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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第十四章 様々な種族>
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#14-21 砂浜には貝が沢山(注:凶暴です)




 グワッグワッ…… チチチチ…… ギャアッギャアッ…… 


 目の前の鬱蒼と茂るジャングルからは、そんなそれっぽい感じの効果音――いや、生音なんだから効果音ではないんだけど――が聞こえてくる。うん、紛れもないジャングルだね。


 浜辺に降り立って改めて観察すると、やっぱり森と言うよりはジャングルっぽい印象を受ける。幹はそんなに太くないけど極端にノッポな木がニョキニョキ生えてるのを除くと、大木と言えるような木は見える範囲には無い。木の種類もなんとなくだけど熱帯っぽい。基本森の中は薄暗くて、足元はシダ植物が埋め尽くしてる感じ。


 ちなみに気温も湿度も高い。私たちは魔法で調節できるから問題無いんだけど、じゃなかったらこの森を探検しようとは思えないね。水着で海水浴ならいいけど。


 そう、この島には狭いけど砂浜が一箇所だけあった。手付かずの海は澄んでいて綺麗だしヤシの木も生えてて、何故かこのポイントだけリゾート地っぽい。広さ的にも雰囲気的にも、ここだけは最初の無人島に似ててちょっと懐かしかった。軽トラがポツンと一台佇んでるのがシュールだけどね。


 調査については相談の結果、ファルストたちとエルフさんたちがメインで行い、秀と久利栖とクルミがその後ろからついて行き、万が一ピンチになったらフォローするっていう形になった。


 鈴音が探索に難色を示したから? 答えはノー。あ、いや、全然無いってわけじゃあないけどね。単純にどう見ても、ゾロゾロ大人数で立ち入るのに向いてる場所じゃなかったから。まあ今回は、ファルスト達だけで探索(狩り)を安全に行えるかを確かめるのも目的の一つだからね。


 私と舞依と鈴音の三人は、海岸線の探索をする。時間が合ったらトランクの筏で海に出て、釣りもしてみるつもり。――誰ですか、ジャングルの探索より楽そうだなんて言う人は? 先生が優しく成敗してあげますから手を挙げなさい。


 実際、海岸線の探索の方が圧倒的に楽ってことは無いと思う。というのも、そこかしこに魔物の反応があるんだよね。しかもジャングルの中にいるのより強い反応もある。


 リゾートっぽく見えてても、ここが人の手の入っていない無人島であることに変わりはないってこと。私たちも気を引き締めて行きましょう。というわけで、行動を開始しまーす!




 砂浜を三人で、三角の形に隊列を組んで歩いて行く。先頭は私で。私はトナカイローブで舞依と鈴音は制服、ライフジャケットも身に付けて武器も手にしたフル装備状態は、考えてみると呪われた大陸のダンジョン以来かも。


 ちなみに私は今回最初の無人島で作った刀を手に持ち、念の為にセイバーを腰からぶら下げている。トランクは秀に預けていて、今は手元に無い。


 今回秀と久利栖は積極的に動くことは無さそうだし、スマホの中継機代わりに持って行ってもらった。これで簡単に連絡が取れるし、無いとは思うけどいざという時は特殊スロットの回収機能で私があっちに瞬間移動もできるってわけ。――すっかり手に馴染んだ物が無くて、ちょっと手持ち無沙汰感はあるけどね。


「あ、二次方向、もしかしたら来るかも?」


 私の呼びかけに二人が身構える。それを確認してから慎重に歩くと――


 ズズズ…… パカッ ブクブクブク……


 音もなく砂浜の一部が盛り上がり、砂浜とほとんど見分けのつかない色の貝が姿を現す。そして口(というか貝殻)を開き、泡をブクブクと吐き出した。


「こっちのパターンねっと!」「凍らせます」


 鈴音の放った矢が貝殻の間に吸い込まれるように突き刺さる。泡が止まるとすかさず舞依が魔法で瞬間凍結。うーん、お見事。私の出る幕が無かった。


「砂浜をちょっと歩いただけだけど、なんとも面倒なところね」


「はい、気を抜けないですね」


 本当にね。探知魔法で魔物の位置と攻撃してくる兆候が分からなかったら、かな~り面倒だろう。どうやら砂浜に居る魔物はステルス戦に特化しているらしい。


 例えば今の魔物。ハマグリっぽい二枚貝なんだけど、近寄るとコッソリ蓋を開けて泡を吐いてくる。この泡は魔力を帯びてて、食らって無いから想像だけど触れると痺れるとか眠るとか、何某かの状態異常が起きるんだと思う。泡を出す以上の行動を見て無いからね。相手を動けなくしてから養分を吸い取るとかするんじゃないかな?


 貝には別のパターンもある。同じく二枚貝だけど貝殻のかみ合わせがギザギザになってる種類で、こいつはなんと飛んで噛みついてくる。飛んでくるタイプには巻貝もいて、こっちは先端から針を伸ばしている。まあ間違いなく毒針だろう。ちなみに飛んでくるタイプは避けるとまた砂浜に潜るという一撃離脱戦法ね。


 あと見た目はどう見ても岩なカニ――もしかしたらヤドカリの仲間かも?――とか。カニには砂の中に潜ったまま鋏だけを出してジョキンとやって来るのもいる。それは片方の爪だけが大きいシオマネキみたいなのだった。まあサイズがおかしいけど。


 ヤシの木の近くにでっかいヤシガニみたいなのも居て、普通ならなかなかの迫力だと思うんだろうけど、姿が最初から見えるから可愛いものだ。――なんか評価の基準がズレて来てる?


「それにしてもこんなところで待ち伏せして、何を狙ってるのかしら?」


「満ち潮になったらこの辺りにも魚が来るのではないでしょうか?」


「ああ、そういうことね」


「それもあるかもだけど、むしろあっちじゃないかな?」


「「あっち?」」


 私がそれ(・・)を指差すと舞依と鈴音がそっちに視線を向け、その後で訝し気に私を見た。うん、まあその反応も分かる。だから――


「ちょっと岩陰に隠れて観察してみよっか」


 私たちはこそこそと岩場――言うまでも無いけどカニに非ず。本物の岩です――に身を潜めてひょっこり頭を出して観察を始める。おっと、タイミングよく降りて来たね。


 砂浜に音も無く着地したのは嘴が長くて足も長い三羽の海鳥。体型はフラミンゴっぽいかな。羽毛はうっすら水色で、嘴はオレンジ色。なかなか綺麗というか優美な鳥だね。ちなみに魔力の反応から魔物では無くてただの鳥だと分かる。


 腹ごしらえに降りて来たのか、砂浜を突っつきながらてくてく歩いている。――んだけど、そんなにのんびり歩けるほどのどかな砂浜じゃあ無い。


 なんて思っていると、一羽の足元からブクブクと泡が立ち込め、異変を察知した三羽が一斉に飛び立つ。が、その瞬間、噛みつきタイプと毒針タイプが鳥に襲い掛かった。


 一羽がブスリと刺されてあえなく墜落。噛みつきタイプは躱されて空振りに終わった。二羽は逃げられるかな――と思いきや、恐らく最初に泡を浴びた一羽が失速し、フラフラと砂浜に落ちてしまった。泡の効果が出るのには多少のラグがあるらしい。


「……ねえ、普通貝って海鳥の餌になるものよね? 食物連鎖的に逆じゃない?」


「それはそうなんだけど、事実を前にそんなことを言われてもね……。まあ貝の方は魔物で鳥の方は普通の動物なんだから、逆転してもおかしくないんじゃない?」


「あ、鳥は動物なのね」


「鳥の方も魔物だったら、泡の魔法には抵抗できてたかもしれないですね」


「なるほど。というか魔物の鳥なら大きいだろうし魔法も使うだろうから、普通に返り討ちにするかもね。それはそうと獲物を仕留めたのは良いけど、どうやって食べるつもりなのかしら?」


 ――さあ? 舞依は何か予想できる? うん、まあ、分かんないよね。せっかくだからもう少し観察してみよっか。








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