#16-08 王都屋敷でプチパーティー(後編)
こういう時は――話を逸らす!
「まあ二人は……特にあの時のアンリちゃんは素性を隠す必要があったし、優秀な王族として振る舞うよりも、ちょっと問題があるくらいを装った方が良かったのかもね」
そう言うと、ドゥカーさんとエイシャさんが深く頷いた。
「うむ。ヘンリー殿下はもっと学びたいご様子じゃったが……」
「ヘンリー殿下は知識欲が旺盛でございますから……」
教育係の立場としては、その望みを叶えてあげたかったんだろうね。そういう意味では、十分以上の教育体制が整った今の状況は良かったのかもしれない。
あー、でもなー。自分が学びたいことや知りたいことを、好きに選ぶことはできなくなっちゃったってことでもあるんだよね。帝王学? とかが優先されるだろうし、人心掌握術なんかも含まれるのかな? なんにしても一般的な勉学とは方向性が違う。
やっぱり自分の興味のあることを探求していくならやる気も無限に湧いてくるってものだけど、押し付けられた“やらなくちゃいけないこと”となるとテンションが上がらないんだよね。まあ、嫌々やり始めたことでも意外と面白かった、なんてことも結構あるんだけどね。
要するに、ヘンリー君が今学んでいることに、義務感だけじゃない興味を持てると良いんだけどな、って話ね。
「もうっ、その言い方じゃあまるで私は、本当に噂通りに遊び惚けてたみたいじゃない」
「……あの頃の姉様は、本当にその通りだったような……」
その時、ロッティちゃんの目がギラリと物騒な光を放った! そして素早い動きで両手を伸ばすと、ヘンリー君のほっぺを摘まんでみょ~んと引っ張る。
「ヘ~ン~リ~。余計な事を言うのは、この口かしらぁ~?」
「ひあっ! ね、ねえひゃま、い、いらいれす。ひゃめれくらさい~」
一頻りみょんみょんとほっぺを弄んだロッティちゃんが、手を放して満足そうにフフンと笑みを浮かべる。一方、若干涙目のヘンリー君は両手をほっぺに当てて摩っている。
うーん。双子とは言え、やはり弟は姉に逆らえない生き物なのだろうか? 実に興味深い。
さておき。ヘンリー君が王太子っていう立場になって双子の関係性がどうなるのかなーなんて、ちょっと心配してたんだけど、あんまり変わって無いみたいで良かった。
「もう……、姉様は相変わらずなんだから……」
ヘンリー君が溜息まじりにそう言うと、ロッティちゃんはそっぽを向いて口笛を吹く真似をする。ちょっとお行儀の悪いその仕草は、もしかすると私たちの影響? だとしたらスミマセン。
「あはは……。まあでも、変わらないところもあるだろうけど、ロッティちゃんもちゃんと成長してるよね」
「本当? 私、成長してる?」
「うん。さっきのロッティちゃんの説得はなかなか見事だったよ。言葉の言い換えとかニュアンスを変えることで、相手が受け入れられるように話を進めるのは、上手いやり方だね」
「なるほどぉ……」「ちょ、怜那さん?」
「付け加えて言うなら、情報収集を事前に行っていたのが良かったね。特にロッティちゃんが情報を握ってることを、ドゥカーさんたちに知られてなかったのが良かった。自分が知っていることを相手に悟らせなければ、切り札として使える場合もあるからね」
「わ、わかった」「いや、だから……」
「あと、これはとても重要な事なんだけど、武器はここぞという時にだけ使う事」
「武器って?」「「…………」」
「例えば手に入れた情報もそうだし、ロッティちゃんは可愛いからそれも一つの武器だね。でも多用すると効果が薄くなるし、警戒されちゃったら武器を手に入れるのも難しくなるでしょ?」
「うん、それはそうね!」
「だから普段は真面目に頑張るの。それこそ周りに『もっと我儘を言ってもいいんですよ?』って言われるくらいにね。それでどうしても譲れないと思った時に、武器を突きつけるの」
「……でも、その時に有効な武器が無い時は?」
「もちろんそういう時だってあるかもね。だからそうならないように、色んな方向に目や耳を向けておくの。人脈を広げておくのも重要だね。難しいことだけど、ロッティちゃんの立場と可愛さがあれば、きっと出来るよ(ニッコリ★)」
「……し、師匠っ!(キラキラ☆)」
両手を組み合わせて私を見上げるロッティちゃんの両肩に、そっと手を乗せて深く頷く。
――また一人、少(幼)女の蒙を啓いてしまったようだね。うんうん、良いことをしました(←自画自賛)。
「あ、あかーん! 怜那さん二号が誕生してしまうかもしれへんで?」
「ま、まあ、頼もしいと言えなくも無いし、悪いことでも間違った事でもないんだけど……ね」
いやいや、ロッティちゃんの王族っていう立場を鑑みれば、私なんかよりもよほどスッゴイ存在になるんじゃない? 将来が楽しみだね!
ピシューン フォン パキーン! × 三
「あいたっ!」「なぜにっ!」「えっ、僕も?」
「もう……、私たちが口を挟む問題じゃないって言ったばかりでしょうに」
呆れ混じりの溜息を吐きつつ、鈴音がセイバーをパシンパシンと手に打ち付ける。それにしてもいつの間に三連撃まで……。もしかして練習してるの?
「今のは俺らには関係ないやん。とばっちりは勘弁やで?」
「黙らっしゃい! 結局二人とも否定はして無いんだから同罪よ」
まあロッティちゃんは王族だし、王太子の双子の姉っていう立場もあるからね。私の言ったことは参考にしつつ、自分なりのやり方を見つけていって欲しい。王城の小悪魔――なんて呼ばれるようになったりすると、面白いよね。
え? 全然面白くない? いやいや、そのくらい強かじゃないとマズいんじゃない? ロッティちゃんの立ち位置はさ。
だから真面目な話、本当に危ないことになりそうなら、蓬莱に遊学でもすればいいよ。――二人にもしもの事でもあれば、正直言って寝覚めが悪いからね。
――まあ、起こるかも分からない未来の話は置いておくとして、楽しい近い未来の話をしようよ。結局二人はバカンスを取れるの?
検討中…… 検討中……
行事やお勉強のスケジュールを確認した結果、今から調整と根回しをすれば春先には纏まった休暇が取れそうとのこと。
じゃあ私たちもそれに向けていろいろと準備をしておこう。具体的には温泉島とスパリゾート島をオープンさせて、エミリーちゃんの新型飛行船を完成させて、他には――なんかアスレチックみたいな遊べる施設でも作ろうかな?
あ、そうそう、これからは連絡がかなり楽に取れるようになるので、タイムラグとかの心配はいりませんよ。後で説明しますけど、この屋敷と蓬莱とで、通信の魔道具を使えるようにしたので。あと蓬莱への一方通行ですけど、手紙も届きます。
「そ、そんなことが……」「一体どのような方法で……」
「あー……、やっぱりその反応が普通なんですね。フランもとても驚いてました」
「それはそうですよ、レイナさん。もう少し現代魔法技術の水準というものを理解して下さい。外に漏れたら大変な事になるものも沢山あるんですよ?」
おっと、レティから苦情が来てしまった。まあ、今回のは限られた人しか使わない、プライベートな回線だから気にしない方向で。え? それはそれで勿体ない? って、言ってることが矛盾してますよー。
「それじゃあ、手紙を書けばすぐにレイナに届くのね!」
「うん。お返事は正規のルートになるから、だいたい半分の速さでやり取りできると思うよ」
私がそう言うと、双子ちゃんは喜んで「絶対に手紙を書くから、返事を頂戴ね」と約束することになってしまった。私たちの故郷では、もはや手紙はあんまり書かなくなっちゃったんだけどね。――手紙の形式について勉強しないと。
それにしても本来は、王家やミクワィア家とのホットラインとして利用するつもりだったんだけど……、まあ、これはこれで良いか。




