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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第十五章 大図書館の恋(変)人たち>
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#15-28 顛末と打診




 ジェニファーさんとハインリヒさんの登場により、休憩時間は延長となりました。二人の分のお茶と、軽食&おやつの追加をテーブルに並べてと。


「ああ……、やはり君たちの用意してくれるものは良いな。家に戻ってからの食事が、味気ないことと言ったら無いぞ」


「それは同感だね。今まではココの食事でも気にならなかったのに、時間がある時は塔の外に食事に行くようになったからね。まあそれでも物足りなくはあるんだけど」


 栄養摂取という目的とは別の価値――食の楽しみを覚えたようで何よりです。え? 覚えてしまったからこそ困っていると。なるほど。それでは近い内に蓬莱でレシピを販売するとしましょう。お買い求めくださいませ。


 ああ、蓬莱っていうのは、浮島を中心とするあの周辺一帯の名称です。先日決まったばかりのホヤホヤ。蓬莱諸島と呼んで下さい。


「ジェニファーさんが学院に居るってことは、例の件は全て片が付いたということなんでうすか?」


「うむ、その通りだ。それで約束を果たしたいと思い、君たちにコンタクトを取ろうと思ったのだが……、浮島、いや蓬莱諸島まで行くのは簡単では無いからな。君たちは調べ物で暫く学院に通うという事であったし、こちらに来たという訳だ」


 そう言えば顛末を聞きたいと言っておきながら、いつどうやってってところを全然決めてなかった。なんとな~くまた会えそうな気がしてたからなんだけど、この感覚は多分私たちだけにしか理解できないもんね。ジェニファーさんには迷惑をかけてしまったようで申し訳ない。


 それは別に気にしなくていい? そう言って頂けると――ああ、もともとハインリヒさんに用があって大図書館を訪れるつもりだったから、私たちの方はついで(・・・)なんだと。


 ふむふむ。ハインリヒさんとの用事っていうのが、気になって口元がニヨニヨしちゃいそうになるけど――我慢我慢。あんまりつっつくとね、逆効果になることもあるしね。


「ねぇ、でもちょっと意外に思わない(ヒソヒソ)」


「だよね。果断速攻を尊ぶ皇国女子のジェニファーさんが待ち(・・)っていうのは……(ヒソヒソ)」


「キュウキュウ(ヒソヒソ)」


「うん? どうかしたか?」


 フルフル×二人+一匹


「いえいえ。それで、結局どんな感じに決着がついたんでしょうか?」


 結論から言うと、ヒロインちゃんと第二皇子一派は纏めて辺境送り、開拓に従事することになったらしい。当然監視付きで、生涯辺境から出ることは禁じられている。形式的には第二皇子は一代限りの公爵扱いで一応領主ってことになるけど、村がいくつかあるだけの辺境だから本当に形だけだ。


 婚姻は認められていない。もし子供(・・・・)ができた(・・・・)場合は平民扱いとなる。そして子供も当然監視されることになる。


 要するに、流刑と終身の懲役刑を合わせた感じかな。ジェニファーさん暗殺未遂を表沙汰にしないとなると、その辺りが落としどころというか、重めの罰って感じらしい。


 当初は皇子を幽閉、側近たちはそれぞれ軍の別部隊の下っ端に放り込んで性根を叩き直し、ヒロインちゃんは監視付きでどこかの商家に嫁がせる、という罰も考えられたんだけど、皇子たちのヒロインちゃんへの執心ぶりから面倒な事態になりそうだと却下されたのだとか。色恋沙汰が原因で皇子が叛乱――なんて笑い話にもならないからね。


 というか、ヒロインちゃんは結局処分されずに済んだんだね。もしかして稀少な魔法を失うのを惜しんで、待ったがかかった? ああ、やっぱりね。使いようによっては有用だし、遺伝する可能性があるとなればそうなるか。


 多少の危険はあるだろうけど、使い手が特定できているなら対処はできるからね。メリットの方が大きいと計算されたんだろう。


 罰に関してはそのように決まり、それとは別に、皇家と各側近の家は多額の賠償を支払う事となり弱体化した。また政治や社交の場での発言力も低下し、没落とはいかないまでも当面は表舞台から遠ざかるだろうとのこと。


 処分は既に済み、ヒロインちゃんの登場から始まった一連の混乱はこれにて終結。社交界は落ち着きを取り戻し、巻き込まれて婚約を解消された令嬢たちが活発に動き始めているそうな。


 ――っていうか、じゃあジェニファーさんもうかうかしてられないんじゃ?


「そう、それだ。実は君たちにお願いがあるのだ」


「えっ!? 私たちに、ですか?」


 チラッと横に視線を向けると、同じくこっちを見ていた舞依の顔にも疑問符が浮かんでいる。だよね~。てっきりハインリヒさんに話があるのかと思って――というか期待して、話を振ったんだけどな?


「うむ。私の友人たちは早速新しい婚約者探しに乗り出したのだが、私は少々問題があってね。今は身動きがとりづらい」


 侯爵家という高い地位にあり、次期皇妃候補でもあったジェニファーさんは、本人に瑕疵の無い婚約解消とは言っても、釣り合いの取れる相手をそうそう見つけることができない。しかも九割九分次期皇王に決定しているといっていい第一皇子の現婚約者よりも、ジェニファーさんの方が地位も能力も高いときている。


 となると、どうなるか? お分かりであろう、第一皇子の婚約を一旦解消し、ジェニファーさんに挿げ替えようという勢力が現れたのである。酷い話だけど、政略結婚が当たり前の皇族・貴族にとってはごく自然な考え方とも言えよう。


 これで第一皇子側とガンドルド侯爵家の双方が乗り気ならそれもアリなのかもだけど、少なくともジェニファーさんの両親はそうではない。今回の件で大変な目に遭ったのだから、今後の事は好きに決めて良いと言われているらしい。


 なかなか寛大なご両親で――え? そうでもない? 皇家からは限界まで毟り取り、ライバルだった第二皇子側近の実家の影響力も下がり、ジェニファーさんの結婚で得られる予定だった利益分はすでに回収していると。だから自由にしていいと。


 ま、まあでも「どうせなら更なる政略結婚で別の利益を」なんて強欲な事を考えないだけ、良心的というか堅実というか、若干失礼な言い方をするなら真面まともな両親なんじゃないかな。引き際を心得てるってことかも。


 さておき、それがどう私たちに関係するんです?


「なに、簡単な事だ。要するに私にとって今の皇国は居心地が悪い。また余計な火種を投下することが無いよう、暫く国を離れることにしたのだ。そこで思いついたのが……」


「……まさか?」


「そう、君たちの蓬莱だ。何しろ私は婚約が解消されてフリーになった身で、しかも今回の件で皇国最有力貴族の一つとなってしまったからな。メルヴィンチ、コルプニッツ、ラビンネスト、何処へ滞在するにも障りがある。その点、蓬莱ならば何も問題は無かろう。ああ、城に滞在させて欲しいなどとは言わない。私と侍女二人が滞在できる家かアパートを暫くの間借りたいという話だ。どうだろうか?」


「なるほど……。ちなみに期間はどの位と考えていますか?」


「そうだな、最低一年は滞在したいところだ。というのも、およそ一年後に第一皇子の結婚式が予定されているのだ」


 正式に結婚してしまえば、余計な事を考える連中も居なくなるか。ふむふむ、そういう事ならちょっとお待ちを。たぶん大丈夫だと思いますけど、念の為にリーダーに相談してみますので。ああ、今ちゃちゃっと連絡しちゃうんで。


 スマホを取り出し秀に通話をかける。――っと、かかった。えーと、こっちにジェニファーさんが来ててね、これこれこういう訳で、蓬莱に当面滞在したいんだって。そうそう、そんな感じ。あ、他の皆の意見も聞いてみて?








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