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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第十四章 様々な種族>
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#14-20 火山島に降りてみる




 諸島に向けて魔法探知を展開すると、魔物の分布が綺麗に分かれているのが分かる。


 基本的にこの世界は、無人島とか未開地とかは魔物が強力になりがちっていう性質がある。魔力の循環と調整も担う精霊樹の支配下に無い上に、魔力(瘴気)に流動性が無く停滞しがちで、長らくその影響下にある魔物が雪だるま式に強くなっていくって感じね。


「アレやな、蠱毒こどくみたいな感じや」


「孤独?」「ボッチでレベル上げってこと?」「魔物が、ですか?」


「そらコドク違いや。ざっくり説明すると、壺ん中にぎょうさん毒虫を放り込んで共食いさせて、最強の毒虫を作るんよ。で、それを使うて呪いをかけるっちゅう、えげつない伝統的呪術や」


「伝統的呪術~?」


「いやいや鈴音。蠱毒はファンタジーものでは割とポピュラーに取り上げられるネタの一つではあるけど、古代中国における呪術らしいよ。伝統的っていうのも、間違いでは無い……はず」


 まあ実際にあったかは分からないけど、閉鎖的な空間に閉じ込められた魔物がどんどん強力になっていくってところは、ちょっと似てるかもね。ま、蠱毒についてはさておき。


 この島の場合も強い魔物が多くはあるんだけど、中央の島は比較的弱く、それも西半分の方がより弱い。まあいくら弱いとは言っても、メルヴィンチ王都の農村エリアに入る魔物よりはずっと強力だから、一般人が暢気に散歩できるってわけじゃあないけどね。


 で、西の島は結構強力で、東の島はそれよりもさらに強い。皆には分からないかもだけど、私が最初に流れ着いた無人島が東の島と同じくらいだ。つまり一番強い魔物が出る東の島で、おおよそ平均的な無人島レベルということになる。


「それは妾が塒にしておった影響やもしれぬのう」


 そのココロは? ふむふむ、なるほど。フィディに限らずドラゴンは、鱗の手入れなんかを塒でする習性があるから、塒には鱗やら牙やらが積み上がると。確かに大峡谷地帯の洞窟もそんな感じだったね。


 で、ここの塒を出る時はそれらを始末しなかったのだとか。まあ噴火で追い出されたようなものだから、それは仕方ないよね。


 一部は溶岩に飲まれて焼失したかもしれないけど、残った物も多数あるはず。その気配――つまりドラゴンの魔力がそこかしこにある為、魔物の分布が別れているのではないか、というのがフィディの推測。


「要はドラゴンの残り香に恐れをなして、魔物が寄ってこないっちゅうことやな?」


「し、しし、失礼な! 妾は綺麗好きなのじゃ! 臭くなんて無いのじゃ!」


「久利栖……」「今のは少し……」「うん、マイナス千ポイントだね!」


「ゴメンナサイ。って、残り香ってアカンの? 別に悪い表現やないと思うんやけどなぁ~?」


 久利栖の抗議に秀がちょっと頭を捻って答える。


「うーん……、場合に寄るんじゃないかな。例えば“彼女の置き忘れた服から、微かに香水の残り香が……”みたいな表現だったら、悪い印象では無いと思うけれど」


 秀の文学的な表現に、女性陣一同から「お~」と感嘆の声が上がった。流石はスパダリ、そつがない。


 確かにそういう表現なら問題無い。服を手に取った時ふわりと彼女の香りがした――みたいな感じだし、なんとなく彼女の事を思い出してるのかなーっていう印象も受けるしね。ま、服を置き忘れるシチュエーションってとこが、ちょーっと気になるけど。


 さておき、さっきの話の流れだとフィディの残り香で魔物が寄ってこない、みたいな感じになっちゃうからね。ドラゴンとは言え女性に向けての言葉としてはアウトでしょう。


 ちなみに比較的弱い魔物なら居るのは何故かというと、ドラゴンが獲物にするような相手では無いから。小物の方が逆に安全ってわけね。結果的にドラゴンに護られているというか、威を借るというか、まあそれも一種の生存戦略だろう。


「魔物のランクがエリアごとに大体分けられているっていうのは、僕らにとっては好都合だね。調査をするにしても狩りをするにしても、どの程度警戒するべきか予め想定できるわけだから」


「そうね、新しい住人の中にも狩りを生業にしてる人が居るかもしれないし、実力に応じて入っていいエリアを制限すれば、危険性も少なくできるわ」


「新しい住人っちゅうか、もう既に探検に行きたそうにしとるものが数名おるんやけど……」


「そ、そうですね。一応、文官を募集したはずなのですけれど……」


 カトレアがかな~りワクワクした様子で飛行船の縁に手をついて島を眺めてるね。その隣で腕を組んでるライブスは落ち着いているようだけれど、視線は島に釘付けだ。あとファルストも興味深そうにしている。この三人はお休みの日に「一狩り行こうぜ!」になりそうな予感がする。


 リーダーの方針としては、休日は自由にして構わないってことにしてるから、狩りに行くのも全然問題は無い。だけど怪我程度ならともかく、犠牲が出るようでは困るよね。


 というわけで、城でお昼ご飯&一休みしてから希望者を募って、取り敢えず中央の島の西部――つまり一番魔物が弱いエリア――へ軽く調査に出かけることとなった。







 調査に出かけるメンバーは私たち五人+一匹、文官組からはファルスト・ライブス・カトレアの三名、エルフの二人。他の人達はお留守番。


 レティとフランも興味はあるみたいだけど、今回はお留守番組に回って貰った。今回の調査はどちらかと言えば、ファルスト達三人と二人のエルフでどのくらいやれるのかを見るっていうのが主目的だからね。


 で、その結果を指標にして、島に狩りに出られるメンバーを選定するって感じかな。私たちの感覚だと、この世界の標準からズレまくっててイマイチ正しい判断ができないからね。


 というわけだから島の魔物や動植物なんかを調べるのは後回し。私も興味があるから、それは後でゆっくりとやりましょう。ついでに(・・・・)温泉調査もね!


 フィディが今回パスなのも理由はそこにある。フィディは人型でいる時は魔力をちゃんと抑えていて、普通の人には気付かれないレベルなんだけど、魔物は何故か本能的に気付いて逃げていくんだそうな。小物は襲われないからって、わざわざ目の前に出ていくことも無いからね。戦わないと意味が無いのに、獲物が居ないんじゃ話にならない。


 ちょっと意外だったのは、おっとりエルフのリドリシアさんが立候補したところね。疑問に思って訪ねてみると――


「あらあら、森の中の集落に棲むエルフに、狩りの心得が無い者はいませんよ~、ふふふ」


 と、にっこり微笑んでいた。うーむ、侮れない。流石はエルフ。ヴァネルさんは見るからにやれそうだからね、意外さは無い。


 ちなみにリドリシアさんの得物は魔法発動体も兼ねた細剣レイピアと弓矢で、これまた正統派エルフのお手本みたいな感じね。一方ヴァネルさんは弓矢を持ってるのは同じだけど、近接武器が武骨なナタみたいな剣(?)だった。肉厚で斧代わりにも使えて便利なんだそうな。うーん、ワイルド。良く似合ってます。


 ともあれ、このメンバーで取り敢えず島に降りることに。私たちはいつも通り気球で。クルミがプルプルしているのはもはやお約束です(笑)。ファルスト達は軽トラ(荷台も使って)に乗って降りてもらうことにした。彼らだけで降りる時の練習も兼ねてね。


 次第に大きくなってくる島を見ると植生が濃くて、ほとんどが緑に覆われている。最初の無人島も緑に覆われてたけどそれともちょっとニュアンスが違ってて、あっちが森ならこっちはジャングルって感じ。


 山(火山)もほぼほぼ緑に覆われてしまってるから、たぶんフィディが島を出た時以降は噴火して無いんじゃないかな。山頂(火口)が小さな湖になってるし。


「……ちょっと嫌な予感がするから、先に言っておこうかな?」


「怜那さんの嫌な予感っちゅうんは、ホンマ洒落にならんのやけど……」


「あ、いやー、今回のはそういうんじゃなくて、主に鈴音にとっての話なんだけど」


「え゛? 私限定なの?」


「限定ってわけじゃないけど、鈴音は特に? ほら見て、森って言うよりジャングルって感じでしょ。あくまでイメージだけど、熱帯のジャングルに出て来る生き物って言うと、大きな獣より虫とか蛙とか爬虫類とかじゃない。ってことは……」


「あっ……」「アレかぁ……」「スネイクやな」「キュ、キュウキュウ」


 ホント、あくまでイメージなんだけどね。こう、木々に絡まってる蔦とかがあって、うっかり掴んだら蛇だったとか、振り向いたら舌をチョロチョロ出してるのと目が合ったとかね。探検物の物語ではありがちなシチュエーションでしょ?


 鈴音の顔からサーッと血の気が引いていく。うん、たぶん似たような場面を想像したんだね。まあ、なんなら鈴音は舞依と一緒に軽トラで上空から調査でもいいよ。スマホで撮影して後で地図に起こせば今後の役に立つしね。








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