、皆さんについて行っただけで、そもそも報酬を貰える立場ではないと思っていたのもありますけれど」


「……考えてみると、あの時点で怜那さんは精霊樹を育てていたわけだし、自力でどうにかできるとは思わなかったのかい?」


「それはちょっと無理。あの時点では精霊樹もまだまだ未熟だったし、順調に育ったとして、一体いつ頃精霊が生まれるかも分からなかったしね。あと、祝福についてもよく分かってなかったから」


 そもそも祝福を扱えるようになるのか? 出来るようになったとして、自分自身にかけることはできるのか? いろいろと不明な点が多すぎたんだよね。その辺について明らかになったのは、大図書館で過去の文献を調べて、さらにホウちゃんに確認することで漸く確証を持てたって感じだ。


「なるほどね……。まあ、例の報酬についてはオマケがとても大きかったから、それで良しとしようよ」


「せやな。っちゅうか、俺も不満があるとかやなくて、単に忘れとったなーって思っただけやし」


「……と言いますか。無駄にはなりませんよ? 祝福を重ね掛けすればいいだけですから」


「「「えっ!?」」」


 私と舞依を除く一同が目を円くする。一方で私と舞依は顔を見合わせてしまった。別に祝福は一組に一度だけしかかけられないとは言ってないよね?


 あー……、でも他種族間や同性でも子供が生まれるようになるっていう効果だけなら、重ね掛けしても意味が無いって考えちゃうのも不思議ではないのか。


「重ね掛けなんてできるの?」


「うん。大図書館で調べた文献に載ってたし、ホウちゃんにも確認したから間違いないよ」


 ちなみに祝福を重ね掛けすると、流産し難くなったり、比較的安産になったり、産後の肥立ちが良くなったり、生まれた子供が病気にかかり難かったり、かかっても重症化し難くなったりする。それぞれの効果は、本当に少しだけなんだけど、それでも有難いことには変わりない。


 大災厄よりも前の時代では、貴族や豪商が結婚すると新婚旅行を兼ねていくつかの街を巡り、祝福を受けるというのが流行したことがあるそうな。


 まあ例によって例の如く、大災厄以降は貴族庶民を問わず旅行する人が極端に減っちゃったから、この風習も廃れちゃったという訳ね。レティやエミリーちゃんが知らなかったのはそう言う事。


「なんか御朱印集めみたいな話ね」


「あはは。ご利益を求めて神殿を巡礼するんだから、確かに似てるかもね」


 蓬莱の神社でも御朱印を作ろうかな? 物珍しさもあって人気が出たりして。今度、地球の世界樹からいくつかお手本を引っ張り出してこよう。








少々体調を崩しまして、来週の更新はお休みさせて頂きます。


気温が低くなる予報も出ておりますので、皆様も体調管理にお気を付けください。

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