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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第十六章 蓬莱諸島>
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#16-12 星人とは?




「冗談を抜きにして言うと……、鈴音は別にこれから相手を探しに合コンに挑むわけでも無いんだし、胸の大きさなんて気にすること無いんじゃない?」


 顔とスタイルは分かりやすいアピールポイントだし、特に男性は胸に目が行きがちだからね。そういう場面で巨乳は立派な武器の一つと言える。――まあ、お目当ての相手が巨乳派かどうかっていうのはまた別問題だけど。


 それはそれとして、鈴音の場合は既に相手は決まってるんだし、後は自分の中で折り合いをつけるしかないでしょ? つまるところ自己満足ってことね。まあその、私だって舞依のと自分のを比べると、そこはかとなく“負けた”って感情が湧いてくるし。あとはアレかな、服の似合う似合わないはあるよね。


 お腹周りのお肉が……、みたいな悩みなら努力で何とかできるんだけどねー。胸の大きさはどうにもならない。――いや、色々と話は知ってるよ? 牛乳とか大豆とかね。でもああいうのって都市伝説っぽいというか、所詮は体質とか遺伝の前には無力というか、イマイチ信用できないんだよねー。


「それは……、まあ、そうなんだけど……」


「鈴音にしてはなんか煮え切らない反応だね。……ハッ! もしや私が知らないだけで、実は秀はおっぱい星人だったとか!?」


「えっ!? そうなんですか、鈴音さん?」


「おっぱ……っ! ちっ、違うわよ! いや、その、ちゃんと聞いたことは無いけど、少なくともそういうそぶりは見たことが無いわ」


 まー、そうだよねー。秀はそういうのを悟られるような、迂闊な事はしないよね。なにせスパダリ紳士だから。あ、一応補足しておくと、久利栖だって口ではあれこれ言うけど、あからさまに視線を向けるような真似はしない。――ケモ耳と尻尾に関しては、その限りでは無いけどね。


「あの、お姉様、合コンとは何でしょう? あとその、お、おっぱ……ぃ星人というのも……」


 しまった、エミリーちゃんが興味を持ってしまった。どうしよう……、誤魔化すべきか……え? 別に本当のことを言って構わない? ホントに?


 まあエミリーちゃんも今年は一二歳になるし、日本で言えば小学校六年生。思春期真っただ中って感じか。シャーリーさんによると、一二歳と言えば保護者付きでお茶会に出るとか、貴族令嬢が表舞台に顔を出し始める頃なんだとか。一歩か半歩、大人の仲間入りってところかな?


 そういう事なら説明しましょう! とは言っても、合コンの方は簡単だよね。こっちの世界にも合コン的な――つまり出会い(・・・)が主目的の――夜会があることは、コルプニッツ王国で体験済み。パリピ貴族が集う例のアレね。なのでそういった類のをずっと砕けた感じにしたものなんだよ――と説明する。


「お姉様の世界では、平民しかいないのですよね? 平民が夜会を開いていたのですか?」


「あー、いや、夜会っていう程大袈裟なものじゃなくて、男女それぞれ五人ずつとかで飲食店に集まって、食べてお喋りして、気が合ったら連絡先を交換して後日二人でまた会う……みたいな? 場合によってはお持ちk――」


「怜那……」「それは言い過ぎ」


 ゲフンゲフン。おっと、口が滑った。この温泉水、結構滑らかだなー。


「まあ、そんな感じのイベント……、食事会の一種かな? ちなみに大抵は参加者の誰かが幹事……旗振り役で、人づてに参加者を集める……らしいよ」


「それとは別に主催者がいて、参加者を広く募集するようなのもあるわよね」


「街コン……と呼ばれるようなものですよね」


 あー、たまに地方ニュースとかで取り上げられたりするよね。規模が大きいし婚活パーティーって言った方が良いような気もするけど、アレも合コンの一種と言えばそうなのか。


 え? 私は参加したことがあるのかって? いや、全然無いよ。だから話を聞いたことがあるってだけね。舞依や鈴音の参加するパーティーに潜り込んだことは何度もあるけど、ああいうのは合コンとはちょっと趣が違うからね。


 どう違うかっていうと、うーん……、最大の相違点はやっぱり“目的”だね。合コンはぶっちゃけ交際相手を探すのが目的。私が潜り込んでたパーティーは人脈を広げる為――は、私の目的だった。パーティーの趣旨としては、同年代の将来関係があるかもしれない者同士で面識を持っておくこと、かな。


 さて、問題はおっぱい星人の方だけど――


「ええと、つまり一言で言うと……、大きな胸至上主義者?」


「そう、かな。胸のサイズが大きい女性には特に優しかったり、親切だったりとかも聞くね」


「舞依も結構言うわね……。要は性癖の一種かしらね。だからフェチ……とかと同類の言葉だと思うけど……」


「ええと……、そうすると久利栖さんは“耳としっぽ星人”という事になるのでしょうか?」


 眉を八の字にして苦笑気味に言うレティ。あー、久利栖のアレはねー。恋愛対象として好きなのはレティっていうのは間違いないんだけど、獣人さんのケモ耳と尻尾にはついつい視線が行くからね。本人は隠してるつもりみたいだけど、女性はそういう視線に敏感なのだよ。


 ちなみにレティが獣人の先祖返りであることは、エミリーちゃんとシャーリーさんも既に知っている。城で一緒に暮らしてるからね。気を抜いてることも多いし、何かの拍子に知られるくらいならってことで早い内に明かしていた。


「あはは。それが何故か“星人”って言うのはおっぱいだけなのよね。何でなのかしら?」


「巨乳を星に喩えたとか?」


「プッ! いや、そんなまさか……。っていうか、星というよりは島よね」


 湯船に浮かぶミルク色の双丘を見ると、なるほど確かに“島”の方が正しい表現な気がする。でも“おっぱい島民”はな~。語呂が悪いというか、スケールが小さいというか、なんかピンとこない。


「も、もう……。流石に恥ずかしいから……」


 ああっ、島がお湯に沈んでしまった――なんて(笑)。


 さて、視線を惹き付けて止まない麗しの双子島が沈んでしまったことだし、アホな話はこの辺でお終い。温泉島の感想とか改善点とかを聞いてみましょうか。


 聴取中…… 聴取中……


 ふむふむ。概ね好評みたいだね。温泉は気持ち良いし、眺めは最高。洗い場も十分な広さがあるし、脱衣所は休憩スペースも併設してるから、湯上りにのんびりすることもできる。十分満足できる施設になっていると。王族・貴族の方々を招いても大丈夫そう? オッケー? それは良かった。


 じゃあ細かいところの改善点で言うと? ああ、お湯の温度が結構高めだから、苦手な人は居るかもと。それは湯舟の場所でだいぶ違うから、どこかに説明書きでもしておこうかな。


 他には? 護衛や侍女が控える場所があるといいかも? うーん、それは今から作るのは難しいね。そういうのがどうしても必要な人が来る時は、貸し切りにして対応するしかないかな。


「……というか、この温泉島は誰でも使えるようにするの?」


「当面は……、少なくとも双子ちゃんがバカンスに来るまでは、城のメンバーと招待客だけにする予定。それ以降は状況を見て、かな?」


「状況って言うのは、例えば出島にどれだけの往来があるか……とか?」


「うん。それほど大きな施設じゃあ無いからね。出島のエミリー商会本部に泊まる人にはオプションで提供するとか、そんな感じになると思う」


「まあ、そんなところでしょうね。基本は城の付属施設扱いで、ゲストは完全予約制で対応……。ああ、でも維持管理要員は必要よね……」


 ふっふっふ。その点に関しては抜かりは無いのですよ!


 何故なら使わない時は、転移と幻影魔法を状態維持の魔法に切り替えるようにしているからね! 維持管理は最低限で大丈夫。流石に特別なゲストが来る時は、事前にちゃんと掃除しないとダメだろうけど、私たちが使う時なら、入る前に魔法で軽く掃除するくらいでいいと思うよ。


 蓬莱は基本人手不足だしね。温泉島は言ってみれば私の趣味みたいなもので、人員を割いてもらう訳にはいかないから。


「それはまた……、相変わらず好きなことには手を抜かないのね」


「ふふっ、それは怜那ですから」


「褒められたと、思っておこう!」








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