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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第十六章 蓬莱諸島>
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#16-06 久しぶりの王都デート




 王都滞在二日目。午前中は買い物デートに出かける。舞依と二人っきり――ではなく、クルミも居る。置いてけぼりにすると拗ねるからね。相手をしてくれる他の誰かが居れば大丈夫なんだけどね。まったく、寂しがり屋さんめ。


 必要なものを買いつつ、あっちへフラフラこっちに立ち寄り、ショッピングを楽しむ。今日は主に服と靴かな。蓬莱ではあんまり出番は無いんだけど、せっかくだから冬物を見て回る。


 私はファッションにあまり拘りは無い。どっちかって言うとデザインよりも、動き易さとか素材の品質とか丈夫さとか、スペックの方を優先する。いつもあっちこっちへ動き回ってたから、自然とそういうものを選ぶようになっちゃった感じかな。アウトドア向けのとか機能的で良いよね。


 もちろん舞依とデートする時なんかは、それなりに釣り合う装いになるようにしているよ? ただそういう時でもやっぱり、スカート比率は低かったかな。割合にして三割くらい?


 舞依の方はと言うと、基本的にお嬢様っぽい装いを好む。フェミニンだったり、ゆるっとしてたり、カッチリしてたりと方向性に違いはあれど、どこか落ち着いた雰囲気のある感じね。好む――というか、もはや染み付いてる習慣なのかもしれない。


 ただファッションに疎いって訳じゃあ無い。ボーイッシュだったりギャルっぽかったりのコーディネートを考えるのは、結構好きみたい。その結果どうなるかと言うと――


 私が着せ替え人形になるのです(遠い目)。――なんて、私も楽しいから良いんだけどね。


 ただね~、なんていうかこう……ヒラヒラしたのというか、若干メルヘンが入った女の子の装いというか、ファッションとコスプレの境界線上というか、そういうのだけは正直言って遠慮したいんだよね。内面が致命的に合って無いから拭いようのない違和感があって、居心地が悪い。


 ただ舞依に言わせると「ビジュアル的には完璧(キラキラ☆)」なんだって。服のショッピングメインのお出掛けをすると、必ず一度は試着する羽目になる。そして写真を撮られまくる。場合によっては店員さんも撮ってる。いや、まあ、いいんだけどね。舞依が楽しそうだから。


 というわけで、今回も三回ほどそういう目に遭ったのでした。日本に居た頃よりも多いのは、こっちの世界の、特に貴族・富豪向けの区画の店にはそういった服が数多く取り揃えられてるから。ファンタジー衣装の本場――というか現地だもんね。


 ――この時に試着した服は結局買わなかったんだけど、お店の人が大層気に入り、コーディネート一式をマネキンに着せて目立つところに飾る事となる。ご丁寧に私にそっくりのウィッグまで付けて。で、それを見たティーニさんに褒められて、時間差で大ダメージを受けることになるんだけど――それはまた別の話。


 そんな感じでショッピングを満喫した私たちは、ランチのピークを過ぎた頃合いを見計らって屋台街へ向かう。


「早いとこ蓬莱でも、こんな風にショッピングできるようにしたいね」


「そうね。でも沢山の商店が成り立つようにするには、住人がもっと増えないとダメじゃない?」


「んぐっ、そうだった。お店ができても開店休業じゃあしょうがないもんね……。結局はそこがネックなんだよね」


「急いでもどうにもならないことはあるから、着実にやって行こう?」


「焦ってもしょうがないしね。……それにしても、屋台街はちょっと落ち着いた感じかな?」


 ピークを過ぎた時間帯っていうのもあるけど、去年――いや、アレは年明け前だったからもう一昨年か。あの凄い過熱ぶりからすると、ちょっと熱気は冷めた感じ。あ、賑わってはいるんだよ? 比較の話ね。


「そう……かも?」


「もしかして、舞依たちがやってた“幻の屋台”が無くなっちゃったせいかな?」


「もー、怜那ったら。そのネーミングはちょっと……って言ったでしょ?」


 あはは、ゴメンゴメン。


 いくつかの屋台でちょこちょこ小さいものを摘まみながら話を聞いてみたところ、やっぱり牽引役だった秀プロデュースの屋台が無くなったことは大きかったみたい。ただそれだけじゃなくて、ここで超人気になった屋台の幾つかが実店舗を持つに至り、屋台街を相次いで卒業(・・)して行ったのも要因なのだとか。


 今はその卒業した成功者たちに追いつけ追い越せな感じで、新たな挑戦者が登場――しては消えていく状態なのだとか。ま、そうそうサクセスストーリーが転がってる訳は無いってね。


 ちなみにブームのお陰で屋台街全体の技術と味が向上――調理用魔道具の進歩も理由の一つ――したから、今は一過性のブームは終わって安定した賑わいがあるようになったそうだ。遊びや観光スポットとして定着したって感じかな。


 今回私たちが選んだメインディッシュは、ちょっと面白いシチューみたいな料理。かったいパンというかビスケットなのかな? そんな感じの生地で作った器に、数種類ある汁気少なめなシチューの中から一つを選んでよそって貰うシステムの屋台で、私と舞依とクルミで違う味のものを頼んでみた。


 食べてみた感想としては、味はまあ及第点って感じね。普通に美味しい。定食屋さんの味って言うか、家庭料理の延長線上って言うか、飽きが来なくて毎日でも食べられるって感じの料理だった。


 だから“美味しい”よりも“面白い”って感想の方が強いね。器ごと食べられるんだけど、ある程度シチューを浸み込ませないと固いし、かと言ってのんびりし過ぎると、底がフニャフニャになりそう。底はちょっと厚めだから抜けることは無いと思うけど。


 その辺のバランスを考えながら食べるのが、なんか楽しかった。ちなみにスプーンも器と同じ生地で出来てて、二つ貰える。ゴミが出ないのは良いよね。ちょっと食べにくいのはご愛敬ってことで(笑)。


「面白かったし味も悪くなかったけれど、底を食べるのがちょっと大変だったかも……」


「結局半分くらい貰っちゃったからね」


「ありがとう、手伝ってくれて。怜那は上手に食べてたね」


「コツはねー、ちょっとずつ壁を壊しながら食べていって、底が近づいて来たらガブッといっちゃうんだよ。オープンサンドを食べる感じで。舞依は口を大きく開けて食べないから、ちょっと難しいかもね」


「あー……。ハンバーガーを食べる時なんかはもう諦めちゃうんだけど、スプーンもあったしシチューだと思ってたから……」


「ポットパイの亜種って感じだったもんね。クルミも食べ終わったかな……ぷっ!」


「キュウ?」


「あら、ふふっ。もう、口の周りが凄いことになってるわ。待って、今拭くものを……」


 コテンと首を傾げるクルミは、口の周りを盛大に汚していた。今のクルミは冬毛のミルク色で、しかも注文したシチューがデミグラス系の色だったものだから、結構凄いことになっている。


 舞依が取り出したハンドタオルを魔法で濡らして、丁寧にクルミの顔を拭う。あー、でもそれだけじゃちょっと取り切れないね。待って、今お湯の球を出すから――ほら、これで顔を洗って。うん、オッケー。あとは魔法の温風ドライヤーで乾かしてと。


「キュッ!」


 ピッと斜めに手を挙げるのは、多分クルミ的「サンキュ!」なんだと思う。ええと、一昔前の二枚目が指を二本立ててやりそうな感じ、みたいな? 久利栖あたりがやってるのを見て覚えたのかな?


「さーってと。ちょっと物足りないけど、今日のところはボチボチ戻らないとね」


 まだ時間はあるけど、夕方までにはレティが帰って来る予定になってるからね。


「そうね。合鍵は渡してあるけれど、ちゃんと出迎えてあげたいものね」


 というわけで、のんびり散歩しつつ大通りまで歩き、トランクをスケーターモードに。クルミがトランク本体部分に飛び乗り、後ろの舞依がギュッと私の腰に手を回す。背中に感じるふかっとした温もりが幸せです。


 では、お家に帰るとしましょー。








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