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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第十六章 蓬莱諸島>
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#16-20 暴走は一箇所だけとは限らない




 カニモドキは私たちが魔法を放つまでも無く、フィディがボコボコにした上でハチの巣にして、あえなく海の藻屑と消えた。――ストレスが溜まってるのかな? 後でいいお酒で労ってあげよう、うん。


 目ぼしい大物を片付けたから、一旦トランク飛行船にフィディを含む全員で集合する。


「見た感じ暴走は収まったようにも思えるけど……、怜那さん?」


「いや、まだ完全には収束してないよ」


 海面近くに行ってみて分かったけど、暴走している魔物は思ったよりも深いところにも居て、その全てを浄化はできていない。全体の七~八割は片付けたかな。


 浄化魔法を使えるのは私と舞依だけで、舞依は魔力の消耗が激しい。私はまだ余裕があるけど、深いところに居る魔物を浄化するには海に潜らないと効率が悪い。


「水中で浄化魔法もたぶんやればできると思うけど、そもそも水中での戦闘をしたことが無いし、ぶっつけなんだよね……」


 どうする? と皆の顔を見渡すと、全員が揃って首を横に振っていた。


「そこまでやる必要は無いだろう。当初の目的は、ノウアイラの被害がなるべく少なくなるように暴走の勢力を削ぐことだからね。七~八割がた片付けたなら、それは既に果たしているよ」


「そうね。何も殲滅する必要は無いのだし、怜那一人がリスクを負う必要は無いわ」


 りょーかい。じゃあ予定通り、さっさとノウアイラに向かって、会頭ドルガポーさんにこの件を伝えましょ。なるべく早いに越した事は無いからね。







 あっという間にノウアイラに到着~! って、なんだろう? 何かいつもとは空気が違うような……?


「……何か、様子がおかしいです。事件でもあったのでしょうか?」


 半ば独り言のように、エミリーちゃんがそんな感想を零した。そっか、エミリーちゃんもそう思ったのなら、私の感じた空気感はきっと間違いじゃあない


 ノウアイラはいつも大勢の人が行き交い、活気のある街だ。その点はいつもと変わらない。ただなんていうか――そう、表情かな。妙に深刻そうというか、焦っているというか、そんな感じがする。そういう人も居る、ではなくて、全体的にそういう人が多い。


「俺らよりも前に、誰かが伝えとった……っちゅうんは、有り得んよな?」


「それは無いだろう……と、思うけどね。ともかく、一刻も早くミクワィア家へ向かおう」


 よし。それじゃあ馬車モードでミクワィア家へ向かいましょうか。クルミは馬車を牽きたい? オッケー、じゃあよろしくね。


 ガタゴトと馬車を走らせて貴族街にあるミクワィア家のお屋敷へと向かう。浮島を今の場所に持って行ってから、なんだかんだと何度もノウアイラには訪れていて、この馬車を走らせることも多い。なのでノウアイラ限定で、もうあまり奇異な視線を向けられることはない。人間とは慣れる生き物なのです――なんて。


 移動しながら街の様子を改めて観察してみる。うん、やっぱりどこか浮足立っている感じだ。それもお祭り前とかの高揚感っていうんじゃなく、不安とか焦燥とかそういう負の感情ね。


 一見いつも通りのようなんだけど、街角で深刻そうな表情で話し合う人が目に付くとか、露店で接客している人の表情がお客さんが居なくなった途端に陰るとかね。一つ一つは細かいことでも、それが街全体で散見されるとなれば、やはり何かあったと見るべきだよね。


 ミクワィア家を訪れた私たちは、すぐに応接室へを通された。会頭さんは今立て込んでいるという事で、第一夫人が応対してくれている。


 挨拶とエミリーちゃんの近況報告などを一頻り済ませた後、秀が本題を切り出した。会頭さんはまだだけど、緊急だからね。


 かくかくしかじかで暴走を発見し、大物は排除して弱体化はさせておいたけれど殲滅には至っていないと。ついでにノウアイラへの到達は、大雑把な予測で明日の未明からお昼くらいじゃないかとも伝えておく。


 そう伝えると、夫人は一瞬表情を強張らせたもののすぐに取り繕い、この情報を会頭さんへ伝えるように手配をした。


「どうやらノウアイラの番が来たようですね。ホウライの皆さんの助力に感謝いたします。ノウアイラから何か対価を差し上げられれば良いのですけれど……」


「その点はどうぞ、お気になさらず。ノウアイラに大きな被害が出ると、蓬莱としましても不都合ですから。第一、特に依頼を受けたことではありませんし、殲滅したわけでもありませんので」


「そうですか。まあ、ですがあなた方に借りを作っておくと怖いですからね。旦那様には領主様から何かしら引き出してもらうとしましょう(ニッコリ★)」


 まー、その辺はお任せで。私たちが手を貸したのは、言ってみればエミリーちゃんが蓬莱に居たからっていうのが理由なので。


「お母様、ノウアイラの番……とは、どういう意味なのですか?」


「ここ最近……二週間ほどで立て続けに、近隣の街が次々と暴走の襲撃を受けていたのです」


 夫人の話では。発端はドゥズールの街――私が王都へ向かう一人旅をしていた時にスルーしたところね――が襲撃されたことで、それが二週間ほど前だった。ちなみにエミリーちゃん号の定期便が前回ノウアイラを発った直後くらいね。それで私たちは知らなかったってわけだ。


 お次はノウアイラから見て北、いくつかの領地を挟んだその先にある港街ダイゼンで、これは海からの襲撃だった。そしてさらに南のお隣である港街コパーマ。こちらは陸地からの襲撃。さらについ最近、双子ちゃんの母親の実家であるロックケイヴでも暴走が発生した。


 こうも立て続けに発生しているとなれば、次はノウアイラも襲われるのではないか? 根拠としては薄いのだけれど、そう考えるのも無理からぬことであろう。


 それにしても双子ちゃんの祖父母が居る街で暴走か……。今度お見舞いの手紙を――いや、こっちからは触れなくていいか。向こうから手紙に書いて来たら、答えるとしよう。それはそれとして、こうなってくると春先のバカンスはどうなるかな?


 なお、それぞれの暴走は既に鎮圧されている。収束まで数日はかかるけれど壁がある以上、負けは無いからね。とはいえ、収束させるには外に出て戦う必要はどうしても出て来るし、当然それなりの犠牲者も出ているようだ。


「そういえば、お隣のドゥズールでは騎士の一部隊である……勇者パーティー? とやらが大活躍したとのこと――」


「んぐっ!」「ぶはっ!」「えぇ~……」「そ、それは……」「ぐはっ!」


 ま、まさかここでその名を聞くことになるとは……。不意打ちで思わず吹いてしまった。マナー違反はご容赦ください。


 ええ、まあ仰る通り、彼らは私たちと同郷――つまり転移者ですね。どうしてそんな反応なのか、ですか? なんと言いますか、彼らのグループと私たちはイマイチ相性が悪いというかウマが合わないというか――そんな感じなんです。


 同郷とは言っても、全員と仲良くやっていけるわけではありませんしね。補足しておくと、私たちとしては特に他意は無いというか意識はしていないんですけど、彼らの側がどうにもライバル視しているようで。まあ感情的なものはどうにもならないので、なるべく近づかないようにしているってわけです。


「未だに勇者パーティー呼ばわりされてることについては置いとくとして……、ともかく無事で活躍しているようなら良かったよ」


「一番突っかかられとったのは怜那さんやん? 思うところはあらへんの?」


「うーん、直接関わるとメンドクサイ人達ではあるけど……、特には無いかな。っていうか私は、秀と舞依を特に意識しているものと思ってたし……」


「もう、怜那ったら……」


「そういうところがあるわよね、怜那は」


「なんちゅうか、考えてみるとあいつらも気の毒やな。暖簾に腕押しってことやし」


「ああ、だからこそ……だったのかもしれないね。対抗しようとしても、相手が意識してくれない事には勝負にすらならない。それに対する苛立ちも上乗せされて悪循環に陥るという」


「秀くん、鋭いです」「なるほどねぇ~」「ありそうな話やなぁ~」


 むむ、言い返せない。なんとなくその分析は正しいような気がする。まあ、仮に私が気付いてたとしても、対処のしようは無いんだけど。


「……ぐぅ」


 ちょっと悔しかったから、ぐうの音くらいは出しておこう。








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