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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第十四章 様々な種族>
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#14-25 MVM




 それにしても文官衆の食欲――というか、食べる勢いが凄いね。っていうか、もしかして普段の食材が足りない? 増やそうか?


 ふんふん、そうじゃなくて? あ~……、普段は自炊だから、ここまで凝った料理は作れないと。食材は良いし量もあるから不満は全然無いけど、こんなご馳走を前にすると、実家で染み付いた“食べられる時にたらふく食べる”という信条がつい出てきてしまうと。


 ――な、泣かせる話だね。ホロリ。そういう事ならじゃんじゃん食べてね。仕込んだ食材はまだあるし、何なら追加も出せるから。あ、でも食事のバランスは良く、ね。リスフィスちゃん、お野菜もちゃんと食べるように。ほら、蒸しワイバーンのサラダなんて美味しいよ?


 エルフの二人は談笑しながら上品に食べてる。ここに来て間もない二人だから、食事よりも交流を大事にしてるってことかな。――いいや、違う! よく見ると手の動きと咀嚼のスピードがハンパない。うーん、さすがは長生きのエルフ、色んなスキルを持っていらっしゃる。(※諸説あります)


 エミリーちゃんたちも楽しんでる。うんうん、それは良かった。お気に入りはあった? 雲丹のクリームパスタが絶品でした? ああ、アレは確かに美味しかった――って、結構大人向けのメニューを挙げたね。リスフィスちゃんはワイバーンの唐揚げを貪ってたけど……。


 ん? シャーリーさん? ああ、なるほどそういう事ですか。エミリーちゃんは幼い頃から商会の勉強の一環として、大人に混じって色んな料理を食してきたから、割と舌が大人なのだと。ちなみにシャーリーさんはお寿司に感動したそうです。シャーリーさんは醤油にも真っ先に食いついてたし、日本食が好みに合ってるのかもね。


 フィディもご満悦のご様子。フィディは自他ともに認める美食家グルメなわけだけれど、実はそれほど量は食べない。というか、食べようと思えばいくらでも食べられるらしい。


 成体になったドラゴンは、魔力さえあれば別に飲まず食わずでも大丈夫なのだとか。意図的に体を大きくしたい時や、子供(卵)を産む時には食べる必要があるけど、それ以外の飲み食いは嗜好品に近い。


 で、フィディはどちらかと言えば食べるより呑む方が好き。という訳で、お酒を飲みつつ、アテとして料理を楽しんでいる。


 フィディはどれが気に入ったの? ほほ~、フィディもお寿司なんだ。これまで食べたことの無い料理で、とても洗練されていて見栄えも良いと。フィディの感想は食レポと言うより評論っぽいよね。美食家の面目躍如ってとこかな。


「惜しむらくは、ぴったり合う酒が無いのじゃ。ビールは悪くないのじゃが……」


「あー、せやなあ……。某グルメマンガによると、生の魚介とワインの相性は悪いそうやからなー」


「そもそも違う文化圏の食べ物だからね。同じ文化の中で進化していった日本酒が、やっぱり一番合うんじゃないかな」


「なぬ!? そういう事ならばその日本酒とやらを早う仕込むのじゃ!」


「いやいや。だから米作りの名人と酒造りの名人を、フィディに紹介して貰ったんじゃないですか」


「む、そうじゃった。つまり米が収穫できて酒の仕込みができるまでは、お預けなのじゃな……。残念なのじゃ」


 というか、フィディの満足できる日本酒がすぐにできるかどうかっていう問題もあるんだけどね。ま、それを今言うのは野暮ってモノでしょう。


 そんな感じて総じて良い食材ばかりだったわけだけど、中でも驚きの食材は世紀末イノブタ(仮称)だったね。


 基本的には野性味のある豚肉って感じ――秀によると四対六くらいの割合で猪肉よりは豚肉に近い感じなのだとか――なんだけど、サシの入ってる部位は牛肉っぽい味わいになるんだよね。牛肉と豚肉の両方に対応できる便利お肉ってわけ。


 ステーキにして良く、しゃぶしゃぶにして良く、カツにして良く、ミンチにしてハンバーグにしても良い。今回は無いけど餃子にしても良さそう。ちなみに可食判別の魔法で生食もOKだったから、タタキもユッケもメットもいける。うん、(モスと)(ヴァリュアブル)(ミート)の称号を贈りましょう。


 今回の試食会ではテラスに特設焼肉テーブルをご用意しました! 様々な部位のお肉を炭火焼きでお楽しみいただけまーす。


 ジュウジュウという肉の焼ける音、そして脂が炭火に落ちて立てる香りが食欲をそそる。なんていうか、料理人からしたら焼肉って反則臭いんじゃないかなー。こんなシンプルなのに、なぜかこんなにも心惹かれるというね。


「どの部位も美味しいわね! 牛肉っぽい部位も、豚肉っぽい部位もあるから飽きが来ないし」


「そうだね。はい、鈴音の好きなタン塩が焼けたよ。っと、そうだ。はい、鈴音、あーん……」


「あ、あー……って、何をやらせる気よっ、もう。はい、お皿にお願い」


「ハハハ、怜那さんと舞依さんが羨ましいのかと思ってね」


「もう、聞いてたのね……。(パクリ)ん、美味しい。タンはまんま牛タンなのね」


「そうそう、不思議だよね。ただ残念なことに牛のほど大きく無いから、ある意味希少部位だね」


「そうなんだ。……ありがと」


 うんうん、鈴音と秀も良い感じだね。久利栖とレティは――


「レティ、焼肉と蟹を食べる時に遠慮は無用や。じゃんじゃん好きなのを焼いてええんよ」


「えっ? そういう作法なのですか?」


「作法っちゅうか、その方が楽しいっちゅう話やな。ちなみに蟹は食べ始めると、誰もが無口になるっちゅう都市伝説が……」


「本当ですかー?(ジトーッ)」


 お姫様のジト目とは、なかなかレアな表情。レティは打ち解けてはいても基本丁寧な口調や態度を崩さないけど、最近は久利栖相手にだけは割と砕けた感じになる。順調に距離を詰めているようで何より。


「ま、都市伝説かはさておき、蟹を食べ始めると口数が少なくなるのは本当かな。アレってなんでなんだろうね?」


「うーん、たぶん蟹の身を取り出すのに集中しちゃうからじゃないかな? 食事より作業っていう感じになっちゃうから」


「あー、確かに。まあレティが蟹を食べる時は料理になった物だったろうから、ピンとこないかもね」


「そうですね。殻の付いたそのままの蟹が食卓に出て来たことは無いです……」


 王宮の食卓に蟹がそのままデーンと出て来て、王族の方々が綺麗な衣装を着たまま蟹の足に細いフォークを突っ込んでるのを想像したら、正直かなりシュールで面白い。ぜひ、一度やってみて頂きたいね。


「それにしてもこのイノブタ? のお肉は、とても美味しいですね」


 レティが箸で上品におカルビを口に入れて咀嚼し、うっとりと微笑む。


「せやな。安定供給できるなら特産品にもなりそうやけど、島にどのくらいおるかが問題やな。そないに広い島やないし……」


 久利栖の口から今後の方針にも関わることが出て、鈴音たちの関心もこちらに向いた。







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