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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第十五章 大図書館の恋(変)人たち>
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#15-17 大図書館誕生秘話




 リーブネスト学院――即ち旧リーブネスト皇国の首都は大きな湖の畔にある。湖は私たちに良く分かる喩えだと勾玉に似た形状――ちょうど穴の位置辺りに島もあるし――で、きゅっと曲がった凹みの方にくっ付くように街が広がっている。


 ジェニファーさんたちが言っていた通り、今の時期学院は大層賑わっていて、街に出入りする人も多くて街道はごった返していた。行列に並んで街に入るとなると、かな~り大変だっただろう。


 私たちはジェニファーさんたちのお陰で、関係者用の裏口から入ったから待ち時間ゼロだったけどね。いやー、本当にありがとうございます。ちなみにジェニファーさんは居ないこと(・・・・・)になってる(・・・・・)からお友達さんが主に協力してくれました。


 今回、私たちは結構大所帯で学院を訪れていて、私たち五人と一匹にレティとフラン、エミリーちゃんとシャーリーさん、フィディ、そしてジェニファーさんたちとなっている。フィディは例の知人を訪ねる為、フランは研究発表にとても興味があるらしい。エミリーちゃんは単純に観光――というか、見聞を広める為かな。大図書館と大闘技場は、一見の価値があるとお父さん(会頭さん)から言われていたのだとか。


 街で宿をとった私たちは早速それぞれ行動を開始した。二泊する予定で今日と明日のお昼までは各自自由行動。明日の午後は大闘技場で大きな模擬戦(演習)が行われるそうで、それを皆で見に行く予定になっている。


 ちょっと話が逸れるけど、宿もジェニファーさんたちのコネ――というか、一部の学院生が知ってる裏技的知識で取った。宿っていうか学生寮に近いのかな? 主に短期の留学生の為の施設で、この期間はほぼほぼ空になる為に宿としても解放されてるんだって。ま、留学生用の部屋だからグレードはそこそこって感じだけどね。


 今日は私と舞依とおまけのクルミは大図書館で調べ物。案内役としてジェニファーさんが。友人(・・)が司書見習いとして働いていて、紹介してくれるそう。で、エミリーちゃんとシャーリーさんも私たちに付き合ってくれる。


 他のメンバーはあちこち見て回る。というか、レティとフランが研究者としての感性を刺激されてるみたいで、何やらうずうずしているから、その手綱を握るのが主な仕事かもね。ああ、フィディはもう知人を訪ねに行った。もしかしたら夜は飲みに行くかもだから、宿に戻らなくても心配しないように、だってさ。


 で、やって来ました大図書館!


「遠くから全体像を見たら円形のコロシアムみたいだったけど……」


「近くで見たら、意外といびつというかデコボコなのね」


「新しいところと、古いところが混じっているように見えます」


 遠くから見た大図書館はアレだ、あの有名な絵画のバベルの塔みたいな? あんな感じの形状に見えた。


 でも近くで見ると思ったよりも歪――というか、デコボコしてる感じで所々に隙間も見える。綺麗な曲線の塔じゃなくって、レ〇ブロックを行き当たりばったりで積み上げて作った感じ。ちなみに後で秀と久利栖は「設計図なしでマイ〇クラ〇トでつくったバベルの塔」と言っていた。


「大図書館は元々図書館塔と呼ばれていた建物で、増改築……という表現で合っているのかは分からないが、徐々に巨大化し今のような形になったのだ。そしてその塔は今でも残っている。なかなか面白い作りだとは思うが……、正直、使い勝手が良いとは言い難いな」


 大図書館の外壁(?)部分の建物の中に入る。ジェニファーさんの案内に従って階段を何階か登り、通路を抜け、内側に(・・・)開いた出入り口を抜けると、――橋が伸びていた。


 そして橋が伸びるその先には確かに塔があった。あたかも大図書館の芯のように中央に一本、円柱を積み重ねたような建物が立っている。基部の円柱が一番太く高くて、一段ごとに細く低くなっていく。数はええと――全部で四段重ねか。


 外壁から塔に向けて橋が何本か伸びてて、私たちが歩いてるのもその中の一本。塔の一段目の屋上というかテラス? の部分に繋がっている。


 で、塔と外壁の間にも大小高低様々な建物が林立し、中には橋で繋がっているものもある。アパートのような建物もあれば、隙間を無理矢理埋めたような狭小住宅っぽい建物もあり、数は少ないけど外壁と塔を繋ぐ橋よりも高い建物もある。


 ちなみにその高い建物からはもれなく塔に向けて橋が伸びてるんだけど、それが凄く揺れそうなタイプの吊り橋で、渡るには結構勇気がいるんじゃないかな~。夜は特にね。なお、私たちが歩いてる橋は、いわゆる水道橋みたいなやつだから全然怖くありません。


「図書館塔は元々、リーブネスト皇国時代に世界一の蔵書量を誇る図書館を作ることを目的として、時の皇王が強力な指導力を発揮して建造したと言われている。なんでもその皇王は凄まじい書痴ビブリオマニアで、皇家の資産を何割か投じたと言われている」


「それはまた随分と極端な……」


 なんていうか専制国家で頭のネジが何本か飛んだトップがたま~に生まれるのって、洋の東西どころか世界が違っても変わらないんだね。


 事の是非はさておき、図書館塔は確かに世界一の図書館になり、無数の稀覯本も集まった。やがて図書館塔の話は世界中に広まり、研究者や観光客も数多く訪れるようになり、国のシンボルともなった。長い目で見れば、また結果論で言えば、事業は成功したと言えよう。


 さて、ここで思い出して欲しい。分裂前の旧皇国は頭脳派と筋肉派がせめぎ合っていた。その性質はもちろん皇家にもあり、図書館塔を建設した皇王は頭脳派だってわけね。しかも極振りな。


 その反動なのか何なのか、少し後に今度は筋肉派の皇王が玉座についた。これまた極振りの。で、その皇王は図書館塔に対抗して、今度は大闘技場の建造に着手した。ちなみにこの後の数代、筋肉寄りの皇王が続いた。


 ちょっと話が逸れるけど、大闘技場は最初から図書館塔に勝る国のシンボルとして建設されたから、ちゃんと設計された建築物になっている。結果、脳筋サイドが作った物の方が整然と、理に適った施設になっているという不思議な結果になっている。


 さておき、大闘技場建設という国家プロジェクトを進行している間、皇王は図書館塔に関して完全に放置した。――というか、全く興味が無かったんだろう。その結果、図書館塔周辺は、集まった研究者らによって無秩序に建物が建てられ、迷路のように入り組んだ区画が同心円状に拡がっていった。


 皇王が何回か代変わりし、比較的フラットな皇王が誕生した時、長らく棚上げされていた図書館塔に関する問題に対応する必要に迫られた。即ち――


「図書館塔に辿り着けない問題、だ。まあ、この有様を見れば一目瞭然だな」


「「「「あー……」」」」「キュウキュウ」


 立ち止まり、橋の欄干に手をついて下を見れば、迷路のような街並みが見える。路地が入り組み袋小路も多く、建物同士が橋で繋がり、場所によっては橋自体が家屋になって建物同士が一体化し、トンネルのある建物のようになってしまっている。


 図書館塔という大きな目印があるから方角を見誤ることは無いだろうし、辿り着けないっていうのは流石に誇張だと思うけどね。でも慣れてない人は迷子必至だろう。


 とはいえ、今更全面的な区画整理をするのも更地にすることも難しい。そこで無秩序な区画の外縁部から、図書館塔に直通する橋をかけてしまうことにしたってわけね。ついでに外縁部もぐるっと囲んでしまい、それ以上無秩序なエリアが広がらないようにした。


 なお外縁部は既存の建物を呑み込んだり繋いだりして作られ、また断続的に長~い期間をかけて建造された。理由は主に予算の都合。図書館塔と大闘技場の建設でお金を使い過ぎちゃったっていうのは、まあ言わずもがなだろう。


「そうしてできたこの区画全体を、大闘技場と対応するような形で、大図書館と名付けられたというわけだ」


「最初から大図書館として設計されていたんじゃあ無いんですね」


「……ということは、図書館としての機能は基本的に中央の塔だけという事なのでしょうか?」


「いや、そうではない。大災厄後の話になるが、復興の過程で書物が遺失してしまう事が無いよう、当時の図書館派(・・・・)が国中に散って書物を搔き集めてここに所蔵したのだ。それらや大災厄後の新しい書物は外壁部分の建物に収められている。今では蔵書量だけなら塔よりも多く、一般的な図書館としてなら外壁部分で十分だな」


 ふむふむ、なるほどね。ちなみに外壁部分は図書館だけでなく教室や学院事務室なんかもあって、ある意味私たちが想像する学校に近いっぽい。


 そんな説明を聞きつつてくてくと歩き――途中で面倒になってトランク馬車(荷馬車バージョン)をクルミに牽いて貰って、図書館塔に到着。図書館塔はファンタジーのマンガとかゲームに出て来そうな塔そのまんまって感じね。魔物は出て来ないと思うけど。


 さてさて、ジェニファーさんのお友達はどんな人なのかな?








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[一言] 楽しく拝読させて頂いております。 出て来そうなフラグそのまんまっ…
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