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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第十五章 大図書館の恋(変)人たち>
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#15-05 王子が呼び寄せたわけでは無い……たぶん?




 リッド殿下が空飛ぶクルマを一頻り堪能し終わった時にはもう日は傾いていて、少し休んだ後に晩餐となった。


 晩餐は秀と舞依が腕によりをかけたから、それはもうとても美味しかった。リッド、エリザベート両殿下、それからミクワィア商会御一行様にもご満足頂けたようで何より。ちなみに火山島でとれた新鮮な食材を主に使ったメニューで、メインの肉料理はイノブタ(野生)だったけど、全体的には海産物の方が多かったかな?


 料理にはご満足頂けたんだけど、給仕に関しては改善の余地ありだったかな~。やっぱり人手不足は否めない。まあ両殿下はアポなし突撃の上、こちらがまだまだ発展途上であることは理解してくれてて、そこを指摘されることは無かったけどね。


 会頭さん情報によると普通なら晩餐の後は、男性陣と女性陣に分かれて、お喋りしたりゲームに興じたりするらしい。で、その準備――それぞれの部屋とかお酒とかゲームとか――も一応しておいたんだけど、両殿下がお疲れですぐにお休みになるという事で、早々にゲストルームへとご案内した。


 その際エリザベート殿下に聞いたところ、結構な長旅で、しかも天候(主に風)が荒れ模様だったから揺れや騒音があり、なかなかぐっすりとは休めなかったのだとか。それは大変でしたね。ゆっくりお休みくださいませ。


 え? ああ、浮島は揺れたりしないのかってことですか? 確かにここも空に浮いては居るんですけど、なにせデカいですし精霊樹の加護もありますからね。揺れとかは全然。というか、極端なことを言えば、超巨大台風が直撃コースでやって来たとしても、いざとなれば丸ごとトランクの中に退避させればいいだけなので。


 では、ごゆっくりおやすみなさーい。


「じゃあちょっと早いけど、今日のところは僕らも休むとしようか」


「せやなぁ……。明日もなんぞ振り回されそうな気もするし、ちゃんと睡眠は取っといた方が良さそうや」


「久利栖は一緒になって騒いでた側じゃないの……。大変だったのは文官やワットソン夫妻と、協力してくれたミクワィア商会の方々じゃない」


「いやいや鈴音さん、楽しんどったように見えてそれなりに気を使うんやで? いわゆる接待プレイやねんから」


「ホントにぃ~(ジト~ッ)」


「ホ、ホホ、ホントやでー?」


 久利栖の目が盛大に泳ぐ。まあでも、一緒になって遊んでたのは確かだけど、接待プレイは嘘ではないんじゃない? ランボのアクロバット機動とかのリッド殿下が真似したらヤバそうな操縦はして無かったし。


「……コホン。ま、まあ、今回頑張ってくれたスタッフさんらには、後で特別ボーナスをあげるっちゅうことでどうやろ?」


「そうだね。会頭さんたちにも何かお礼は考えておかないと」


「……なんか誤魔化されてる気もするけど、まあいいわ。ともかく、今日は休みましょ。なーんか気を張ってて、疲れちゃったわ」


「確かにちょっと疲れましたね」


 ホゥと息を吐いて、頬に手を当てるレティ。


「って、王族とは言ってもレティにとってはお姉さんと義理のお兄さんでしょ? それでもやっぱり気疲れするの?」


「ええと、その、王宮から離れて大分経ちますし、最近気が緩みがちと言いますか……」


 テヘリと恥ずかしそうに笑みを浮かべるレティがカワイイ。


「……と言いますか、そういう意味では皆さんだって日常的に王族と接しているのですから、気疲れするのはおかしいという事になりませんか?」


 私だって王族なのですから、とプクッと頬を膨らませるレティ。


 私たちはそんなレティを見てから顔を見合わせ、もう一回レティを見て――


「「「「「……確かに」」」」」


と、深く頷いてしまった。


「ちょっ、皆さん、酷いです!」


 あっはっは、ゴメンゴメン。いやー、まあ、それだけレティが私たちに馴染んだってことでしょ。うん、もちろん良い意味で。


 ――なんてゆる~いやり取りで、それまでのどこか張り詰めてた空気がいい感じに抜けた。それじゃあ私たちも休むとしましょうかね。


 舞依、今日はどっちの部屋にする? 私の方? いいよ、おいでー。あ、クルミも今日は私のところなんだ。今日は疲れたから、一番慣れてるところで休む?


 それはいいけど、キミが一体何に疲れたというのかね? エリザベート殿下の和ませ役? あー、確かに意外と小動物が好きそうだったよね。ひょっこり現れたキャニオンデビルも懐いてたし――って、それに対抗してただけじゃない(笑)。


 舞依とクルミと一緒に部屋に戻り、支度を整えてさあベッドに入ろう――と、思ったところで。


「っ!? 怜那、今のって……?」


「あ、舞依も遂に感じるようになったんだ。おめでとー……で、いいのかな?」


 毎日せっせと精霊樹のお世話をしてきたからね。努力が実って良かった良かった。


「うん、もちろん、ありがとう。これで私も巫女になった……ってことでいいの?」


「精霊樹の知識によると、本質的にはそう。形式的には、精霊が誕生した後で任命式的な儀式をすることで、正式に就任する感じね」


「そっか。精霊が生まれるのが楽しみね。……それはそうと、この情報って……」


「嵐を呼ぶ男、リッド殿下の面目躍如だねー」


「ふふっ、そう言って追及を回避するつもりなのね?」


「あはは。まー、そんな感じ?」








 明けて翌日。朝食を食べながら本日の予定について確認をする。


 ちなみに朝食のメニューには、世紀末イノブタ腸詰や世紀末イノブタベーコン、それからキングダムビーの蜂蜜など、浮島の特産品になる予定の食材も使って反応を確認してみた。どれも好評で、特に腸詰は量産体制が整ったら纏まった量を買いたいと、ミクワィア・コルプニッツの両方から打診された。イノブタ騎獣(家畜)化計画をより強く推し進めねばならないね。


 さておき、今日の午前中は昨日できなかった――レースをしちゃったからね――浮島のご案内などをしてから昼餐。その後、コルプニッツ王国御一行様は出発する予定でいるらしい。


 ちなみに日程に余裕はあるそうで、リッド殿下は数日の滞在を希望――訳:もっと遊んで行きたい――していたんだけど、予備日をここで使い切るわけにはいかない――訳:ちゃんと仕事しろ――という側近&エリザベート殿下の進言に従った形だ。


 正直、今の体制で何日もおもてなしするのは厳しいので、一日で引き上げてくれた方がありがたい――んだけどね。


「きょう出発するのは、できれば止めておいた方が良いと思います」


 皆の視線が私に集まる。リッド殿下一人が目を輝かせるのに対して、他の皆さんがビミョ~に渋い表情なのが対照的でちょっと面白い。


「レイナ、理由は有るのですか?」


「ええ、実は昨夜、精霊樹から軽く警告を受けまして。警告とは言っても、ちょっと気を付けてね、くらいの深刻なものではないんですけど。どうも結構大きな台風が、浮島近辺を通過するみたいなんです」


 時間帯は日没から日付が変わる頃くらいまでで、ルートは南東から北西に向けて抜けて行く感じ。


 浮島と出島は精霊樹の加護に護られてるから、ちょっと風と雨が強いかも? くらいで、特に問題は無い。火山島に降りるなら、念の為に夕方までには引き上げた方いいかな。


 ただ飛行船は――どうなんだろう? 正直言って、飛行船の強度に関して知識が無いから何とも言えない。船体が一般的な家屋と同等の強度なら、バラバラに吹き飛ぶようなことは無いと思うけど、少なくとも揺れは強いだろうし騒音も酷いだろう。安眠は無理っぽい。


「航行中ならどうにもなりませんけど、タイミングが良いのか悪いのか、ここに停泊してますからね。日程に余裕があるのなら、無理に出港せずに安全策を取っても良いかと。ただ……」


「ただ?」


「……晩餐のグレードは、昨日よりも落ちちゃいますけど」


 お手上げポーズで言うと、エリザベート殿下は一瞬目を円くするとクスクスと上品に笑った。同時にリッド殿下が豪快に笑い飛ばす。こちらが厄介になっているのだし、想定外の事態なのだから気にすることは無いと。


 そう仰って下さると有難いです。え? どうせなら普段の食卓と同じような感じにして欲しい? まあそれで良いならそうしますけど。








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