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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第十四章 様々な種族>
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#14-08 試乗会(ミクワィア商会編)




 私の知る限る二人とも殊更クルマ好きでは無いはずだけど、今回の空飛ぶクルマ開発はかなりの気合の入りようだった。車体ガワを作る際に、土魔法で原寸大モデル(モックアップ)を作って、それを元にして錬金釜でボディのパーツを作ったんだけど、拘り過ぎる余り二人とも土魔法がかなり上達していた。


 なお私の軽トラは原寸大モデル無しで、なんとな~くのイメージでパパっと作ってしまった。というか私は心臓部の術式にかかりきりだったからね~。デザインの方は二の次だったのです。


 ちなみに軽トラと秀のロー〇スにはタイヤが一応ついている。とは言ってもタイヤで走らせることは考えて無いから、ゴムのタイヤじゃないしサスペンションも付いて無い。手押しでちょっと移動させるような機会があるかもしれないし、何よりタイヤが無いとデザイン的に締まらない感じだったからね。


 一方、久利栖のラ〇ボはスピーダーアレンジってことでタイヤは無い。こっちはタイヤが無くても普通にカッコイイ。未来感があってむしろ良くなってる――は、言い過ぎかな?


 飛行船としての心臓部は三台とも共通。つまり性能スペック的には三台ともほぼ横並び。車体の質量や空気抵抗の関係で操作性に若干の違いがあるくらいだね。同様に原材料の価値的な意味での市場価格も大差がない。軽トラとスーパーカーの価値がほぼ変わらないっていうのは、ちょっと笑えるよね。


「秀くんと久利栖くんのクルマは、向こうで買うとすればいくらくらいなの?」


「作ってる時にチラッと二人が話してるのを聞いたけど、久利栖のは日本円で二千万とか三千万とからしいよ?」


「「ええーっ!?」」


 ホント、驚くよねー。言っちゃなんだけどバカハイスペックのスーパーカーなんて、どう考えても持て余すと思うんだけど。特に狭い日本じゃあどこを走らせればいいんだか。


 あ、秀の方はクラシックカーで新車はないから、お値段は時価となっております。つまり場合によっては天井知らずに上がる可能性アリ。


「ま、何はともあれ、ちょっと乗って見せるよ。舞依、私が助手席についてるから、運転席に乗って」


「軽トラの?」


「そ、軽トラの」


 顔を見合わせてお互いにクスクス笑う。え? ドライブデートをする時はもっとかわいいクルマが良い? かわいいクルマか。久利栖のパチモンラ〇ボじゃあ派手過ぎだね。二人で何か考えよっか。


 というわけで軽トラに二人で乗り込みましてと。


「中は凄くシンプルなのね」


「うん。メーター類とかが無いからね。一応ミラーはあった方が良いかなと思って付けてあるけど。右手の方にメインスイッチがあるから、オンにしてみて?」


「えーっと、このスイッチね」


「オッケー。それでアイドリング状態になるから、あとの操作方法はエアバイクと同じね。エアバイクよりも傾かない安全設計にしてるから、好きなように動かしてみて」


「わかった、やってみる。こっちの左のはシフトレバー? だっけ?」


「あ、それは後で説明するから、とりあえず今は触らないで」


「? うん、わかった。じゃあ、行きまーす」


 ハンドルを握った舞依が魔力を通すと、軽トラがスルスルと動き出す。


 少しの間地上を走らせて感覚を掴むと少し浮上させて、こっちを見上げてる皆の周りをぐるっと旋回させてから元居た場所に着陸した。うんうん、上手い上手い。最初はおっかなびっくりだったけど、エアバイクと要領が同じだと実感してからはスムーズだったね。合格点をあげましょう。


「エアバイクとほぼ同じ感じだったでしょ?」


「うん、お陰で操作し易かった。というか、消費魔力も少なくてびっくりした。もしかしてエアバイクよりも少ないくらい?」


「周囲の魔力を集める浮岩の特性と、ドラゴンの鱗をふんだんに(・・・・・)使ったお陰だね。鱗に蓄積されてる魔力もあるから、基本的には移動のイメージを伝えるだけでいい感じかな」


「……ふんだんに?」


 そそ。具体的にはボディ全体と底面全部を、錬金釜で合成したドラゴン(フィディ)の鱗のパーツで覆っているんだ。だから全然そういう目的では無いんだけど、魔法だろうが物理だろうがちょっとやそっとの攻撃では傷一つ付かない。超頑丈。――塗装は剥げるかもだけど。


 まあまあ、そんなにビミョ~な表情しないでよ、舞依。フィディ本人が提供してくれたもので、鱗の在庫はどっさりあるんだから。出し惜しみする必要は無いでしょ? ちなみに錬金釜で合成する前提だから、傷がついてるのとか、欠けてるのとかを優先して使ったよ。綺麗な一級品はちゃんととっておいてあります。


「もう、妙なところには気を使うのよね、怜那は……」


 あっはっは。だって鱗そのものを売りに出すこともあるかもしれないからね~。


「さて、じゃあ今度は左側のレバーを使ってみて。それで上昇と下降ができるから。手前に引くと上昇、奥に倒すと下降ね。あ、魔力を流す必要は無いから。試してみて」


「はーい。じゃあゆっくり慎重に……」


 舞依の操作に合わせて軽トラが真上にゆっくりと上昇していく。さっきは操縦してる舞依のイメージで上昇下降してたけど、今は浮岩の力で浮かび上がってる。だから魔力は必要無いってわけ。


 ではここでちょっと超小型飛行船(空飛ぶクルマ)の仕組みをざっくりと説明しましょう。


 まずメインパワーをオンにすると、浮岩への魔力供給が始まって――正確には魔力の遮断を解除する――アイドリング状態になる。この状態では積載物を含めた車体の重量と浮き上がる力が釣り合う(相殺する)ようになっている。余剰分の魔力はドラゴンの鱗にバイパスされて、それでも余った分は空気中に放出される。


 この状態で水平移動だけすれば、見た目は本当にただのクルマだね。実際は地面に辛うじて触れてるだけで、ほぼほぼ浮き上がってるんだけど。


 アイドリング状態だと操作はエアバイクと変わらない。全方向への移動や旋回なんかの操作を、ハンドルからイメージを込めた魔力を流すことで行える。加減速なんかもイメージだからペダルの類は無い。なお、ハンドルは回せるけど前輪と連動はしていません(笑)。


 で、昇降レバーの操作に連動して浮岩への魔力供給量が増減して、高度の調整ができるようになっている。ニュートラルで現在の高度を維持ね。ちなみに限界高度は浮島とほぼほぼ同じ。


 余談だけど、久利栖は昇降レバーをハンドルの左右に付けたかったみたい。パドルシフト? がどーのこーの言ってたけど、別仕様にするのは手間が余計にかかるから却下しました。


 ここまでの説明で分かったと思うけど、上昇すればするほど移動に操縦者の魔力が必要になる。浮く方に魔力が使われちゃうからね。まあ鱗をふんだんに(・・・・・)使ってるから、チャージされてる魔力が暫くは持つけど。試乗会を浮島でやらなかったのはこれが理由。


 だからもの凄いスピードを出そうと思ったら、なるべく地上付近の方が効率がいい。逆に限界高度付近での使用は魔力消費が激しいから気を付けましょう。


 ちなみに接地してない状態でメインパワーを切っても、浮岩への魔力供給が完全にオフにはならずゆっくり落下するようになっている。この辺はライフジャケットの機能と同じね。


 以上、ざっくり解説でした。


 一通りのデモ飛行を終えて、元居た場所に軽トラが着陸する。舞依がホッと一息。ちょっと緊張してたのかな? 


「とまあ、こんな感じ。後は皆、順番に試乗してみて」


 みんな待ちきれなかったようで、いそいそと乗り込んでいく。順番は決めてあったらしく、鈴音と秀がロー〇スへ、久利栖と会頭さんがラ〇ボへとそれぞれ乗り込む。軽トラにはシャーリーさんと私が乗ることになった。


 エミリーちゃんも乗りたそうにしてたけど、メイドとしては先に自分で安全性を確かめておきたいのだとか。――ビミョ~に建前っぽい気もする。


「あ、動かす前にシャーリーさん。取り敢えず、スピードの出し過ぎは厳禁です」


「…………はい、承知しました」


 うん、ちょっと間があったね。指摘しておいて良かった。シャーリーさんが意外とスピード狂だったことを思い出してよかったよ。








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