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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第十六章 蓬莱諸島>
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#16-16 急報




 その知らせが来たのは、舞依と二人で神社の建設現場で棟梁さんと話している時だった。


『怜那さん、緊急事態だ。作業を切り上げて、こっちに来て欲しい』


 通話越しの秀の口調が固い。いつもは落ち着いた柔らかい口調なのに珍しいね。よほどのことが起きたらしい。ここで問い詰めてもしょうがないし、手短に了承を伝えて通話を切った。


 急いでるみたいだから、転移してしまおう。舞依と手を繋いで、魔法を発動。次の瞬間には城の転移部屋に景色が変わっていた。


 精霊さんが生まれてから、精霊樹の地脈が格段に強くなっている。お陰で浮島のテーブルマウンテン上なら、大抵の場所から城の転移部屋に転移できるようになった。任意のポイントから任意のポイントへの転移は、安全性の面から自重しております。


 ちなみに地脈の魔力はなるべく使わず自前の魔力で転移してるから、魔力をごっそり持って行かれる。なので、緊急でもなければ使わない。精霊樹の魔力は加護の方に使いたいからね。


 秀の執務室に入ると、そこには既に主要メンバー全員が揃っていた。――エミリーちゃんの顔色が悪い。どうしたのかな?


「……で、一体何があったの?」


 秀の――というか城主の執務室は広く、主要メンバーで会議をする時にも使えるようにドーナツ状の円卓(特注)が用意されている。私の席に着きながらいきなり本題に入る。私と舞依を除く皆は事情を知ってるみたいだしね。


「定期便に出ていた蓬莱丸が途中まで……大体四割くらい行ったところで、海の異変に気付いて引き返してきたんだ」


「異変? 単純な時化ってわけじゃないよね?」


「うん。魔物の暴走だ」


「海の魔物の暴走か。……でも、だったら別に普通にノウアイラに行けばよかったんじゃない? エミ……蓬莱丸は飛べるんだし」


 っていうか、本来は飛行船。海の魔物なら飛んで追い越してしまえばいい。


 ちょっと話が逸れるけど、蓬莱丸は定期便として運行する際は、蓬莱を発つとすぐに海面すれすれくらいまで高度を下げて運行している。というのも乗組員が基本船乗り出身なので、海面が近い方が感覚的にやりやすいのだとか。安心感があるとも言う。


 その方がスピードも出せるっていう合理的な理由もあるしね。本当は海に浮かべたいらしいけど、そうすると抵抗があるからね。入港時を除けば、一応(・・)飛んでいる。


 考えてみると、海の異変に気付けたのは海面近くを飛行してたのが功を奏したとも言えるね。


「それも検討したらしいんだけど、少し様子を観察したところ、どうやら行き先が同じらしくてね」


 ノウアイラに? それって一大事じゃない。いや、まあ他の港街に行っても一大事には違いないんだけど、やっぱり関係が一番深いところだからね。


 なるほど、エミリーちゃんの顔色が悪いのはそう言う事か。家族の居る街だし、心配だよね。街の構造的に港は壁の外側にあるし、運が悪いと襲撃に巻き込まれる可能性もあるからね。


「そう言う事ならひとっ飛び現場に行って、ちゃちゃっと片付けちゃおうよ」


「……まあ、怜那さんならそう言うとは思ったけどね」


「えらい簡単に言うやん。今回のは自然発生の暴走やし、王都の時とはスケールが違うんとちゃうか?」


 確かにあの時は人為的にトリガーを引いて発生させたから、規模は通常の暴走よりも小さかったはず。言うなれば、自然発生するにはまだ瘴気エネルギー不足だったわけだ。当然、自然発生した今回の方が規模は大きいと予想される。


「私たちだけで収束させられるのかしら?」


「全部を片付けるつもりは無いよ。私と舞依で全力の浄化魔法をぶっ放して弱体化させたら、大物の魔物だけを間引くくらいでいいんじゃない? その後ノウアイラに先回りして、ミクワィア家に知らせて対応して貰えば被害は最小限に抑えられるでしょ」


 現場を見て見ない事には断言できないけど、やろうと思えば私たちだけで収束させることもできなくはない――と思う。ただ蓬莱に向かって来ているなら防衛するのは当然だけど、今回はそうじゃないからね。


「……そうだね。僕らにできる対応としてはその辺りが適切だろう。冷たい言い方になるけど、本来は蓬莱が手を出す筋合いのものでは無いからね」


 ミクワィア商会は現状ではいわば蓬莱の御用商人だし、本拠地であるノウアイラの経済状況はひいては蓬莱にも影響が及ぶ。だから被害が最小限になるように、無理のない範囲で陰ながら協力する。介入の名分としてはそんな所かな――と、秀が語る。


「面倒な話だけれど、介入するにせよしないにせよ、線引きの理由付けをしないといけないものね」


「俺らは暴走が起きるたんびにどこからともなく駆け付ける、使命感に燃える国際救助隊(サン〇ーバード)やあらへんからな」


「そう言う事だね。じゃあ早速準備を整えて出発しよう」







 トランク飛行船で現場へ急行する。近づきさえすれば後は瘴気の気配で特定できるから、位置に関しては大雑把で大丈夫。


 今回、折角だから久しぶりに大暴れしたいと言って、フィディはドラゴンの姿で飛行船の傍を飛んでいる。こうして近くで改めて見ると、空を飛ぶドラゴンの姿は圧倒的というか、強者感が凄くてカッコイイね。――変身するとチビッ子だけど。


 っと、大きな瘴気(移動中)の反応があった。思ったよりも移動速度は速くないみたいだね。


「王都の時も思ったけれど、アレは何度見ても不気味ね……」


「同感。黒い靄の大船団って感じだね」


 大小の黒い靄の塊が一方向へ集団で移動する様は、秀の言うように船団のように見える。海の魔物だから大半は海中に居るんだけど、瘴気の靄は海面にも表れているらしい。あと一部の大型の魔物は背中や頭が海上に出ているし、よく見ると海鳥もいる。


「それにしても予想以上の規模だね。……エミリーちゃん、大丈夫?」


 渡したが声を掛けると、エミリーちゃんは握っていたシャーリーさんの服をパッと離した。怖くなって無意識に手に取ってしまったのかもね。


「だ、大丈夫です。初めて間近で見たので、少しビックリしてしまっただけです」


 キリッと表情を取り繕うエミリーちゃん。まあ貴族のお嬢様が暴走を目の当たりにすることなんて、普通は無いよね。その為に壁があるわけだし。――ま、まあジェニファーさんは有りそうだけど(汗)。


 ちなみにレティも初めてらしいけど、動揺した様子は少なくとも表面的には見えない。そこは流石に王族ってところで、いざという時は前線に出て兵を率いるよう教育は受けているそうだ。


 フランはと言うと、以前研究の為に壁の上から見学(・・)したことがあるんだって。魔法使いとして十分戦力になれる実力はあるはずなのに、あくまでも“見学”ってところがらしいというかなんというか。


「自然発生の暴走っちゅうんは、ホンマに驚異的やな。これが全部港に押し寄せたら、ごっつい被害が出るんやないか?」


「……港街は少し特殊で、港は壁の外にありますけれど、精霊樹の加護はある程度働いているそうです。ですから多少は魔物の勢いも落ちるそうですけれど……」


「多少は、程度やと、焼け石に水っちゅう感じなんやないか?」


「はい……。記録を見る限りでは、港は一部無事であることもありますが、建物の方はほぼ壊滅……という状況になります」


 この大船団を見ると、まあそうだろうと思う。むしろ港の一部でも残るなら御の字って感じだよね。まあでも――


 ポンポン テシテシ


 強張っているエミリーちゃんの肩を軽く叩くと、同じタイミングでクルミが脚を軽く叩いていた。この子は意外とよく気付くというか、空気を和ます才能があるというか、面白いよね。ちなみに今日のエミリーちゃんは動きやすいようにと、珍しくパンツスタイルです。乗馬をするお嬢様的な。


「お姉様……、クルミちゃん……」


「大丈夫、そんな酷いことにならないようにこうして私たちが来たんだしね」


 エミリーちゃんが顔を上げて周囲を見渡すと、皆がニカッと笑顔を見せる。秀と久利栖はニュッとサムズアップ付きで。そして私を忘れるなとばかりに、フィディが「グオゥ!」と声を上げる。――フィディ、それはちょっとおっかないから。


 ビックリしたエミリーちゃんが、一拍置いてからクスクスと笑い出す。


 さて、それじゃあ緊張も解けたところで、一つぶちかましてやりましょうか!








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