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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第十四章 様々な種族>
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#14-27 ちょっと先の事を考えてみる




 火山島の大まかな調査やイノブタの捕獲&植物の移植作業を終えたある日。私と舞依とクルミ、そしてエミリーちゃん&シャーリーさんの四人と一匹で、ノウアイラへとやって来ていた。


 街に遊びに来たのかって? 答えはノー! ちゃんとお仕事なのです。まあ、皆に頼まれた買い物とかの雑用もあるから、遊びの要素が全く無いとは言わないけどね。


ちなみに他の皆も浮島でお仕事中――というかお勉強中。


 具体的に言うと、秀と鈴音は領地経営や統治の心得なんかに関してのお勉強中。講師役はワットソン夫妻。二人は日本にいた頃から統治者(政治家)としての心得などなどを、真行寺の御当主(タヌキ爺)から叩き込まれてたけど、あっちとこっちでは身分制度を始めとして違うところが多々あるから、その辺の擦り合わせは必要だ。


 久利栖はというと、レティと二人仲良くフラン&文官衆からの報告を受けている。現時点で判明している城の資産や備蓄なんかについてだね。たぶん久利栖は財務大臣的ポジションに就くことになるだろうから、その下準備というか、知るべきことは今から知っておこうって感じかな。


 これまでは私たち日本人組を中心とした仲間内だけでの生活だったし、将来的に国を興すとは言っても、暫くは集落程度の“名ばかり国家”になるんじゃないかと漠然と思ってたんだけどね。移住者が来ることになっちゃったし、あまり大雑把にしてもいられなくなったってところだ。


 私と舞依はって? 私たちは神官(巫女)ポジションだからね! 政治にはノータッチなのですよ。


 別に勉強から逃げているわけではありません。いや、本当に。実際、神官のお仕事関係の情報を精霊樹経由で手に入れて舞依と共有したり、神社(風の神殿)のデザインを二人で考えたりしている。


 いやー、実は聖職者なんて毎日神殿の掃除だけしてればいいんじゃないかなんて軽く考えてたんだけど(←失礼極まりない!)、調べてみると仕事は結構多岐に渡ることが分かったんだよね~。思ったより大変そう。ま、やると決めたからには舞依と二人で頑張りますよ。仕事の詳細については、また後日。


 話を戻して、と。


 ノウアイラにやってきた主目的は、会頭ドルガポーさん経由で確保を依頼していた物件(上物)について、現時点で引き取れるものを回収すること。あと建材の仕入れなんかもできないか相談しようと思う。


なお、アポは取ってない――というか取る手段が無い――ので、場合によっては数日滞在、もしくはアポを取って一旦浮島へ帰る予定です。


 移住者の住む場所が必要だからね。最初の内は城に有り余ってる部屋を適当に開放しても良いんだけど、移住者たちは間違いなく落ち着かないだろうからね。ちなみにこれは二人のエルフさん共通の意見で、当の二人もできればもっと小ぢんまりとした家の方が落ち着くとのこと。


 という訳で、庶民的な家やアパートを移設して取り敢えずはそこに住んで貰うことにした。その後の事は、色々話を聞いてからだね。移住者たちが何が得意でどんな仕事をするのか、何処に住むのが適してるのか、集落を作るのか。そういったことを相談の上で、改めて家を建てるなり移設なりする予定。


 ちなみに移住者の出身集落はどちらも家を建てる時は、設計・指揮をする棟梁ポジションの人の元、住人総出で――もちろん家の主がメインで――作業をするとのこと。つまり家を建てる経験はあるってことね。


 で、その棟梁役は移住者の中のドワーフさんができるらしい。生業としてはいわゆるファンタジー設定のドワーフらしく鍛冶だけど、大工や土木に家具作りなんかもできるそうな。集落の何でも屋さんって感じなのかな?


 ミクワィア家にお邪魔すると、明後日には時間が取れるとのこと。それまでには建材も多少は用意できるだろうとのことなので、鈴音たちに連絡を取ってノウアイラに滞在することに。


 舞依と手を繋いでぶらぶらお散歩しつつお使いを済ませていく。エミリーちゃんは実家でお留守番――というか、家を離れている間もちゃんとお勉強をしているか、チェックを受けるみたい。


「もし不合格になってしまったら、エミリーちゃんは実家に戻されちゃうのかな? だとしたら大変だよね……」


 舞依もエミリーちゃんの事を可愛がってるから、声音に少し心配が滲んでいる。シャーリーさんとニーナさんの指導の下、お勉強も頑張ってるのを知っているから、少しだけどね。


「たぶんそういう事にはならないと思うよ。浮島に商会支部を設置したし、ミクワィア家としても推進してることだからね」


「そう。なら安心してテストに臨めるね」


「いやいや、真剣にやらないとマズいと思うよ。もし及第点を取れなかったら、商会の補佐官を付けるっていう名目で、厳しーいお目付け役兼教育係が付いてくることになるかもしれないからね」


「そ……それは真剣に取り組まないといけないね。エミリーちゃんなら大丈夫だろうけど。あ、でも補佐役はいずれにしても必要になるんじゃない? シャーリーさんがいくら有能とは言っても、一人でできることには限りがあるし」


「エミリーちゃんの教育と商会の運営、侍女と護衛も兼務してるようなものだしね。ま、当面は私たちの御用商人として、資材なんかの仕入れと特産品の輸出を管理するだけ(・・)だから何とかやっていけると思うけど」


「だけ……で、済むのかなぁ?」


「だから当面は、ね。移住者の中に従業員を希望する人が居るかもだし、ミクワィア商会の方も本腰を入れて乗り込んでくるかもしれないし。その辺は成り行き次第じゃない?」


「成り行き……。ねぇ、怜那は浮島をどういう風にしたいと思ってるの?」


「うん? 私の目的は前からずっと変わらないよ。皆に祝福される形で、舞依と一緒になれる環境を整えること。ただそれだけ」


 もし私たちが転移してきた時代が大災厄以前だったなら、同性婚も認められてた――可能性もあるから、だったらメルヴィンチ王国でもどこでものんびり過ごせて適度に便利な街に定住すればよかっただけなんだけど。


 たまたま精霊樹の種を手に入れて、浮島っていう私たちの好きにできる土地も手に入れてしまった。祝福をして貰う約束も神様に取りつけたから、ある意味私の目的は既に達成されている。


「怜那……」「舞依……」


 ギュッと腕を組む舞依の肩にコテンと頭をくっつける。往来だからキスは自重しないとね。ちょっと残念。


 だから浮島――というか、私たちの国をどうするのかは皆で決めていけばいいと思ってる。あ、もちろん同性や異種族間の結婚を認めるっていうのは譲らないけどね。


「ま、秀と鈴音なら困った為政者にはならないだろうし、私たちはのんびり巫女さん姿で、縁側でお茶でもすすってればいいよ」


 私と舞依の中で、神殿は和風にすることが決まっている。寝殿造りみたいにしてもいいよねー、なんて話してるんだけど、残念ながらうろ覚えだ。精霊樹が成長してくれれば資料をネット経由で閲覧できるんだけど、いつ頃になるか分からないしどうしようかなー。


 あと鐘もあった方が良いかな。こっちには無い風習だけど、年末に鐘を突いてみたい。折角和風にするんだし、そういう風物詩的なものも取り入れたいよねー。あれ? 鐘ってお寺の方だっけ? ま、いいか。初詣はお寺と神社のどっちでもアリだしね。


 ――なんて妄想を取り留めなく話していると、舞依が不意にクスクスと笑いだした。


「怜那、日本の色んな風習を取り入れるのに私は反対しないけど、そういう行事を増やしちゃうと神職の仕事がどんどん増えちゃうんじゃない?」


「んっ!? そ、そうだった、神殿って結構仕事が多いんだった。どうしよう、舞依~」


「ふふっ。……ゆっくり決めてこう。二人で、ね」


「うん、二人で、だね」








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