#16-21 クラスメイトの事(忘れていたわけじゃないよ?)
その後、仕事を片付けてやって来た会頭さんを交えて、頻発している暴走について話を聴いた。なんでも海側からの襲撃を受けたダイゼンでは巨大なクラーケンが三体――ちなみにイカ型二体とタコ型一体だったそうな――も居て、港と付随する施設の七割程度が破壊されたとのこと。
話を聴く限り、私たちが発見した暴走の方が大規模だったようだ。会頭さん曰く、カニモドキことナイトメアシザースを含む巨大な魔物群が、仮にそのままノウアイラへ押し寄せたとすれば、壁の内側はともかく港は当面使えなくなっただろう、とのこと。
いろいろと話し合った結果、私たちはミクワィア邸に一泊することとなった。弱体化させたから多分大丈夫だとは思うけど、いざという時の予備戦力として待機している感じね。ここまでやっておいて、大きな被害が出たらちょっと後味が悪いし。
――で、結論から言えば出番はなかった。
たいたい予想通りに明け方に襲来した魔物の暴走は、準備を整えて待ち構えていた軍と騎士によってキッチリ殲滅された。もちろん犠牲者がゼロとはいかないけれど、他所の街と比較すれば被害は格段に少なかった。ノウアイラにとって重要な港の被害も、一部に修復が必要な程度で、通常業務はどうにかこなせそうとのこと。
私たちが弱体化させてたっていうのが最大の理由として、襲撃のタイミングが分かっていたことも大きかった。一般市民は避難させた上で軍・騎士の展開を済ませて、暴走を迎え撃つことができたからね。何事も準備は大切なのです。
これ以上、私たちの出る幕は無さそう。という事で蓬莱へと帰還することにする。ついでと言っては何だけど、定期便(エミリーちゃん号)で取引する予定だったアレコレも済ませておく。今回は途中で引き返しちゃったからね。
じゃあそろそろ出発しま――え? もうちょっと居たらどうか? なんならエミリーちゃんだけでも、あと二~三泊してもいいのではないかって? うーん、離れて暮らすことで会頭さんの娘スキーが悪化しているような……。
っていうか、定期便が就航してから、何度かエミリーちゃんとシャーリーさんも同乗してノウアイラと蓬莱を行き来してるんだから、定期的に顔を合わせてるはずなのにね。――え? その貴重なタイミングに外せない仕事があって会えなかったりすると、余計に会いたくなる? いや、そんなこと私たちに言われても(苦笑)。
ま、会頭さんの親バカ(娘限定)発作は、毎度おなじみの事。夫人が抑えてくれました。では、今度こそお暇しましょう。
ノウアイラを後にし、蓬莱へ向けて海上を飛ぶ。海の様子はすっかり穏やかで、暴走の痕跡は何処にも見えない。――瘴気はまだちょっと、いつもより濃いめかもしれないけど。
昨日はちょっとドタバタしちゃったから、今日はちょっと休暇代わりにのんびりまったり飛行中。飛行船のゴンドラに、テーブルセットと飲み物やらお茶菓子やらも出してね。
「ねえ秀、今回の報酬代わりに日本人……転移者の情報を貰ったのはどうして? 蓬莱に誘うつもりなの?」
「いや、こちらから積極的に誘うことは考えてないよ」
鈴音の問いかけに秀が即答する。
「そう。まあ、そうなっちゃうわよね」
「せやなぁ……。今から仲間に誘うんは、正直難しいわな」
そうだよね。蓬莱もある程度形になって来て、それなりの人数の住人――領民、或いは国民と言ってもいい――を既に抱えてしまっている。そしてそのトップに居るのが私たちだ。
あ、もちろん私と舞依は神殿サイドで、今後も権力は持つ予定は無い。ここで言うトップっていうのは、蓬莱を創った中枢メンバーっていうような意味ね。住人から見れば、私たちの一括りでトップのグループって感じだろう。
ちなみにこの“住人から見た場合のトップ”には恐らくレティとフラン、エミリーちゃんとシャーリーさん、そしてフィディも含まれるっぽい。住人の接する態度がそんな感じね。
そうなってしまった現状で、クラスメイトや先生を蓬莱に招いたとする。同郷の仲間とは言え、創立に携わっていない彼(彼女)らを中枢メンバーに迎えることはできない。つまり私たちの部下になるか、蓬莱の一般市民になるってわけだ。
私たちの方は問題無いんだけど、クラスメイトの方からしたらかな~り複雑だろう。つい一年と少し前までは同じ教室にいた、少なくとも法的・制度的には対等だった知り合いを王様として戴かなくてはいけないんだから。
「遠く離れた浮島で王様をやっとるって話を小耳に挟む……、くらいならなぁ。『あいつらとんでもないことやらかしおった』で済むんやろうけど……」
「蓬莱に来ちゃったら嫌でも目に入るだろうし、話も聞くでしょうしね……」
秀は昔から気さくなタイプで、それは今でも変わらない。王様のキッチンカーなんてやってるくらいだしね。住人の皆様方からも慕われております。料理はおいしいし、イケメンだし、人当たりは良いしで、そりゃあ人気者になるってものでしょうよ。
一般的な国と比べれば、すごく一般市民と近い庶民派の王様だとおもうけど、それでもやっぱり両者の間には明確にラインがある。アイドルとファンみたいな感じ? 俗っぽい喩えで申し訳ない。
クラスメイトもその辺――立場の違いをちゃんと弁えた上で接してくれればいいんだけど――難しいだろうね。むしろ先生は分かってくれそうな気がするなー。元々立場の違いはあったからね。
「お姉様には一緒に転移して来た方々の中に、会いたい友達はいらっしゃらないのですか?」
「うーん……」
エミリーちゃん……。それはまた難しい質問をするね。さて、どう答えたものか――
「怜那さんは、クラスメイトに友達はおらんかったからな」
「ちょっとー、まるで人をコミュ障ボッチみたいに……」
「まあでも、クラスメイトとの付き合いは確かに悪かったわよね」
「そ、それは皆だって似たようなもんでしょ?」
「それはそうだけど、高校に入ってからは僕らよりも怜那さんの方が忙しくしてたよね?」
「…………」
ぐうの音も出ないとはこのことか……。
いや、その、違うんですよ。ちょっと言い訳――ではなく補足をさせて頂きたい。
高校に入ってからの私は、舞依の婚約問題をどうにかしようと、手始めに人脈を広げるべく動き始めた。なりふり構わず、それこそ御子紫家や真行寺家の力すら利用してね。
当時は既に自分の巻き込まれ体質というか引き寄せ体質というか、そういうのを理解してたつもりだったから、とにかく色んな切っ掛け――因果律的に言うと原因を沢山作れば、後はどうにかなるんじゃないかってね。
楽観的と言えばそうなんだけど、一般庶民の女子高生にできることなんて知れてる訳で、取り敢えず手を付けられるところから始めたって感じかな。今は差し当たり原因を沢山作っておいて、巡り巡って何かを起こせればいいなと。
ところが、ですよ。正直言って理解してたつもりでしかなかったんだよね。どうやら自分の体質を、かな~り甘く見積もってたらしい。無意識だったそれを、意識的に引き出そうとした結果、あれよあれよという間に話が大きくなり、放課後は毎日奔走する羽目になってしまった。
そんなわけで部活はおろか、クラスメイトとの交流すら薄くならざるを得なかったんだよね……。休み時間? 休み時間は文字通りの休息だったり、予定の確認だったり、連絡だったりに使ってたからね。
そういう訳であるからして、私たちのグループを除けば教室に友達が居なかったというのも、過言では無い――と、認めざるを得ないと思う自分も少なからず存在する。(←言い訳がましい)
「今になって思えば、もう少し手探りで始めても良かった気はするけどね。認めたくは無いけど、焦ってたんだろうね。若気の至りというか、色々見誤ってたところはあったかなー」
「怜那……」
隣の舞依がぴとりと寄り添ってくれる。本当にね、こんなことになるって分かってたら、もう少しクラスメイトと交流を持つとか、学校の行事にも積極的に参加するとかできたのにね。
「怜那さん、惜しい! そこは『認めたくは無いものだな……』で始めるところやで」
「なるほど……、認めたくはない、若さ、誤る、キーワードは揃ってるね」
ちょっと、人が折角舞依としっぽりしてるのに、変な物言いで混ぜっ返さないでくれないかなぁ~?




