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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第十六章 蓬莱諸島>
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#16-26 どの組からにしようかな?




「ああ……、なるほど。そういう事か」


 ふむと顎に手を当て、目を閉じるジェニファーさん。相変わらず、どこか男性的な仕草が似合う御仁である。


「そうだな。私とて皇国の武人の端くれ。無論、自ら前線に出て魔物どもを打ち倒し、領民を護りたいという思いはある。しかし私はもう家を……、いや国を離れた身だからな。手出しをするのは筋違いというものだ」


 確かに、それは正論だね。ただなんとな~くジェニファーさんは熱血正義漢――おとこじゃないけど――っぽいイメージがあったから、暴走が起きることが分かっていれば、助太刀に駆け付けそうな感じには私も思ってた。


 たぶん鈴音もそんな風に思ってたんだろうね。だから質問をした。なんだったらこっそりトランク飛行船で送り迎えくらいならしてもいいしね。


「もちろん心情的に心配ではある。ただ……、どうも君たちは思い違いをしているようだな」


 思い違い? 思わず舞依と鈴音の三人で顔を見合わせる。


「私は個人の武力としてはそれなりであると自負しているが、それは所詮個人レベルでの話だ。暴走という数の暴力を前にしては、一介の兵士でしかない。戦局全体を左右できるような強大な力では無いのだよ。……君たちとは違ってね」


 ジェニファーさんが苦笑気味にそう言うと、レティやエミリーちゃんが若干遠い目になりつつ「あ~」と同意する。


 ま、まあつい最近それらしいことをやってきたしね。一番派手に暴れ回ってたのはフィディだったような気もするけど。


 ともあれ、ジェニファーさんの実家については、特に配慮(・・)は必要無いってことね。陰ながら無事であることを祈ろう。







 さて、ジェニファーさんとハインリヒさんのポストに関してだけれど、ジェニファーさんは軍務のトップに、ハインリヒさんは蓬莱の法務関係のトップ――大臣か尚書か、役職名はまだ決まってない――を任せることとなった。


 これまでの蓬莱は、軍に関してはぶっちゃけ放置状態だったんだよね。カトレアとライブスが鍛錬を兼ねて集落と出島の見回りを自主的に(・・・・)しているって話を聞いたことがあるくらい?


 言い訳になっちゃうけど、外敵は来ないし治安を気にしなきゃいけないほど住人も居ないしで、これまでは必要が無かった。ただ今後は住人も増えていくし、出島の方は往来も増えて人で賑わうはず。っていうか、そうでないと困る。なのでこれからは治安維持のためにも、軍――というか、私たちの感覚では警察なんだけど――は必要になる。


 ただ規模は一般的な街の軍よりもかなり小規模(人口比で)になる。軍と騎士の棲み分けも無いし――というか、基本国王に仕えるってことになるわけだし、軍じゃなくて騎士になるのかな? ま、名称に関しては(王様)が決めるよね。


 で、軍務に関して明るい人材はいないかなーと思ってたところに、学院でその辺のことをちゃんと学んでいたジェニファーさんがノコノコやって来た。飛んで火にいる夏の虫とはまさにこのこと(←言い方)。


 良かった良かった。カトレアとライブスは現場の人で、部隊長くらいならできると思うけど、それより上の方となると心許ない。これは聞き取りをした際の、当人たちの自己評価。使える男ことファルストならちょっと追加で学べば出来そうではあるけど、彼は文官のトップ――将来的には秀の補佐的ポジションになる予定だから、武官にはなれないからね。


 ハインリヒさんはまあ順当というか、本人の希望通りにそのまま採用。あと兼務というか半ば趣味というか、城の司書的な役目も引き受けてくれた。


 城の蔵書はなかなかどうして大したもので、資料や記録以外にも、神話やら哲学やら戯曲やらいろいろある。あるんだけど、手を付けているのは魔法・魔道具関連の研究に関するものばかり。


 それじゃあもったいないなーと常々思っていたところに、大図書館で司書をやっていたハインリヒさんが「お仕事ちょーだい」とやって来た。鴨が葱を背負って来るとはまさにこのこと(←言い方。ぱーとツー)。


 という訳で、城の部屋の幾つかを改装、一部を繋げて階段なんかも設置して図書館として運用することに決まり、早速工事も始まった。こういう時にトランクは本当に便利だよねー。工事をするには中の物を取り敢えず全部どこかに移す必要があるわけで、その労力がほぼゼロになるから。







 ジェニファーさんとハインリヒさんのお引っ越し、孤児たちの受け入れもつつがなく終わり、それにまつわるバタバタも収まると、カレンダーは既に四月になっていた。


「麗らかな春の日差しに包まれ、春の花が綻び、緑の芽吹くこのき日……。昼食会兼話し合いにお集まり頂き、誠にありがとうございます」


 なんてね。


 蓬莱に越して来たジェニファーさんたちの生活も落ち着いてきたタイミングを見計らい、私と舞依の提案で昼食会を兼ねたお話合いを開いた。メンバー的には円卓会議+ジェニファーさんとハインリヒさん。役職的にはこの二人も円卓会議入りかな? 今は食卓だけどね(笑)。


「なんや結婚式の口上みたいやな」


「それを意識したからね。まあ取り敢えずご飯にしよっか」


 本日はちょっと洒落てお昼のコース。食前酒→サラダ→魚料理→パスタ→デザートという流れになっております。なお魚料理とパスタはそれぞれ二種類あって、事前に選んでもらっています。


 食前酒のなんちゃってスパークリングワイン(ロゼ)は行き届いたかな? では、かんぱーい。うん、爽やかな酸味とほんのり甘みがあって美味しい。ちなみにアルコール分はかなり低めにしてるので、エミリーちゃんも皆と同じ物を飲んでいます。


「さて、それじゃあ議題についてボチボチ話していこうと思うんだけど……、どの組から結婚式を挙げる?」


「「「「「「っ!!!」」」」」」


 ご心配なく。皆がグラスをテーブルに置いて、ちゃんと呑み込んだタイミングを見計らって爆弾を落としたからね。誰も吹き出してはいません。


「ちょっ、怜那?」「いやいやいや、いきなりすぎやろ?」


「あ、この際プロポーズがまだとかそういうのは良いから。それは各々でタイミングを見計らってしてちょーだいな」


「……コホン。まあその、僕らはいずれ結婚する相手は決まっているようなものだけれど……、怜那さんにはもう少し情緒というものを大切にして欲しいかな」


「それはゴメン。……一応言い訳をしておくと、この手の話って変にぼかして話し始めると、妙な感じになるって言うか、照れ臭くなって率直に話ができなくなっちゃう気がしてね。最初にブッ込むことにしたの」


「な、なるほど」「せやなぁ……」「ま、まあ、分かるけど……」


 でしょう? さて、分かって頂けたところで詳しく話していきましょうか。


「まず初めに……、ホウちゃーん」


 呼びかけて手のひらを上に向けて広げると、そこにポンと精霊ちゃんが現れる。呼ばれたことが嬉しかったのか、ふよふよーっと飛んで、私の頬にスリスリ、ついでに隣の舞依のほっぺにもスリスリ、そして定位置のクルミの頭の上に着地した。


 ちなみにホウちゃんっていうのは精霊ちゃんの愛称。基本、この世界の神様・精霊は固有の名が無く、互いを呼ぶときは「○○(街の名前)の」となる。なので蓬莱のホウちゃん。安直というなかれ。神様サイドの慣例に則った愛称なんだから。


「御覧の通り、蓬莱にも精霊が生まれました。見た目はまだまだ可愛らしいけど、ちゃんと祝福を与えられます。つまり蓬莱だけで正式な結婚ができるようになったってことね」


「それって、怜那と舞依が儀式を行うってことでいいの?」


「そうそう。やったことはまだ無いけど……」


 舞依にアイコンタクトを取ると、一つ頷いてくれる。


「うん、感覚的にできるようになったのが分かるよ」


 結局のところ、祝福を与えるのは本質的に精霊(神様)なんだよね。神官や巫女は地上に力を行使するための媒体でしかない。巫女が使う魔法としての祝福は、ぶっちゃけ対象を指定する程度の意味しかない。


「蓬莱の神殿で行う記念すべき最初の結婚式ってことになるわけだけど……、皆はどうしたいかな?」








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