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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第十六章 蓬莱諸島>
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#16-17 暴走の海 ※房総の誤字ではありません




「舞依、王都の時にやった合わせ技をするよ。浄化魔法の準備をして。制御できる限界まで、全力でね!」


「うん、分かった」


 飛行船モードのまま黒い靄の大船団(秀命名)を追い抜き、少し先行したところで気球モードにチェンジ。相対速度を維持しつつ、徐々に高度を下げていく。見た感じ海の魔物の暴走は、地上のそれよりもスピードは落ちるみたいだね。


 余談だけど、クルミもようやく気球に慣れて来たみたい。とは言っても、相変わらず落ち着かないらしく、ビミョ~にテンションが低い。ただ今回は一応戦力になるつもりで来たらしく、大きくなって勇ましく杖を構えている。――何かに集中してると怖くないのかな? なかなか興味深い。


「近寄ると一層不気味やな……。靄ん中に幽霊船でもいそうな雰囲気や」


「そ、そういうホラーな事言うの止めなさいよ……」


「……考えてみると、この世界ならゴーストやリビングデッドが棲み処にしている、本物の幽霊船があってもおかしくないのか」


「幽霊船でありますか。そのような船に遭遇したという記録を見た覚えはありますが……、数は少ないのであります」


「そうなのね、それは良かったわ……。ちなみに少ない理由は分かってるの?」


「推測ではありますが、そもそも船が沈まずに乗組員が全員死亡するような状況が起きにくいということのようであります」


「えっ? そういう理由?」


「あと操船も手入れもしない難破船は、割と直ぐに沈んでしまうようであります」


「縄張りに侵入したものを、無条件に攻撃する魔物も居ますからね」


「……なんか想像してたのと違うけれど、まあ幽霊船がほとんどいないならそれでいいわ」


「ファンタジーやと幽霊船は割と定番ネタなんやけどなぁ~。現実は浪漫が無いわぁ~」


「そんな浪漫は要らないわよっ!」


 幽霊船が浪漫かどうかは個人のセンスによるとして。例えば侵入すると二度と出られないとか、消息不明になることが多い魔の海域――みたいな言い伝えは、探せばありそうじゃない? そういう都市伝説的なものは洋の東西を問わす、どこにでもあるものだからね。


 それはそうと無駄話なんて、皆余裕だね。これから暴走退治だっていうのに。


「怜那、いつでも大丈夫だよ」


「了解、私の方もオッケー。ってことだから……、秀?」


「分かった。じゃあ二人が浄化魔法を放った後、手筈通りに各自攻撃を開始。デカいのが出て来たら、都度指示を出すからよろしく」


「了解!」「よっしゃ、いくで~」「承知しました」「はいっ!」


 秀の号令に各々気合の入った返事をする。


「いくよ、舞依!」「いつでも!」


 舞依とタイミングを合わせて浄化魔法に指向性を付けてぶっ放し、そのまま扇状に薙ぎ払う。それでかなり瘴気の靄が晴れ、海面の様子がよく分かるようになった。


 うわぁー、結構海面上に姿が見えてる大型の魔物が居るねー。巨大な背びれが見えてるくらいならまだしも、イカなんだかタコなんだかの吸盤付きの触手(触腕?)だったり、巨大な半透明のドーム状の何か――クラゲかな?――が見えてたりとか、青とか黄色とかの妙に色鮮やか謎物体――ウミウシとかの類?――の背中が見えたりとか、かな~り気色悪い。


「なんちゅうか……、SAN(正気度)値がゴリゴリ削られる光景やな……」


「海の生き物って巨大化すると不気味だよね。たぶんあのサイズになると、メンダコでも可愛いっていう女子は居なさそうだ」


「っていうか、そもそもメンダコってそんなに可愛いかしら? 私にはよく分からない感覚ね」


「あのぅ……、さんち? とはどういう意味なのですか?」


「人間は深淵の真実を直視すると、正気を失くしてしまうもんなんや。それをどのくらいまで耐えられるかを数値化したもんが、SAN値っちゅうもんなんや(キリッ)」


「無駄にキメ顔で、純真な子に嘘を教えるのは止めなさい!」


「嘘なんですか?」


「嘘というか、とあるゲームをする上でのルールというか概念みたいなものかな。それを現実に持って来て使ってる感じかな。あの気持ちの悪い魔物をずっと見つめていたら、正気を失いそうだろう?」


「そ、そうですね。ずっと見ていたくはないです……」


 確かに名状し難かったり、這い寄って来てたりって感じではあるよね……。


 そんな感想を言いつつ、魔法を各自ぶっ放す。私たちの攻撃開始に合わせ、フィディも魔法をぶっ放し始めた。バチバチと火花を散らす雷のビームみたいなものが、拡散しつつ海面に降り注いでかなり派手だ。


 前回の反省から、私たちはちゃんと全員魔法発動体を使っている。基本は杖型――なんだけど、男子二名からは形状に妙な指定があったんだよね。なんだろうと思ってたんだけど、使っている様子を見て分かった。ライフルみたいに構えて魔法を打っている。つまり杖の頭のところがストックになるような感じね。


 ちなみに手持ちの素材の中から、かなり良質な魔法発動体を使っているから。性能的にも申し分ない。というか、エミリーちゃんを始めとしたこっちの世界組の皆にもホイホイ貸し出したら、恐れ慄き、そして何故か溜息を吐かれてしまった。――解せぬ。


 ま、この人数で暴走を弱体化させようっていうんだから、装備が良いに越したことはない。そう言って押し付けておいた。え? 性能が良過ぎて加減が分からない? 大丈夫大丈夫、加減をミスってでっかいのをぶっ放したところで問題ない状況なんだし。


 これが街の壁の上からとかだと、地面がクレーターだらけになって復旧が大変――みたいなことになりかねないんだけどね。何せここは大海原。問題は無いのです。


 え? 海の生き物に被害が出る? 何言ってんの。暴走が発生している時点で、もう既に被害は出てるって。むしろ早めに数を減らした方が、トータルの被害は少なくなるってものでしょ。――たぶん。


「舞依、浄化魔法もう一回いける?」


「大丈夫、もう準備に入ってるよ。ねえ、以前より浄化魔法の効率が上がってる気がするんだけど、これってもしかして……」


「うん、舞依が巫女になったからだと思う。あと精霊が生まれたことも関係してるのかも? 帰ったら精霊さんに訊いてみよう」


 そうして二度目の浄化魔法を放つ。これでかなりの瘴気を減らせたはず――


 ん!? 何かでっかいのが浮上して来るね?


「皆、どこかに掴まるか伏せて! フィディも! 念の為に上昇してーっ!」


 警告を出しつつ。気球を急上昇させる。フィディも隣についてくるように上昇する。


 すると――


 ザッバァーーンッ!!


 大きな水飛沫と共に、巨大な魔物が海面から姿を現した。


 大きな二対の鋭いはさみ、堅そうな甲殻とそれだけならカニっぽい。ただこの魔物はその後ろにエビのような胴体が繋がっていて、その胴体の両側面にはひれというかはねというか――フラップのようなパーツが並び、波打つように蠢いている。


 ええと、アレだ。カンブリア最大の生物(だったよね?)、アノマロカリスの胴体に蟹をくっ付けたような――って表現で分かるかな。そんな感じ。ちなみに目もアノマロカリスっぽくて、大きな複眼らしきものが三つ突き出している。


 ま、まあ、アレだね。体表面がヌメヌメしてる系とか、触手がウニョウニョしてる系じゃない分、嫌悪感キモさは低めかな? まあ胴体部分の虫っぽい感じがきらいっていう人も居るだろうけど。


 え? アレの胴体下部は無数の触手のような足が生えてて、ウゾウゾ動いてる? うへぇ、それはあんまり見たくないね。


「って言うか、フランはアレのこと知ってるの?」








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