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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第十五章 大図書館の恋(変)人たち>
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#15-16 脳筋令嬢の休息




 男爵令嬢被害者(ジェニファーさん)の会御一行様(とお友達)は浮島に三泊して、バカンスを満喫したみたい。ちなみに滞在費はちゃんとお支払い頂いております。


 皇国のリゾート地も悪くなかったけど、基本的には皇家が管理している別荘だから、何処か居心地が悪かったんだとか。確かに一見して分かる豪華仕様の別荘だったからね。肩が凝るっていうのも分かる気がする。


 浮島滞在中の彼女たちは仲良く狩りに出かけ、模擬戦をして、お茶をしながら第二皇子と側近たちをボロカスにこき下ろし――なお口調自体は丁寧だった。そういう貴族らしさは皇国も変わらないみたい――とても楽しそうに過ごしていた。


ちなみに模擬戦には浮島の住人達も参加して、ちょっとした指導を受けている者もいた。鍛錬の質と量、それから圧倒的に場数が違うから、ジェニファーさんたちの技量は相当なものだった。


 あ、私たちはおもてなしの準備があったため、参加していません。――そういう言い訳で逃げたともいう。いや、技量の差をひっくり返せるだけの魔力量があるから、勝とうと思えば勝てるんだけどね。舞依ですら全力で障壁を展開して、相手が疲弊するのを待てばオッケーだ。


 でもねー、それをやっちゃうとものすっごくメンドクサイことになりそうな予感がしてね。絶対に一回じゃ終わらないでしょ。なお、これは私たち全員の一致した見解。


 そんな中で彼女たちが最も興味を持ったのが――なんと軽トラだった。狩りのお伴としてこれほど便利なものは無いとのこと。それと皇国特有の事情で、魔物の襲撃にスピーディーに対応するのは極めて重要で、軽トラは偵察や伝令、軍の派遣に多大な貢献をするだろうと絶賛していた。


 ――いや、そんな期待した視線を送られてもですね。軽トラに限らず、超小型飛行船は市販してるものじゃあ無いんですよ。というか対価を頂けるんなら、オーダーメイドを承っても良いんですけど、使ってる素材と術式の複雑さからとんでもない額になりますよ?


「とんでもない額?」


「ええと、ミクワィア商会に算定して貰ったところによると……(ゴニョゴニョゴニョ)」


「なっ! そ……、それは本当なのか?」


「本当なんです。あんななりですが、実は超高級品なんですよ。付け加えると、ジェニファーさんが期待してるような使い方だと、たった一台では意味がありませんよね?」


「うむ、確かにその通りだ。一台でもあれば多少は違うだろうが、ある程度の数を揃えて面をカバーできるようにしなければ効果は限定的だろう。……仕方あるまい、諦めるしかないようだな」


 ――なんてやり取りもありつつ、三日目(最終日)の夕食の席でのこと。


 私たちが大図書館で調べ物をしたいという話題を出したところ、ジェニファーさんたちが一度納得した後で首を傾げた。


「どうかしましたか?」


「いや……、そうか、調べ物か。今の時期はもしかすると……」


 ジェニファーさんとお友達が小声で何事かを話し合う。


「そういう事であれば、私たちも同行して案内をしよう。ちょうどまだ少し時間の余裕がある事でもあるしな」


 時間的余裕っていうのは、ジェニファーさんが実家に再び戻るまでのっていう意味ね。だいたい十日~半月くらいしたら、状況の確認のために一度は(・・・)帰る予定。


 結構のんびりだなと一瞬思ったんだけど、それはすぐに思い直した。こっちの世界は情報の伝達が遅いからね。ジェニファーさんが事故死(・・・)したのは海上だったし、天候やら何やらを考慮すると、場合によっては船が港に着くよりも先に私たちが侯爵家に送り届けていたかもしれない。


 そこから皇家もしくは第二皇子に連絡が行き、侯爵家へ使いが出されて――って考えると、その程度の時間はかかるだろうとのこと。


「今の時期、リーブネスト学院は少々賑やか……というか、かなりごちゃごちゃしているのだ。ある種の観光シーズンゆえに、調べ物ならば勝手が分かる者が案内をした方が良いだろう」


「何か催し物でもあるのですか?」


「催し物というか、年間の研究成果発表などが集中的に行われるのだ」


 聞けば学院には、私たちが通っていた学校のような年度というシステムが無いとのこと。というか入学式や卒業式すら無く、完全な単位制で、一定以上の単位を取得すればいつでも卒業――正確には学位的な称号の取得――できるらしい。入学も試験をパスすれば、基本的には何時でもオッケー。


 ただそれでもカリキュラムの都合なんかで一定の区切りは必要だから、一年を半分に区切っている。で、年間の集大成としての発表会が年末に行われると。あ、一二月と一月は授業に関してはお休み――学院に留まって勉強・研究をしている者は居る――だから、ちょうど今の頃が学院の年末って感じね。


「文化祭みたいな感じなんかな? 模擬店とかもあったりします?」


「模擬店とは?」


「生徒が簡易的な飲食店とか、屋台とかをやったりするんですよ。ま、本格的なもんやなく、祭りを盛り上げる余興みたいなんもんですわ」


「いや、そういったものは無いな。そもそも祭りではなく、研究成果を発表する場だからな」


 アレかな。模擬店とかお化け屋敷とかが無いタイプの文化祭に近いのかな? 郷土史を纏めた発表とか、主に文科系部活動の展示とかがメインの、ぶっちゃけかな~り地味なやつ。数少ない見どころは、吹奏楽部と演劇部のステージだけという(※諸説あります)。


「しかし、貴殿らの言う“文化祭”とやらにも興味があるな。それは一体どういった催しなのだ?」


 ああ、それはですね――と、私たちがそれぞれの印象を説明する。実のところ高校に入って初めての文化祭は、こっちに転移するきっかけになった校外学習の後だったから、自分たちで作る側としては未経験なんだよね。中学時代にも一応それっぽいのはあったけど、制限の多い地味なものだったし。


 ちなみに見に行く側としては、学校見学を兼ねて中学時代に結構あちこちに行ったから、雰囲気はちゃんと知っています。決してマンガやゲームで見た内容という訳ではありません。――いや、久利栖の説明はちょっと混じってる? コスプレ喫茶とかミスコンとかを、本当にやってる高校って実在するの?


「……面白そうな催し物だな。それはつまり将来そういった職業に就くのを想定した、体験学習のようなものなのだろうか?」


「そういった学校も中にはあるでしょうし、そのつもりで取り組む生徒もいるかもしれませんが……、大多数はお祭りを楽しむためだけにやっていると思いますよ」


「要するに、収穫祭とかの地域のお祭りを学校単位、生徒主催でやるという感じですね。意味が有る無いの話ではなくて、単純に参加すれば楽しい。あと、学校の宣伝になるという側面もありますね」


「……なるほど。しかし、これで分かった。どうやら学院に関する認識に、根本的な食い違いがあるようだ」


 はて、それはどのような? ふむふむ、なるほどなるほど。つまり学院と一括りにしてはいるけど、複数の学校の集合体みたいな感じなのか。


 大図書館と大闘技場っていうシンボル的な巨大建築物はあるけど、私たちが想像するような大学――つまりキャンパスがあって、敷地内にいくつかの校舎が立ち並んでるみたいな感じでは無いのか。大小の学舎が街全体に散らばっていると。ちなみにこれは、学院の成立過程に由来するものなのだとか。


 学舎は大きなアパートに複数の研究室が入っているようなものもあれば、小さな民家程度のものもある。ちなみに武術を教える研究室(・・・)もあって、これはまんま剣術道場とかそういう感じらしい。


 さておき、確かにそういったシステムだと私たちが想像するような文化祭はちょっと無理そうだね。規模が巨大過ぎて運営がパンクしそう。


「模擬店とやらは無いが、この時期は研究発表目当てに訪れる者や、大闘技場の大会を見に来る観光客などが増えるから、屋台などの出店も増えてとても賑やかだ。文化祭と銘打ってこそいないが、近い雰囲気は楽しめるのではないかな」


「それは楽しみですね」


「うむ。それでなくとも大闘技場と大図書館は一見の価値がある。ロンドリーブ……いや、リーブネストの誇りだからな」







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