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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第十五章 大図書館の恋(変)人たち>
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#15-04 嵐を呼ぶ王子、浮島に上陸




「いっそ手厚い住居と子育て支援策を打ち出して、身分を問わず若くて元気(・・)な新婚さんに広く募集をかけるっていうのは? 産めよ増やせよで、人口バランスは次代で整える方向でね。今なら娯楽が少ないので、出生率が高くなることを見込めます……なんてね(テヘッ)」


「怜那、ちょっと品が無いよ?」


 舞依に窘められてしまいました。うん、自分でも下世話だったと思う。


「ゴメンナサイ。……でも、婚活って人を沢山集めても上手くいくとは限らないでしょ? 性格とか容姿とか相性があるから。だったら最初から夫婦で来てもらう方が、いろいろと楽なんじゃない?」


 そう言うと、秀と舞依とシャーリーさんが一瞬手を止めて顔を見合わせる。


「……若い夫婦は何かと入用で、経済的に苦しいことも多いですから、住居と子育てに支援があるのは魅力的だと思います」


「男女を問わず、今のここは人手不足……というか、ほとんど無いからね。一般教養さえあれば、未経験でも歓迎状態だし、適性があれば文官や武官に登用してもいい。……悪くないかもしれないね」


 現代日本でこんな政策を大っぴらに言ったら、各方面から怒られそうではあるけど、なにせここは異世界。怒る団体もいなければSNSも無いから、何も問題は(表面上)ありません。


「まあ支援策を打ち出したところで、浮島ここに移住するだけの魅力が無ければ人は来てくれないだろうからね。娯楽も含めた福利厚生については考えないと」


「結局、話はそこに戻っちゃうんだ」


「ふふっ。……あ、人が増えて来たら、秀くんの指導・監修でレストランを開くのはできそうですね」


「……うーん、できれば自分でやりたいところなんだけど……」


「王様のキッチンカー? 話題にはなりそうだけど、鈴音に『仕事しなさい』って怒られるんじゃない?」


「そこはこう、上手に機嫌を取って……ね」


 それはそれは。まあ、頑張って説得して下さいな。我々はその辺に関してノータッチですので。あ、店を開いたらちゃんとお客さんとして舞依と一緒に行くから。


 ――なんてことを話しつつ作業を続け、どうにかこうにか晩餐ディナーの目処を建てることはできた。うん、みんなで頑張りました! パチパチパチー。


 あとはまあ、出たとこ勝負だね。向こうもアポなし突撃だし、こっちにはレティもいるし、無茶なことは言わんでしょう。たぶん、きっと、そうだと良いな?


 さてさて、飛行船が目視で分かるようになったところで、出島の方へお出迎えに向かう。


 ちなみにいきなり港に接舷するのではなく、こっちから偵察を出すのでもなく、ちゃんと事前に大まかに意思の疎通はできている。船乗りが使う手旗信号的なもの――魔法で記号を描くのが一般的。旗を使う方法もあるとのこと――がこっちの世界にもあって、船長さんが使えたからね。


 敵意は無く友好的であること、入港を求めている事、目的は外交であること、また知人(家族を含む)を訪ねて来たことが向こう側から伝えられ、こちらからは入港の許可と、誘導を行う。


こういう技術も必要だったよね。改めて足りないところが多いなーと痛感。人材を集めるか私たちで覚えるかはともかく、覚えておきましょう。


 コルプニッツ王国の飛行船は縦に長い浮岩を二つ並べて、その間に居住スペースなんかを取り付けた、双胴船みたいな形だった。中央にマストと帆がある他、左右と船尾にも魚の鰭のような帆がついている。メルヴィンチ王家の“ザ・帆船”とは違うけど、これはこれで優美な印象の船だ。


 横の帆を畳んで接舷した飛行船からタラップが下ろされ、マントを翻して颯爽と降りて来たのは、ある意味予想通りのリッド王太子殿下。そしてお付きの人達が慌てて後ろから続くところもお約束(笑)。


 私たちを目に止めると、こちらから挨拶をする前に――


「久しいな! それにしても空に浮かぶ島とは面白い! しかし、二つあるとは聞いていなかったが……、まあよい。では早速案内を――」


「殿下、まずは挨拶と訪問の目的を述べるのが先でしょう」


 どこまでも前のめりなリッド殿下を、追いついたエリザベート殿下が窘める。


 エリザベート殿下は貴族の成人女性としては非常に珍しいことに、パンツスタイルにブーツという出で立ち。ひらっとしたブラウスに刺繍をあしらったベストを着ているから優雅さは損なわれてないけど、今までのイメージと比較するとかなり活動的な服装だ。リッド殿下に合わせた感じなのかな?


 ちなみにレティは私たちと行動するようになってからは、しょっちゅうパンツスタイルをしている。紛れもないお姫様なんだけど、世間一般からはかな~りズレてしまっていて、いいのかな? と思ったりしないことも無い。


 さておき、気を取り直して挨拶と訪問の目的などを伺う。まあ予想通り――というか、ほぼほぼ予想が的中していてちょっと驚いた。


 レティからの便りで浮島の現在地――浮島の存在自体は以前の便りで知らせていた――を知り、マーメイドの里との交易の際に経由地として使えることから、現物(現地)を確認しておこうと。その際、興味を持った王太子殿下が、マーメイドの里へ親善外交に行くことをゴリ押しした上で、ついでに浮島を非公式訪問することにしたと。


 ちなみにエリザベート殿下はお目付け役として同行しているのだとか。本来は挙式前に外交に同行するようなことは無いんだけど、リッド殿下のブレーキ役になれる人が他にいないということこでやむを得ず、らしい。だからエリザベート殿下は今回、存在自体が非公式。――コルプニッツ王国、大丈夫?


 浮島&出島の案内は構わないんですけど、正直言ってそれほど面白いところはありませんよ? 立派な城と精霊樹があるだけで、村未満の集落が最近やっと出来たくらいなので。


 え? 浮島自体が興味深いから構わないと。それより折角だから、超小型飛行船とやらを使って島を見せてくれ? あー、つまり本当に遊びに来たんですね。そういう事ならのんびり浮島遊覧といきましょうか。


 っと、その前にミクワィア商会の方々をご紹介しましょう。いろいろと縁があって、浮島にも商会支部を置いて貰ってるんです。事実上、御用商人的な感じですね。


 会頭さんと二人の夫人は流石と言うべきか、隣国の王太子殿下相手でも完璧な対応だった。ツワイト夫妻はちょっと緊張気味だったかも。まあ非公式だし、多少噛んでも大丈夫でしょう。記録にも残らないしね。


 では早速、超小型飛行船こと空飛ぶクルマに分乗して浮島をご案内しましょう。ちなみに軽トラはあるといろいろ便利なので、現在初期のものを含めて三台に増えている。あと主に下の火山島との往復に使うための、普通サイズのトラックも一台作った。


 ちょっと話が逸れるけど、普通サイズトラックを作った理由は、移住者の中にも休日には狩りや探検に出かける人が結構いて、軽トラよりも大型のものがあった方が便利だったから。考えてみると、エルフの集落出身なんだし、狩りの心得がある人はそりゃあ多いよね。――メイドさんに立候補してくれる人、いないかな?


 案内中…… 案内中……


 えー……、何と申しましょうか。浮島全体をのんびり遊覧飛行のつもりだったのですよ。ええ、最初は。


 ところで皆さん覚えているでしょうか? コルプニッツ王国で温泉ダンジョンに入った時のことを。超速クリアするためにウォータースライダーっぽく筏で滑り降りた時、リッド殿下がテンションアゲアゲだったよね?


 ハイ、その通りです。のんびり遊覧飛行にはなりませんでした。というか、途中でリッド殿下が操縦をしたいと言って覚えた後は、もはやレースでした。テーブルマウンテンをぐるっと一周するだけのシンプルなコースでね。


 流石にエリザベート殿下は同乗しなかったし、競争は危ないからということでタイムアタックで自重してもらった。迫力のあるニッコリ笑顔でエリザベート殿下が説得してくれてよかったよ。


 ちなみにレースに参加しない人たちは、テーブルマウンテン上空に停泊させた飛行船から観戦していた。双眼鏡とかオペラグラスとか望遠の魔法とかを使ってね。これはこれでまあ、結構面白かった。


 それにしても、相変わらず嵐のような王太子殿下だね。個人的には嫌いじゃあ無いんだけど、お付きの方は大変そう。美味しいご飯とお酒で労ってあげましょう。








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