表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第十六章 蓬莱諸島>
375/399

#16-19 沈め! カニモドキ




 じゃあ手順を確認しておきましょう。私の考えた作戦は――って感じでどうかな? 


 え? 結局私が危険? まあ多少は危険かもしれないけどね。でもさっきも言ったように、私はいざとなれば瞬時にトランクの中に退避できるから。それにカニモドキだけじゃなく、この作戦全体を考えると、やっておいた方が良いプロセスではあるんだよ。


「まあ……、それは確かに。仕方が無いね。怜那さん、十分気を付けて」


「了解。舞依もそんなに心配しなくて大丈夫だから」


 私に寄り添って、袖をきゅっと摘む舞依が健気けなげ可愛い。ふわっと抱き締めて背中をポンポンする。――作戦中だから、これ以上は自重しました。


「それは、うん。でも頭でわかってても、心配するのは止められないから……」


「うん、それも分かってるよ」


 だって私も同じだしね。


 今の舞依は、十分に強いっていうのは重々承知してる。こっちの世界に来て強い魔力も得たし、巫女になったことで精霊からの加護も上乗せされている。そんじょそこらの人や魔物では太刀打ちできないくらいに強いし、体調を崩したり病気になったりもそうそうならない。


 それは分かってるんだけど、やっぱり体の弱かった頃から舞依を知ってると、どうしても過保護になりがちなんだよね。さっきトランクの中に隠れてて欲しいと思ったのも、つまりはそういうことだ。


「ハイハイ、それ以上は後で二人きりになった時にいくらでもどうぞ」


「「は~い」」


 さて、作戦実行に当たり小さな問題が一つだけ。


 カニモドキは出現した当初は気球を警戒していた。これはたぶん浄化魔法がこっちから飛んで行ったことが理由だと思う。今はフィディが図らずも囮になってくれていることでこっちへの注意は逸れてるけど、できれば作戦を伝えて下準備を意図的に隠して欲しいところ。


 こんなことならフィディにスマホを持たせておけばよかったね。――って、ドラゴンの姿じゃあ通話に出るのは無理か。


「そう言う事なら、ホバーボードがあるやん。俺がフィディのところまでひとっ飛び行って来て、伝えて来るわ」


 なるほど、それは名案。ボードとスキー、それとエアバイクは、浮島でちょっと遠くまで移動する時とかに使ってて、私たち全員扱いに慣れている。特に久利栖はボードに乗ると何故かアクロバット飛行をやりがち――いや、何故かも何も、カッコイイところを見せたいんだろうけども――だから、今回の伝令役としては適任だろう。


 フィディとカニモドキの応酬に割り込むように、目眩ましを兼ねた魔法を当てて、その隙に久利栖に出てもらおう。


 手順を再度確認し、鈴音・レティ・フラン組と舞依・エミリー・シャーリー組とでラ〇ボ(もどき)と軽トラに分乗する。秀と久利栖はそれぞれホバーボードに。私は取り敢えず軽トラに


 ちょっと補足すると、ラ〇ボと軽トラは最初に作った超小型飛行船の中の二台。その後に作った軽トラは浮島と出島で使ってるから、トランクに収納してるのはこれだけなのです。


 それはさておき。魔法の準備してタイミングを計る。フィディが上昇するのに合わせて――よし、今っ!


 爆発する類の魔法を一斉に放つ。その際、水しぶきを上げる為に一部はわざと海面を狙う。それと同時に伝令役の久利栖がスイーッと飛びった。


 ドゴォーーンッ!


 轟音と共に派手な爆発が起こり、同時に大量の水飛沫が上がる。そこへ追撃――というか、注意を逸らす為の牽制として魔法を打ち込む。


「怜那……、結構大っきな魔法をぶっ放したわね……。アレならダメージがあるんじゃない?」


「どうだろう? 爆発って派手だけど、貫通力はそれほど無いからね。カニモドキみたいに表面がメチャクチャ堅いのにはあんまり効かないかも」


「あー……、アレね。地下施設を攻撃する特殊なミサイルみたいなのじゃないとダメってことね」


「そゆこと」


 なんて話を鈴音としつつ魔法をバラ撒いていると、フィディが咆哮を上げてカニモドキ目がけて突っ込んでいった。久利栖も移動を始めている。どうやら作戦内容が伝わったらしい。じゃあ次の段階だね。


 秀と久利栖はそれぞれカニモドキの左右、どちらかと言うと前の方へと。私たちは後方へ回り込む。フィディが真正面に陣取って、鋏とドツキ合いをしてくれてるお陰で全く気付かれていない。


 ――っていうか、フィディ。笑いながらぶん殴り合うのはどうなんだろう? 一応女の子なんだしさぁ……。これがドラゴンの本能というものなのか。まあ今回は助かってるから良いんだけど。


「怜那、皆から準備完了の連絡が来たよ」


「了解。じゃあ行ってくるね!」


「あ、待って、怜那」


 舞依が私にほんの短い間だけ抱き着き、その後で軽く触れ合うくらいのキスをする。


「無事に帰って来れるおまじない。気を付けてね」


 ふむ、なるほど。軽く甘いけれどもちょっと物足りないくらいのキスは、続き(・・)が欲しくなっちゃうから、おまじないとしては最適――なんてね。


「ありがとう、舞依」


 では改めて、行ってきまーす!


 軽トラの荷台からぴょんと飛び出し、空中に着地する。トランクをハンマーモードにして振りかぶると同時に、魔法で荷重をかける準備もする。


 チラッと後ろに目配せをすると、作戦開始の合図をする信号弾が打ち上がった。


 三方から拘束魔法が同時に放たれカニモドキに絡みつき、その巨体を海上に固定する。同時にフィディが少し後方に飛び退いた。突然体を動かせなくなったカニモドキがもがいているけど、逃げ出す時間なんて与えない。


 では、せーのっと!


 ギュイン! とハンマーを伸ばしつつ巨大化させる。今回は衝撃を集中させるために厚みは変えないから、見た目はほぼほぼ斧(ただし鈍器)だね。さらにインパクトの瞬間、魔法で荷重をかけて破壊力をマシマシに。


 ズゴォォーーン メキベキョメコベキ……


 うわぁ~……。なんか割れるというか砕けるというか、ちょっと嫌ぁ~な感触が手に伝わってくる。つまり装甲の破壊に成功したってことだ。


 第一撃は成功。自分をトランクに収納して、即座に外に出る。と同時にトランクのサイズを元に戻して手元に呼び戻し――亀裂はあそこか。間近で見るとでっかいね、カニモドキ! まあカニ部分(頭部)だけでフィディよりも大きいんだから当たり前なんだけどね。


 さておき、お次は第二撃。亀裂目がけてハンマーを振り下ろす。


 グッシャァー!


 完全に甲羅がぶっ壊れ、破片やら肉片やら体液(赤紫色っぽい)やらが飛び散る。あ、私はちゃんと球状に魔法で防御しているから大丈夫です。――けど、やっぱりキモチワルイね、こりゃ。


 ぶんっ――とハンマーを振るった上で清浄化魔法で綺麗にし、トランク形態に戻してポイッと軽トラ目がけて放り投げる。


 じゃあこれで最後! 浄化魔法、制御できる範囲で最大出力!


 私を中心にブワッと浄化魔法の光が拡がっていく。上に拡がって行く分が無駄になっちゃうのは、この魔法の仕様なので仕方が無い。でも海面近くで発動したから、概ね半分は効果があるはず。


 それにしてもやっぱり浄化魔法の練度は、舞依の方が高い。私はバカ魔力でゴリ押ししてるから規模と威力は舞依以上だけど、効率や精度は舞依の方が上だ。私も巫女、もしくは神官になってるんだけど――はて?


 誰ですか? 性格の問題なんじゃ、なんて言う人は? 先生が優しく成敗してあげるので、正直に手を挙げなさい。


 ま、まあ? 確かに舞依は真面目で敬虔で清楚で可憐な巫女さんって感じだし? それに比べると、私はどっちかって言うとテキトーな生臭坊主に近いと言えなくもない気がするのは、否めない事実と認めるのも吝かではないんだけど。(←言い訳がましい)


 うーん、これは時間がある時に、舞依に浄化魔法のコツを教わっておこうかな。蓬莱付近でも暴走が起きないとは限らないし、備えあれば患いなしって言うしね。


 ――さてと、こんなものでいいかな? カニモドキは内包していた瘴気の大部分を浄化されて、後は魔法を適当にぶち込めば沈むだろう。


 軽トラの方に視線を向けると、舞依がちゃんとトランクを抱えてくれている。よし、じゃあ帰るとしましょう。


 トランクを経由した瞬間移動で舞依の隣へと帰還する。


「ただいま、舞依」


「お帰りなさい、怜那」








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ