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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第十五章 大図書館の恋(変)人たち>
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#15-31 最後のサプライズ(前編)




 リーブネスト自治領の精霊樹は、一番下の枝は大人が背を伸ばせば手が届くくらいの高さにある。で、他の精霊樹には無い文化というか風習というかそういうのがあって、それは私たち日本人にはどこか見覚えのあるものだった。


「七夕の短冊みたいね」


「うん。それとおみくじを木に結び付けるのを足して二で割った感じかな」


 精霊樹の一番下の枝には、色とりどりの紙が無数に結び付けられている。これはココを訪れた人たちが願掛けに結び付けて言ったもので、色によって意味合いが異なる。赤が勝負事や試験などに関することで、白が健康、青が水に関係すること(主に航海の安全や豊漁祈願)などなど。


 パッと見で一番多いのは赤かな? まあ場所的に学院生が一番多いんだろうし、そうなると試験の合格とか、大会での勝利とかの願掛けが多いんだろう。あとは――ピンク色。これは人間関係に関することなんだけど、まあぶっちゃけ恋愛成就の願掛けだね。


 ちなみに祈りを込めながら枝に結び付けるっていうのが元々のやり方で、最近は紙に願い事を書いた上で、それが見えないように折りたたんで結び付けるのが流行っているそうな。


 元々の、とは言ったけど、実はこの風習は比較的歴史が浅い。具体的にはここ二~三〇〇年くらいで、学院生の間で流行した御呪おまじないが原形なのだとか。アレだね、消しゴムに好きな人の名前を書いてバレないように使い切るとか、そういう感じ?


 ある意味、ここは精霊樹と一般市民の距離が特に近いからこそ発生した風習とも言えるんじゃないかな。メルヴィンチ王国やコルプニッツ王国ではもっと厳かな雰囲気の広場だったし、直近に王城と中央神殿があるからね。軽いノリで御呪いはちょっと出来そうもない。


 でもこれは良い風習なんじゃないかな~、精霊樹が身近な感じがして。蓬莱ではガチな感じの信仰じゃあなく、もっと日本的なゆる~い感じにやっていきたいんだよね。


「でもうちの精霊樹は堀に囲まれてるから、こういうのは難しくない?」


「うん。それにまだまだ小さいからね。そもそも結びつける枝が少ないし」


 だから堀にぐるっと柵を設置して、そこに結び付けるようにするとかね。確かそんな感じの願掛けがどこかにあったような――アレはおみくじじゃなくて錠前カギだったかな?


 ともあれ折角来たんだし、私たちもやってみよう。すぐ傍に短冊の売店もあるし、白いのを一枚買って、皆の健康祈願をと。


 うん? どうしたの、舞依? クスクス笑って。


「ううん。……ただ怜那は、厄除けとか開運の方が良かったんじゃないかなーって思っただけ」


「あはは。いや、結構真面目な話、この体質(・・・・)はこっちの世界に来てからパワーアップして神様でもお手上げらしいからね。下手に願掛けとかはしない方が良いと思うんだよ」


「触るな危険?」


「そうそう、そんな感じ」


 ではでは、短冊を折りたたんで手頃な枝に結びつけてと。おっと、忘れずにお祈りも。これからも皆が健康に過ごせますように――うん、これでオッケー。


 え? 私たちの健康祈願なんて必要ないんじゃって? うーん、確かに身体能力は大幅に向上してるし、ってことはそれに伴って肉体も強化されてるんだろうけど、病気とかってどうなんだろう? 今のところは風邪一つひいて無いけど、今後はどうなるか分からないしね。ま、ただの願掛けだし、その辺は深く考えずに。


 あとは本題である精霊樹の幹に触れてリンクを確立すればオッケー。二人と一匹で並んで歩いていき、ぺたりと手のひらを当てる。――うん、精霊樹と繋がった感覚が伝わって来た。


「さて、それじゃあ……ん?」「これはもしかして……」「キュゥ?」


 気付くと私たちは、乳白色の空間に立っていた。間違いなくここは神様の領域だろう。ということは――


 フッと音もなく、私たちの前に一人の女性――女神様が現れる。やっぱりね、と言ってしまうとちょっと罰当たりな感じもするけど、どうやら神様にお呼ばれしたらしい。


 旧リーブネスト皇国の女神様は、外見的には大人(三~四〇歳くらい)の女性。一言で言うと、とても上品な小母様って感じかな? 有名な絵画や彫像のヴィーナスとかあるでしょ? あんな感じの女性的な体つきで、豊かにうねる茶色がかった金髪が膝くらいまである。


『突然招いてしまって、ごめんなさいね。あなたたちにはどうしても、直接お礼を言わなければいけないと思ったものだから』


「いえいえ、全然構いませんけど……、お礼、ですか?」


 はて、全然心当たりがない。チラッと目配せしてみると、舞依が小さく首を横に振る。やっぱり分からないよね。ちなみにクルミも腕を組んで首をひねっている。


 呪われた大陸の一件に関しては、お礼も含めてもう既に片が付いてしまっている。それ以降は、特に神様にお礼を言われるようなこと――世界に良い影響を与えるようなことをした覚えはない。魔物の暴走を鎮圧したとかね。


 強いて言えば、私たちがメルヴィンチ王国を含む大陸から離れたことくらいかな? 転移した日本人の中でも特に魔力量のある私たちのグループは、居るだけで魔力の偏りを生むと言っていいからね。


『ええ。あなたたちが育てている精霊樹を介することで、間接的にではありますけれど大陸の精霊樹のリンクが復旧したのです。本当によくやってくれました』


「「「??」」」


 女神様が説明してくれたことによると。


 旧五大国王都の精霊樹――即ち世界最初の精霊樹――の内、大陸にある三つの精霊樹は関係性が深く、複数の精霊樹を介して地脈のネットワークが繋がっていたのだとか。これにより、街と街を繋ぐ街道の安全が保たれたり、通信の魔道具を使えたりと様々な恩恵があったらしい。


 それが例によって例の如く、大災厄によっていくつもの精霊樹が倒れ、寸断されてしまった。また人類全体の戦力が低下してしまったことから、魔物から身を護るために壁を建造することとなったことにより、一つ一つの街がスタンドアロンになってしまったというわけ。


 それが浮島の精霊樹を介することで復旧した。もっと正確に言うなら、精霊樹と私とトランクのセットが地脈によらないリンクをしていることにより、間接的に接続できたってことね。


 リンクが復旧したことで、精霊樹は以前の力を幾分か取り戻したそうな。そして情報の伝達も可能になった。これにより国同士で連携して、大規模な儀式魔法を執り行うことも理論上では可能になった。


 現状、地脈の接続は寸断されているけれど、その名残のようなものは遺っているらしい。干上がってしまった川みたいなものかな? それを儀式で活性化させれば、地脈の接続も復旧できるはずとのこと。まあ、これまた理論上は、の話だけど。


 実行に移すには、重要なポイントに苗木でもいいから精霊樹があった方が良いとか、旧リーブネスト皇国の精霊樹での儀式を誰が(・・)主導するのかとか、解決すべき問題は多々ある。でも、その可能性は芽吹いた。


「私はただ、精霊樹のアーカイブを拝借できないかなーと、完全に私利私欲で動いただけなので……」


『ええ、それも分かっています。ですが、結果的に助かったことは事実ですから。お礼は受け取ってください。地上への干渉は制約があるので大したことはできませんけれど、なにか我々にして欲しいことはありませんか?』







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