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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第十四章 様々な種族>
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#14-30 浮島に移住者が来た!




 移住者用の物件をゲットし、ついでに逆家庭訪問の打診もして私たちは浮島へと戻った。あ、逆家庭訪問の日程については、会頭ドルガポーさんの予定も調整しなくちゃいけないから、今のところは未定ね。冬になる前には都合が付くんじゃないかという話だった。


 まあそっちの話は一旦棚上げ。例のモノ(サプライズ)の準備も必要だし、その前に移住者の受け入れの方が先だからね。目先の仕事をきちっと片付けて行きましょう。


 というわけで、リドリシアさんとヴァネルさんの意見を聞いて、実験農場の近くに住宅を移築する。ヴァネルさんの醸造所――というかお酒の工房もその辺に建てる予定。


 移住者は差し当たっては、まとめ役であるリドリシアさんとヴァネルさんの元で仕事を手伝うことになっている。もちろん向き不向きや個人の志望もあるだろうから、そういうのは取り入れていく予定ではあるけど、そういうのはある程度ここでの生活が慣れてきてから、そして移住者自身が申し出てからでないと、というのは二人のエルフの御意見。


 最初から領民に与えすぎたり、意見を聞き過ぎるのも良くないのだとか。二人のエルフさんはこちらから移住を打診したけど、他の移住者はそうでは無いからと。


 生活していく上で足りないもの不便なところが見えて来るから、その中で自分の役割を見定めていくことが重要なのだとか。それによって集落における地位――というと大袈裟だけど、立ち位置のようなものが決まるということらしい。


 エルフさんたちに言わせれば、浮島ここへの移住は大きなチャンスらしい。なにせ人材不足――とオブラートに包んでくれたけど、実際はほぼ皆無――で、自分にしかできない仕事を見つければ責任者で先任者になれるのだから。


 そういう環境が与えられるのだから、まとめ役の二人としては「少しでも野心があるなら、機会は自分で掴め」というスタンスらしい。集落の仲間に対してちょっとスパルタな気もするけど、言ってることは至極ごもっとも。なのでリーダーもその方針を受け入れることにした。


 さてさて、そんな感じで準備が整いましたので、いよいよ移住者を受け入れましょう!


 当初はフィディが背中に乗っけて連れてくる予定で、実際二人のエルフさんはそうしたんだけど、流石に十数名とその荷物となるとちょっと危ない。浮島も移動して距離も伸びたしね。


 という訳で、私も迎えに行くことになった。フィディとエルフさんと私とで集落まで迎えに行って、飛行船で帰って来た。ちょっとだけだけどエルフの集落を見学できて、私は満足のようなちょっと物足りないような複雑な気分です。


 いや、見学はしてみたかったしできたのは良かったんだけど、なんていうかこう……思ったよりも普通の集落で拍子抜けというか、もうちょっとメルヘン要素が欲しかったというか。


「あらあら、それではレイナさんはどういった集落を予想していたのですか?」


「えーっと、例えばそこら中に大木があるような豊かな森で、ツリーハウスに、ああ、木の上に建てた家の事ね、そう言うところに住んでいるとか……かな?」


「ふふふ、それは素敵ですね~。……大災厄よりもさらにずっと昔の時代には、そういったものもあったと伝え聞きますけれど、現代ではどこにもないでしょうね」


 それは残念。リドリシアさんの集落の伝承によれば、遥か昔、エルフが今よりもずっと少数で森と調和して、他種族ともかかわることなく暮らしていた時代があったのだとか。その時代のエルフは樹木を自在に成長させる超高等魔法も使えたそうで、ツリーハウスと言うより大木そのものを家にしていたそうな。うん、実にファンタジー! そういうのが見たかった。


 ちなみにヴァネルさんの集落にも、巨大な実ができる植物――瓜みたいな生り方をするみたい――があったという伝承があるらしい。直径が三メートルにもなる実は乾燥させると皮が岩のように固くなり、これを建材として家を作っていたとのこと。


 乾燥する前に中身をくりぬいて、開口部を作っておいて――ハロウィンのランタンを作るみたいな感じかな――複数を繋げた家とか二階建てとか、結構バリエーションがあったらしい。丸っこいものがポコポコ連なってる集落を想像すると可愛いよね。ワイルド系東方エルフの集落の方が、よりメルヘンというこの不思議。


 なお、現代のエルフの集落はごくフツーの農村って感じでした。リドリシアさんの方は湿気の多い季節が長いそうで高床式の住居だったけど、それ以外は特に変わったところはありません。期待して観光に行くとがっかりするかもなので、皆様ご注意ください。


 そんなこんなでやって来ました移住者の皆さん、総勢三三名。ようこそ我が国――はまだちょっと先だから、浮島へ。親睦を深める為に、歓迎会を開きまーす。


 移住者たちは来る前にはトランク飛行船に驚き、空に浮かぶ島を目の当たりにして驚き、歓迎会で供された料理とお酒に驚き、その日はキャパオーバーで早々にダウンしていた。子供の中には面白そうにしてる子もいたけどね。


 翌日、ある程度(・・・・)落ち着いたところで、住人の名簿(戸籍)作りをして、浮島の住人になる上での注意点等々を文官衆が主導して行った。こういう時、万能型のファルストと、領地での実務経験のあるドウールは頼りになるね。


 移住者の中で初めて見る――浮島で、ではなく、こっちの世界に来てから初見の――種族は、ムルニー族とフェアリー族とリザードマン族の三種族。この内フェアリー族とリザードマン族は大体想像通りって感じだった。


 リザードマン族は普通のヒューマンとほぼ同じくらいの体格で、腕と足が鱗に覆われていて、蜥蜴の様な尻尾がある。それ以外はほぼヒューマンと同じ――いや、瞳孔が縦長なところは違うか。秀や久利栖に言わせると“人間寄りのリザードマン”らしい。ちなみに髪の毛もあるし、女性にはおっぱいもちゃんとあるから、外見で性別も判別できる。


 フェアリー族はいわゆる妖精っぽい種族で、小さくて、羽(翅)があって、ほぼ常に飛んでいる。強いていえば身長が三〇~四〇センチくらいあるから、手のひらサイズの妖精を想像しているとちょっと大きく感じるかも。実は羽は実体ではなく、種族の特性として常時展開できる飛行魔法らしい。だから服に穴は要らないし、飛ばないときは消すこともできるし、ある程度形状や枚数を好きにできるそうな。


 で、一〇〇パーセント未知の種族であるムルニー族は――なんて表現すればいいんだろう? ヌイグルミ? いや、大きさ的にゆるキャラの着ぐるみ――にしてはちょっと小さいか。着ぐるみって大人が入るものだから結構大きいしね。え? 中の人など居ない? いや、そういう議論は他所でやって下さいな。


 全体的に毛がフサフサしてて、凹凸が少なくて丸っこい感じのデフォルメ体型で、足は短いけど腕は結構長い。まん丸のクリッとした目がチャームポイント。大人の男性は背が高くてやや縦長体型。女性は若干背が低い割に横幅がほぼ変わらないから丸っこい印象。ちなみに子供はまん丸でとてもカワイイ。思わず抱っこしたくなる――というか、させてもらいました。


 ええと、アレだ。梟の羽を腕に置き替えてゆるキャラにしたらこんな感じかな。フクロウほど頭が大きくはないけど。色は子供は黄色みの強い黄緑で、大人の女性は黄緑、大人の男性はそれよりも緑に近いくらい。ちなみにちゃんと服を着ています。


 差し当たっての小さな問題として、ヴァネルさんの里出身者は、基本集落の公用語がエルフ語だったらしく、大陸共通語をカタコトでしか喋れなかったことかな。リドリシアさんの里出身者は、エルフ語と大陸共通語の両方を普通に話せた。


 まあまとめ役のヴァネルさんは普通に話せるし、私たちのメンバーの中にもエルフ語が分かる人はいるし、文官衆もファルストとライブスがエルフ語をある程度は離せるみたいだから、あまり大きな問題じゃないかな。


 私はどうなのかって? えーっと、まあ、私は舞依と一緒に居ることが多いからね。みんなカタコトは話せるし、後は身振り手振りと気合で何とかなる――ハズ。コミュニケーションは伝えたいという熱意が重要なのです。


 まあどうしても伝えたいことがあれば、神代言語を使って語り掛ければいいだけなので。


「怜那、それはちょっと……控えた方が良いと思うよ?」


「なんで? 神代言語は駄目?」


「駄目……では無いけど、神代言語で語り掛けられるのって、プレッシャーがあるでしょう? 神様と話す時に感じなかった?」


「えっ!? そうなの? 私は気付かなかったけど……」


「ああ、もしかしたらって思ってたけど……。それってたぶん、怜那の魔力というか魔法適性が桁外れだからだと思うよ? 私たちは一応大丈夫だけど、他の人達に使っちゃったら……」


「もしかして威圧感があって怖がっちゃう?」


「……むしろ神々しくて跪いちゃうかも? 神様の使う言葉なんだし」


「うわ、それはかな~り嫌だなぁ。うん、控えておくことにする。指摘してくれてありがと、舞依」


「ううん、どういたしまして」







今回で十四章は終了。次回から十五章になります。


都合により一週間更新はお休みしまして、次回の更新は4/16になる予定です。

今後もよろしくお願いいたします。m(__)m

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