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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第十四章 様々な種族>
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#14-12 閑話 個性的な自己紹介




 今回の就職(?)面接に合格したのは、僕を含めて五人だった。総数が分からないので少ないのか多いのかは分からないけれど、推薦してくれた父の友人はとても喜んでいたので、落とされた人もそれなりに居たのだろう。


 そして合格を告げられた翌日、早速仕事の現場を見学することとなった。王宮から馬車で現場へ向かう、ということで一室に僕らは集められた。


 揃った一同をぐるっと見回し――うん、これは僕が主導するしかないかな。後から考えてみると、今後長い付き合いとなるこの五人のまとめ役という役割が決まった瞬間だった。


 一声かけて注目を集めてから切り出す。


「同僚になるのだから、取り敢えず自己紹介だけでもしておこうか。先ずは僕から。僕はファルスト、今後は同僚になるんだし家名は別にいいか。貧乏貴族家の七男で一八歳だ。これまでは文官補佐として、王城のあちこちで働いていた。これと言って特技も無いけれど、逆に不得手なことも無い。器用貧乏ってやつかな。これからよろしく」


 フランクな口調を意識して自己紹介を終えると、皆が「こちらこそ」と返してこれた。掴みは良かったかな? それじゃあ、右回りでいこうか。


「私はドウール。ファルスト君に倣って家名は省略するよ。実家は貧乏では無いけれど裕福でもない中級の貴族で、三男で二〇歳。就職が厳しいご時世だから、実家で当主の補佐のようなことをやっていたところ、今回声を掛けてもらって面接を受けたんだ。デスクワークは何時間でも苦にならない。逆に戦闘方面はからっきしなんだ」


 その言葉に僕も含めて「え!?」という声が上がった。というのもドウールは身長が二二〇センチくらいはあり、幅も厚みもある均整の取れたいい体格をしている。正直、一瞬熊型獣人かと思ったほどだ。


 ただ表情や雰囲気がなんというか丸い。いい人オーラが出ているというか、確かに武器をふるって戦っている様子は想像できないかもしれない。


「あはは。こういうと、必ずそういう反応をされるんだよ。兄弟全員がこんな感じだから、恐らくそういう家系なんだと思う。ああ、力そのものはあるから、重い荷物を運んだりとかは得意だよ。そういうときは声を掛けて欲しい。これからよろしく」


 ペコリと頭を下げて人好きのする笑みを浮かべる。うん、とても良い人そうだ。


「次は俺だな。俺はライブス。家は代々文官の家系で、一七歳。ファルストと同じく文官補佐として王城で働いていたが……、面識は無いはずだよな?」


「ああ。王城と一口に言っても広いからね」


「だな。それなりに経験を積んでいるからデスクワークは普通にできるが……、本当は騎士志望なんだ。鍛錬は欠かしていないし、休みの日には騎士団の訓練に参加させてもらっていた。今回の募集では文官メインという事だったが、将来的には武官も必要になるし転属も可だと聞いている。まあ、よろしく頼むぜ」


 なるほど、そう言われてみれば鍛えられた体をしているし、姿勢や歩き方も騎士や軍人のような印象を受ける。魔力量も多い。僕も体が鈍らないように、あとで手合わせして貰おうかな。


「次はアタイだね。カトレア、一九歳。実家で読み書き、計算、一般教養は叩き込まれたけど、正直デスクワークは苦手だね。できなくは無いけど、長時間机に嚙り付いてるってのが、どうにも性に合わなくてね」


 カトレアは豹型の獣人。貴族令嬢としては有り得ない程髪を短く切りそろえていて、とても活発そうな女性だ。シチュエーションに合わせて上品なワンピースとハイヒールを身に付けているけれど、失礼ながら恐ろしく似合わない。当人もそれを分かっているのか、妙に落ち着きが無いというか収まりが悪そうにしている。


「ってことは、俺と同じく武官志望ってことか?」


「そういう事になるのかねぇ……、と言っても騎士みたいな固っ苦しいのも苦手だし。アタイの実家は小さい領地持ちなんだけど、そこの警邏隊に参加してたりしたんだよ。できればそういうのがやりたいね。面接でもそう言っといたから、たぶんそれで採用されたんじゃないかな?」


「門閥貴族のご令嬢が軍の警邏隊に所属していたのかい?」


「アッハッハ。アタイがご令嬢なんていうガラかい? 第一、ウチもどっちかと言えば貧乏貴族で、由緒正しいってこと以外は貴族らしいとこなんてどこにもない家だったからね。そのお陰で好きにできたんだから、良かったんだか悪かったんだか」


 なるほど、その事情はよく分かる。僕の実家でも身内だけの時は、礼儀作法マナーに関して煩く言われることは無かった。街に出かけるのも割と日常的に行ってたし、貴族的なしきたりについてはかなり緩かったと言える。


 他の皆も似たような事情らしく、カトレアの言葉に納得したようだ。


「とはいえ、年頃の娘が何時までもフラフラしてるのも外聞が悪いってんで、今回の募集に無理矢理押し込まれたのさ。実際面接を受けてみると、好きなようにやらせてもらえそうだったから、飛びついたってわけ。……まあ、強者に惹かれたってのもあるけどね。獣人のサガってやつかね」


 サッと目を走らせると、ライブスが反応していた。僕も含めた三人の視線が交錯する。なるほど、あの桁外れの魔力量を感じることができたのか。


 逆に僕ら以外の二人はキョトンとしている。言い換えると、それだけ彼らは魔力を完璧に制御できていたという証左でもある。恐ろしいことに。


「じゃあ、次はあんただね。……ってか、ちっこいね? ちゃんとご飯は食べてるのかい?」


「むっ、食べてる。ちょっと成長が遅いだけ。まだ一三歳だし成長期」


「「「一三歳!?」」」


 それは若い。というか、僕が文官見習いとして働きに出たのが一四歳で、貴族の男子が仕事を始めるにはかなり早い方だった。実際、同時期に所属していた見習の中では最年少だった。


 それよりも一つ下。しかも貴族令嬢――カトレアと違い一目瞭然だ――はそもそも働きに出ること自体多くは無いのに。一体どういう事情なんだろう。


「リスフィス、一三歳。よろしくお願いします」


 リスフィスは小柄で、年齢を考慮してもやっぱり身長が低い。一四〇センチあるか、いや、ないかな? ちなみに可憐な顔立ちで、フワフワ巻き毛のピンクブロンドも艶やかで綺麗だ。ただ表情に乏しいというか、口調がややぶっきらぼうなことも相まって、感情がいまいち読めない。お人形さんみたい――というのは、彼女にとっては褒め言葉ではないだろう。


「しかしなんでまた、あんたみたいな絵に描いたようなお嬢さんがこんなとこに?」


「おいおいカトレア、こんなとこ(・・・・・)はないだろう? 仮にも王女殿下の要請なのだから」


 一応窘めてはみたものの、カトレアはニヤッと笑みを浮かべ、ドウールとライブスも困ったような表情を見せた。リスフィスは――表情が読めない。


「そりゃあそうだがね。どうにもあやふやというか胡散臭い……っと失言失言。ンンッ、まあアタイに声を掛けて下すった方も信用できる人だし、王女殿下主導ってのもあるし、そういう意味では安心しているけどねぇ。なにせ伏せられてる情報が多すぎだろう?」


「それはその通り。まあだからカトレアの言う事も分からないではないよ。移住するという点もあるし、なぜまだ若すぎるリスフィスが? っていうのは僕も気になるかな。ああ、もちろん言い難いことなら全然構わないから」


「いい、大丈夫。私は結婚相手が見つけられない、魔力が少なすぎるから」


 ギョッとするようなことをさらりと言ってのけるな……。改めて集中して魔力を探ってみてみると、確かに彼女の魔力はとても少ない。このくらいの魔力量なら、平民にもザラに居るだろう。


 貴族の結婚相手として求められる令嬢の条件には色々あって、一番大きな要素はやはり家柄だ、そして実家の経済力。これが総合的(・・・)に釣り合っていないと、結婚は先ず成立しない。まあこれは本人の資質では無いけれど。


 本人の資質としては、容姿・教養・礼儀作法・社交性などなど。そして魔力量というのも大きな要素になる。


 確かに彼女の魔力量だと、良い縁談は望めないかもしれない。――あと、言い難いことだけど、身長も含めた彼女の人形のような容姿だと、特殊な性癖(幼女趣味)の持ち主が求めてきそうだ。それはそれで幸せな未来を想像しにくい。


 皆同様の想像をしたのだろう。僕らが何とも言えない表情をしているとリスフィスが徐に頷いた。


「その想像で合ってる。家族も私を持て余し気味だったから、今回の募集に捻じ込まれた。そうでなければ学校に入って学者になるつもりだった」


「学者? そういや合格したってことは、文官としての能力があるってこったね。アタイやライブスみたいに武官じゃあないだろうし。何が得意なんだい?」


「数字。どんな桁の数でも暗算できるし、表を見ただけで間違いがあったらすぐに分かる。あと文字を数字に変換した暗号も見れば大体解ける」


 またもやギョッとするようなことを。思わず同じ反応をしたドウールと顔を見合わせてしまった。それは魔力量なんて霞むほどのとんでもない能力だ。そういった常人とは異なる特殊な能力や感覚を持った人が、ごく稀に居ると聞いたことはあったけれど、まさか彼女がそうだとは。


「ドウール、もしかして彼女の実家が持て余していたのは、魔力量や容姿の事じゃなくて……(ヒソヒソ)」


「ええ、この能力の方でしょう。強い権力を持った大貴族ならまだしも、私たちと同格となると、知られてしまったが最後、利用されるのは間違いないでしょう(ヒソヒソ)」


 つまり人目から隠す意味もあって、移住が前提となる今回の募集に応募したということだろう。それなら年齢が若すぎることにも納得がいく。リスフィスの両親は両親なりに愛情はあるのだろう。――彼女がそれを理解しているのかは、僕らにはまだ分からないけれど。


 ひとまず自己紹介はこれで済んだかな。互いの事も大まかには分かったし、接し方も掴めたような気がする。


 というかよくもまあ、こうも癖の強い――もとい、個性的なメンバーばかり集められたものだ。雇い主にはいつかこれが意図的だったのか訊ねてみたいね。








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