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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第十五章 大図書館の恋(変)人たち>
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#15-03 急いで準備!




「知っているという程の事ではないのですけれど、リズ姉様宛ての手紙で浮島の現在地に関する話はしましたので、もしかしたらそれを見て……、訪ねて来られたのかもしれません」


「王家の旗が掲げられてるっちゅうことは、まさか本人が?」


「それは……、どうでしょうか? ただリッド殿下の性格を考えると、可能性はあるのではないかと」


「「「「「あー……」」」」」


 あのワイルド系王太子かー。ダンジョンにもホイホイ出かけちゃうフットワークの軽さだからね。確かにエリザベート殿下宛ての手紙の内容を聞いて、浮島に興味を持ってしまったら――うん、来るかもしれない。あの殿下の好奇心と行動力にはシンパシーを覚えるからね。なんとな~く、行動が読める。


「性格的にはそうかもしれないけど、国内はともかく国外でしょう? 興味を引かれたから、なんていい加減な理由じゃいくら何でも許可が出ないんじゃないかしら?」


「だからその辺は何か名分をでっち上げればいいんだよ。例えば……、そう、マーメイドの里との交易が本格的に始まるに当たって、王太子が親善外交に向かう、とか?」


「ああ……、で、経由地となりうるココの視察も併せて行うと。まあ、外交官じゃなく王太子が出張る必然性があるかは疑問だけど、一応理由にはなるね」


 そそ。あのワイルド&アクティブ殿下なら、その程度の理由でゴリ押ししそうでしょ?


「まあ推測はともかく、コルプニッツ王家の飛行船がこちらに向かって来ている事は間違いないわけだ。出島に停泊して貰うのは良いとして、何ももてなさないってわけにもいかない。とにかく手分けして準備にかかろう。会頭には申し訳ないのですけれど……」


「いや、気にしないで準備にかかるといい。むしろ我々で助言できることもあるかもしれん。差し支えなければ手伝うが……」


「助かります。怜那さん、到着するまであとどのくらいかかりそうか分るかい?」


 うーん、飛行船の速度は遅いし、双眼鏡で見ないと分かんないくらい遠いからなー。正確には分からないけど、二時間以上はかかると思う。


「なんなら魔法でもの凄い(・・・・)風を起こして足止めしようか?」


「……それは最終手段にしておこう。それじゃあ一旦城に戻ろう」







 城に戻った私たちは、早速おもてなしの準備に取り掛かった。とは言ってもできることは限られているんだよね。コルプニッツ王国からの来客――もしかしたら王族かもしれない――があることを通達して、晩餐の会場と一応ゲストルームの準備もしておく。あとは料理の準備ね。


 料理に関しては、会頭さんたちをもてなす準備をしておいたのが功を奏した。量的に余裕をもって準備しておいたから、それに追加する形でどうにかなりそうだ。


 ただそれ以外に関してはちょっとね。掃除はいつも魔法でパパッとやってるから清潔に保たれてはいるけど、隅から隅まで塵一つ無いってほどじゃあない。そういうのはやっぱり人の手が必要になる。ゲストルームも部屋そのものの準備はできるけど、何か必要な時に呼べば使用人がすぐに来るっていうようなサービスは現状では無理。


 なんというか図らずも露呈してしまったのは、城の圧倒的人員不足。それも文官とか武官とかじゃあ無くて、メイドさんの方ね。生活の場として、そしてお客さんを迎える場として、城の環境を整えるのに必要不可欠な人員。


「これほどの城を維持管理するためには、ちゃんとした規模のメイド部隊が必要だってことは、頭では分かってはいたんだけどね」


 料理の下拵えをしつつ、城の現状について雑談を交わす。ちなみに厨房には指示役である秀と舞依、お手伝いとして私と万能メイドのシャーリーさん、ワットソン夫人、使える文官ことファルストがいて、鋭意作業中。


 それ以外は戦力外通告――料理に関してはね。皆で手分けしておもてなしの準備を進めている。とは言っても圧倒的戦力不足なので、目に付くところだけのハリボテ仕様だけどね。というわけで案内できるエリアは限定されます(汗)。


「でも現状城は私たちの遊び場の延長線上って感じだし、大量のメイドさんを雇ったところで、普段は大した仕事もなさそうでしょ? かと言って、本職のメイドさんに普段は農場の手伝いをやって貰うってわけにもいかないし……」


「そうね。それに衣食住の保障はできるけど、お給金はどうするの? とかも考えちゃうよね」


「お給金? 文官には……って、あれ? まだレティのポケットマネーから支払われてるんだっけ?」


「あ、ううん、そういうことじゃなくって。そもそもお金があっても使う機会……、例えばショッピングや娯楽が今の浮島にはほとんど無いなって。移動してしまって街から離れてしまったし」


「街どころか陸地から離れちゃったからね」


「確かに。……しかし娯楽か。人はパンのみにて生きるにあらず。住人も増えたし確かにこれからはそういうのも考えていかないといけないね」


「久利栖が居たら『パンで物足りないなら、バターと蜂蜜を塗ればええってことやな!』なんて言いそうだね」


「あはは。……いや、でも、一般的には物質だけでなく精神的にも満たされる必要がある、みたいな意味だけど、例えば料理にしたって美味しいものを食べると心も満たされるし、着る物もお気に入りの服を着ればテンションが上がるからね。そう考えると、案外的を射た表現なのかもしれない」


「……朝ごはんに味気ないパンとミルクだと元気が出ないけど、美味しいジャムを塗ったパンとミルクティーならちょっと気分が上がるって感じ? なるほど、深い……くもない?」


「怜那、秀くん、話が逸れてるよ(ニッコリ★)」


「ゴメンナサナイ。……折角だから現場の意見を聞いてみよっか。ファルスト達は不満……というか、退屈はして無いの?」


 浮島に来てからかれこれ二か月ちょっと。王都からも離れてしまったし、休日は暇を持て余してるんじゃ? と思ったら、そうでも無いみたい。


「それが自分でも意外なのですが、そうでもないのです。休日には島の方へ狩りというか探検に出かけていますし、人数が揃った時には野営をしてみたりと、結構この暮らしを楽しんでいますので」


 ちなみにドウールは趣味で神聖魔導王国の歴史研究を始めていて、リスフィスは令嬢修行の真っ最中。文官衆はパン以外(・・・・)も充実しているらしい。それはなにより。


 ――ということはつまり、狩りとかキャンプが趣味のメイドさんにとって、ここは理想的な職場なのではあるまいか。なんて呟くと、舞依がクスクスと笑う。


「ええっ? うーん、居なくは無いと思うけど……」


「そんなメイドさんが見つかれば理想的だね。だけどそう大勢いるとは思えないし、雇用側としては福利厚生面を考えないと」


 ごもっとも。まあ一朝一夕でどうにかなるものでもないし、住人の意見も取り入れつつ考えていこう。差し当たっては――あ、そうだ、温泉を探そう! え? それは個人的な願望だろうって? ま、そうなんだけど、今回はちゃーんと建前とも合致するからね!


「シュウ様。福利厚生とは少し違うかもしれませんけれど、大勢のメイドを雇うのであれば、考えた方がよいことがございます」


「シャーリーさん? なんでしょうか?」


 珍しく自ら意見を発したシャーリーさん曰く、使用人を含めた住人全体の男女バランスを考えた方がよいのではないか、とのこと。この意見にはファルストも深く深く深~く頷いている。――って深すぎでしょ。


 全てがそういうわけでは無いけど、使用人として仕事に出ている者は男女ともにぶっちゃけ婚活を兼ねていることが多いのだとか。率で言うと六~七割くらい? これは軍なんかも似たような感じらしい。同じ家の使用人なら、実家の階級(格)も似たようなものになるから、お相手探しには都合がいいってわけだね。


 さらに浮島の場合は立地が特殊過ぎるから、外部の人との出会いが皆無と言っていい。婚活は浮島内で頑張るしかない。


「うーん、なるほど。それも考えなければいけない問題だね」








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