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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第十四章 様々な種族>
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#14-10 ベンキョーしますよ!(もちろんウラはあります)




「あははは」「きゃははっ!」


 うん? なんだかずいぶんはしゃいでるね。双子ちゃんかな?


 声が聞こえて来た方を見ると、ヘンリー君操縦、ロッティちゃん助手席のパチモンラ〇ボが、地上付近でぎゅいんぎゅいん回転している。アレだね、遊園地のコーヒーカップみたい(笑)。ホント、楽しそうで何より。――ってか、本当に器用だね!?


 おや? 双子ちゃんのお母さんがこっちに来る。


「レイナさん、マイさん、リノンさん。今日は本当にありがとう。ヘンリーもとても楽しんでいます。もちろん私たちも」


「いえいえ、楽しんで頂けて何よりです。それにしてもヘンリー殿下は器用ですね。あんな動かし方をするなんて……」


「……少し、羽目を外し過ぎのようですね。後で注意しなければなりませんね……。ところで、ものは相談なのですけれど……、あの超小型飛行船を王家に融通して貰うとしたらいかほどになるのかしら?」


「「「…………」」」


 おっとタイムリーな話題。思わず三人で顔を見合わせる。


 変に隠しても仕方ないですね。実は――ゴニョゴニョゴニョ。


「っ!! ほ、本当に、ですか?(ヒソヒソ)」


 いや、それが本当なんですよ。何ならミクワィア商会の会頭さんに確認してみてください。ちなみに今のは原価で技術料とかは全く考慮して無い。浮岩の特殊な加工とか神代言語の術式とか色んな技術が組み込まれてるから、完成品がいくらになるのかは、ちょっと想像できない。


 ただまあ……、うん、そうだね。ちょっとクランメンバーは全員集合~!


「なんだい、怜那さん?」


「なんや? アクロバット飛行のデモならお安い御用やで?」


 姿勢制御術式があったらアクロバット飛行なんて無理なんじゃ? と思った人。鋭い! 確かに普通の状態では無理です。


 ただラ〇ボにだけは、久利栖たっての希望でその機能をリリースする専用のキーがあるんだよね。だからアクロバット飛行もやろうと思えばできる。なんでそんな機能を付けたかって? ス〇ーダーなんだからそんくらいできて当然、なんて言われちゃあね。――思わず納得しちゃったし。


 それはさておき。


「それも面白そうだけど、双子ちゃんが真似しちゃうとアレだから止めとこうか。ちょっと内緒話をしたくてね」


 遮音結界を張ってと。


 かくかくしかじか、これこれこういう訳なのさ。人材調達の件とかもあるし、今後の事(・・・・)も考えて、オトモダチ価格というかベンキョーしてもいいんじゃないかな、と私は思うんだけど? もちろんタダってわけにはいかないけどさ。


「素材の量には問題無いのかい?」


「それは大丈夫。フィディの塒に山積みになってたのを丸ごと貰ったからね。飛行船を作る分を取っておいても余裕があるよ」


「そうか……。今後の為ということはつまり、ここで一つ貸しを作っておこうってことか、なるほどね」


 そそ。まあ貸しというか友好的アピールというか、まあそんな感じ?


「今後っていうのは具体的には国を建てる時ってことよね? 確かに後ろ盾は有るに越したことは無いわね」


「せやけど空飛ぶクルマを一台割引したくらいで、そんな大きな貸しになるもんやろか?」


「大小の問題じゃないわ。貸しを積み重ねることに意味があるのよ」


「うん。それにこれは結構大きな貸しになるんじゃないかな。割引の額がどうこうではなくて、空飛ぶクルマを所有するっていう事自体がね」


「……まあ他には無い、最新技術だものね」


「王家の権威づけにもなる、ということですか?」


「そういう側面ももちろんある。ただそれよりも、空飛ぶクルマが一台あるだけで現行の飛行船がとても運用し易くなるんだ」


 さっすが、秀は目の付け所が違うね。特別に五〇〇ポイント進呈しよう。


「……あっ」「……ああ」「艦載機やな!」


 そういうこと。ってか久利栖、艦載機はちょっと物騒じゃない? ともかく、空飛ぶクルマがあればどこででも簡単に飛行船の乗り降りができるようになるってことね。


 まあ現行の飛行船も着陸させることは一応できるんだけど、巨大な浮岩全体に魔力の流入を制限(遮断)する結界を張る必要がある。しかも浮岩自体に蓄積されている分もあるからすぐには降りられない上、一気に落下しないように上手にコントロールする必要もある。つまり、かな~り面倒。


 空飛ぶクルマさえあれば、発着場が無くて広い着陸スペースが無いような場所にも降りられるからね。他にも飛行船を先行させておいて、後から追いついて合流するっていうような使い方もできる。つまり飛行船の使い勝手が格段に上がるってことね。


「それに普段は地上スレスレを飛ばせば、馬車代わりにも使えるしね。折角高い買い物をしても、使い道が少ないなんてことにはならない」


「地上スレスレなら燃費も良いから、航続距離も問題無い。飛んでるから乗り心地も良いし、頑丈さだって折り紙付き。……確かにいいことずくめね」


「せや、どうせなら賊に襲われた時用に迎撃装備も付けたらどうや? いっそ戦車みたいに回転砲塔を付けるとか……」


「ちょっと久利栖……、物騒なことをいうのは止めなさい」


「そうですね。少し不謹慎です」


「魔法のある世界での戦車っていう兵器を考えてみるのは面白そうだけど……、友好アピールの為のモノとしては、ちょっと不適切かな」


「作るとしても浮島で関わる人を制限して実験的に、だね。今回は平和的なものでいこう」


「えろうすんまへん。……ってか、俺も本気で言ったわけや無いんやけど」


「ジョークにしても不謹慎ってことよ! まったく」


 ぷりぷりと怒る鈴音に対し、秀はちょっとバツが悪そうだね。もしかして、空飛ぶクルマの次はそういう軍用車両とか特殊車両の類も作ってみたかったとか?


 ギクッと肩が跳ねる男子二人。おっと、図星だったらしいね。


「アハハ……。まあ戦車もある種の浪漫があるから作ってみたくはあるんだけどね」


「某ロボットアニメに出て来るような、砲塔部分が分離して戦闘機になるんとかもええな~」


「ああ! 現実的にはあんまり意味は無さそうなだけにね。僕はどっちかというとリアル路線の方が好みだけど……」


「うーん、分離して飛行するくらいならたぶん実現可能……だけど、再度合体する時が難しいかも? 変形機構となると、複雑すぎてたぶん無理だけど」


「おおー!」「これはやるしか!」


「ハイハイ、二人とも妄想は後にしなさい。 怜那も二人の悪ノリにあんまり付き合わないように」


「「ごめんなさい」」「は~い」


「まったく、毎度毎度返事は良いんだから……。それで、空飛ぶクルマを安く融通するのは決定ってことでいいのね?」


「ああ、この際だから売れる恩は売っておこう。先方からの要望でもあるし、押し売りでは無いからね」


 そんな感じで方針は決まった。遮音結界を解いて双子ちゃんのお母様と具体的に話を詰めていく。


 価格については会頭さんとも相談しつつ秀と鈴音が決定。デザインについては秀と久利栖がいくつか模型を作って提案し、そこから要望を聞いて調整する。で、最終的に私が製作して納品という流れになった。


 空飛ぶクルマを王家で購入することが決まったと聞いて、ヘンリー君が大喜び。あと先王陛下もニッコニコだった。世界が変わっても男子はこういう乗り物が大好きみたいだね。


 ルナリア殿下がちょっと残念そうなのは、近い内に王家から出ることが決まってるからだろう。利用する機会は少ないかもね。レティはまあ……ね? 久利栖と二人で好きなだけ乗って(ドライブして)下さい。


 早速、王族の方々が秀と久利栖にデザインの相談を始めている。ちなみに今日持ち込んだ三台では、秀のクルマが圧倒的に一番人気。やっぱりシックで高級感があるからね。どことなく王族や上位貴族の使う高級な馬車とデザイン的に通ずるものがあるし。


 久利栖のはこっちの世界では異質過ぎるデザインだから、好きな人はすごく気に入ったみたい。一方、軽トラは実用だから好きとか嫌いじゃなくて、人員・物資どちらの輸送にも便利そうだと、特に騎士の方々から評価が高かったね。


 それにしても――


「怜那、どうかした? なにか難しい表情かおしてるけど」


「舞依……。なんていうか、私としてはただ楽しく遊ぶ試乗会っていうのを想定してたんだけど、なんか結局プレゼンというかセールスに来たみたいになっちゃったなーって思って」


「ふふっ、そうね。……でも、ほら見て? 楽しそうにデザインの相談をしてるでしょう? 空飛ぶクルマに関連してしばらくはこういう機会も増えるでしょうし、ヘンリー殿下に息抜きして貰うっていう当初の目的は、十分以上に果たせたと思うよ?」


「ま、結果オーライってことかな」


「恩も売れたし?(ヒソヒソ)」


「もちろん、それもある!(ヒソヒソ)」


 王族の方々からは離れた場所で二人、顔を寄せ合ってこっそりと笑うのであった。








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