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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第十五章 大図書館の恋(変)人たち>
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#15-14 脳筋令嬢の帰還






 深夜零時。仮眠から目覚めた私たちは、ジェニファーさんを伴って浮島を静かに出発した。


 今回のメンバーは私たち五人+一匹とレティ。エミリーちゃんとシャーリーさん、それからフランとフィディも同行を希望したんだけど、今回はお留守番。ガンドルド侯爵家にお邪魔することになるから、あんまり大勢で行くのは遠慮しましょう。


 ちなみに同行に希望した理由はやっぱりリーブネスト学院。私たちは大図書館にばかり目が行ってたけど、こっちの人にとっては大図書館と並んで大闘技場も、世界的有名観光スポットなのだとか。学院の校舎はともかく、図書館と闘技場は観光施設でもあるから一般人でも入場料を払えば利用(見学)できるとのこと。なお、本の持ち出しはできません。


 ああ、フィディだけは観光目的じゃなくて――何度か行ったことがあるらしい――学院で教師(教授)をやっている知己を訪ねたいんだとか。ホントに顔が広いね。言語学が専門の御仁で、大図書館に所蔵されてる古文書の研究を長年しているんだとか。うーん、興味深いね。


 ともあれ、今回の件が片付いたら、また改めて皆で観光に行きましょう! というわけで、出発しまーす! あ、緊急連絡用にエミリーちゃんにスマホを一台預けておきましょう。じゃあお留守番をよろしくね。


 移動中…… 移動中……


 到着しましたー。


 え? 端折り過ぎ? 途中経過はどうした? いや、そんなこと言われてもね~。


 トランク飛行船の特性的に、高度を上げれば上げるほどスピードが出るから、基本出発した後は方角を定めて雲海の上を全速飛行だったからね。あ、月明かりに照らされる雲海は綺麗だったよ。――すぐに飽きたけど。


 で、頭に浮かぶ飛行履歴と地図とを照らし合わせつつ、大凡の目的地付近に着いたら暫く待機。夜明け前のほんのり明るくなってきたくらいの頃に再出発して、ガンドルド侯爵家に無事到着しましたとさ。


 突然一人で帰って来たことに驚いた様子の侯爵夫妻だったけど、すぐに何かあったことを察したらしい。ジェニファーさんの帰還は最低限の者にしか知らせず、また外部に漏らさないよう念を押していた。


 私たちはと言うと、応接間の一室に通されて待機中。一応、お茶は出されておもてなしはされてるけど、扉の外には当然の如くマッチョな使用人が張り付いてるし――


「言い方は悪いけど、軽い軟禁かな?」


「せやな。一応俺らは命の恩人のハズなんやけど……」


 ポリポリポリ……


「とはいえ、これは仕方ないでしょうね。ジェニファーさんから聞き取りをして今後の方針を決めないことには、何も始まらないわけだし」


「そうですね。悪いようにはされないでしょうから、ここは落ち着いて待つとしましょう」


 ポリポリポリ……


「ま、焦ってもしゃあないし、急ぎの予定があるわけでも無いしな。……ところで、さっきから気になってんねんけど、これはお茶菓子なん? それとも朝メシ代わりってことなん?」


「「「「うーん……」」」」「キュ?」


 私たちの視線を受けてコテンと首を傾げるクルミ。キミは何処に来てもマイペースだね。――誰ですか? 飼い主に似たんじゃ、なんていう人は? 先生が優しく成敗してあげるので、正直に手を挙げなさい。


 それはさておき。応接間に通された私たちに出されたのは、お茶とお菓子――とはビミョ~に違うものだった。


 まず飲み物がお茶じゃない。スムージーっぽい野菜ジュースって言えばいいのかな? ミルク割りでほんのり甘い。この風味は――蜂蜜が入ってるのかな。


 で、見た目は焼き菓子(クッキー)みたいなのがお皿に盛られている。全粒粉で、ドライフルーツが入ってて、塩味もちょっとある。お菓子と言えばお菓子かもしれないけど、どっちかと言うとブロックタイプのバランス栄養食の方が近い。クルミがポリポリやってたのがこれね。


 それからブロッコリーとタマネギとレモンと鶏のささみ(っぽい肉)のマリネが、深いお皿に入ってて、大きなスプーンと人数分の取り皿も用意されてる。


 あと専用のスタンドに鎮座しているゆで卵が人数分。味付け用のソースとか塩の入ってる、小さなパレットみたいな小皿も同じく人数分ある。


 朝食と言えば朝食のようにも見えるし、お茶会のメニューとして見てもギリセーフという気もする。食器類は高級なものだし、卵も高級食材だから、私たちが軽く扱われているというわけでは無いだろう。つまり、皇国貴族的にこれがスタンダードってことなんだと思う。――たぶん?


 ちなみに味は普通というか、全体的に薄味。実用主義というか健康的というか、スポーツをやってる人の為に栄養士さんが整えた朝食みたいな?


「時刻を考えれば、やっぱり朝食なんじゃないかな。主食がパンじゃなくて焼き菓子っていうところが珍しいね」


「変な話、ちょっと日本にいた頃を思い出さない? 寝坊して、朝食抜きで家を出ちゃって、コンビニで野菜ジュースとカ〇リーメ〇トを買って教室で食べる……みたいな」


「そうねぇ……」「あったなぁ~」「「?」」


 同意したのは鈴音と久利栖。完璧優等生の舞依と秀には分からなかったか。まあ、そもそも寝坊するような生活を送ってなかったしね。


 ちなみに後でジェニファーさんに訊いてみたところ、やっぱりこれが皇国では一般的な朝食だったらしい。ただ焼き菓子に関しては、伝統的なお菓子で家ごとにレシピが若干異なり、お茶会でも出されるのだとか。クラッカーみたいなタイプや、メチャクチャ硬くてスープやお茶に浸して食べるようなものもあるんだとか。それにしてもお茶会でバランス栄養食とは……、なかなか個性的な文化だね。







 朝食(仮)を頂いて、そろそろ暇だなーなんて思い始めていた頃にジェニファーさんから呼ばれて、改めて当主夫妻とご対面。丁寧なお礼の言葉とお金を頂いた。


 私たちとしては本当にお金とかお礼の品は要らなかったんだけどね。というか、トランクがあるお陰で移動に物的・時間的リソースを消費しないから、なんとな~く貰い過ぎっていう感覚が拭えない。


 ただ特に相手が貴族の場合、こういうお礼は下手に遠慮してしまうと“貸し”になってしまうから、逆に後々面倒らしい。金銭を受け取ってしまう方が、後腐れなくてむしろ良いのだと、レティやワットソン夫妻からアドバイスを貰ったのです。


 これにて一件落着。では我々はこの辺でスタコラとお暇しましょ――


「助けてもらった上にお願いするのは心苦しいのだが、一つ手を貸してもらえないだろうか?」


 とはいかなかったか。ま、予想通りで一同苦笑い。


 依頼内容に関しても大凡想定の範囲内だった。今回狙われたのはジェニファーさんだったが、他の婚約者――既に“元”が付いているようなものだけど――も狙われる可能性もある。その警告をしておきたいと。


 また一時的にジェニファーさんは消息不明という事にして、皇家の出方を見極めるという方針を伝え、足並みをそろえておきたい。無事を知らせると同時に口裏を合わせておきたいってことね。


 あとジェニファーさんを匿うという意味もある。どこか一か所に留まるよりも、私たちと移動していた方が見つかり難いだろう。認識阻害のアイテムもあるしね。


 と、言う訳で早速出発――の前に、エミリーちゃんに連絡しておこう。折角スマホを渡しておいたんだし。


『お、おはようございます、お姉様』


「うん、おはようエミリーちゃん」


 電話に出る時に、まだちょっと緊張しちゃうエミリーちゃんがカワイイ。ぜひこの初々しさを失くさないで欲しい――けど、それは無理なんだろうね。人は慣れる生き物だから――なんて。


 かくかくしかじか、これこれこういうわけで、ちょっとやることができちゃったよ、と伝える。


『そうですか……。どのくらいかかりそうですか?』


「その辺も全部未定かな。ただ時間がかかりそうだったらまた連絡するし、場合によっては一旦浮島に戻ると思うから」


『分かりました。お姉様の事ですから大丈夫だとは思いますけれど、どうぞお気を付けて』


「うん、ありがとう。じゃあ、またね」


『はい。ごきげんよう、お姉様』


 プツリ


 むむっ、最後のやり取り、なんかお嬢様学校みたいで良かったね。今度は私も「ごきげんよう」にしてみようかな? うーん、ちょっと似合わない? 舞依だったらピッタリなんだけどね(汗)。







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