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プロローグ~ぐーたら兄としっかり妹~

突然、投稿の新連載。

今回は、異世界ものですが。現地主人公というやつです。普段は情けないようなやつが、大事なところではかっこよくなる、みたいな。

赤ちゃん家庭教師が出てくる某ジャンプ漫画的なあれです。

「妹~。腹減ったぁ」

「はーい。ちょっと待っててね、兄さん」

「妹~。靴下がないんだけど~」

「はい、今日はちょっと寒いから厚めの靴下を用意したよ」


 冒険者とは、ギルドに登録した者達の総称である。

 彼らは、日々世のため人のために、クエストをこなしながら生活を送っている。時には、魔物を倒し、時には素材を採取したり、時には家の修復、畑仕事などをしたり。


 冒険者達が集まる大都市のひとつそれが【オーファン】だ。

 ここの冒険者達にはちょっと特殊なものが与えられる。 

 それはハウスと呼ばれるパーティーを組んだ冒険者達に与えられる専用の家。だが、これはパーティーを組んだだけじゃ与えられない。

 それなり成績と、冒険者ランクを上げなくてはならない。


 最低ラインはBランク。

 一人でもBランクの冒険者がパーティーにいる状態でそれなりの成績を収めるとギルド側からハウスを与えられる。

 ハウスがあるのは、特殊な空間で、そこへはギルドから至急される魔法の鍵でしかいけない。しかも、その鍵は一度使えば、そのパーティー専用となり他のものは使うことができないのだ。


「兄さん。朝食ができたよ」

「おー、今日はなんだかボリューム満点な感じだなぁ」

「うん。だって今日は、中型の魔物を討伐するんだよ? ちゃんと食べて、栄養をつけないと」

「そうだったな。それじゃ、いっぱい食べないとだな。うん、いただきます」

「いただきます」


 ハウスは、ひとつの空間に多く建てられており、そこでは冒険者達がそれぞれの暮らしをしている。ベッドルームにキッチン、風呂場にトイレ、広いリビングと。

 パーティーで暮らすために、最高の設備が揃っている。

 そんなハウスに、奇妙なパーティーが暮らしていた。

 実の兄妹だけのパーティー。

 周りからの評価はこうだ。

 兄のアルヴィオ・マーカス。赤く若干癖のある髪の毛、眠そうな翡翠色の瞳。容姿は悪くはないのだが、ぐーたらで初心者からも馬鹿にされるほど弱く、見ているこっちがやる気がなくなりそうだと言われている。

 対して、妹のエルシー・マーカス。兄と同じ赤い髪の毛は、腰まで伸びており、毛先が若干オレンジ色である。小柄であるが、胸はそれなりに育っており、年相応な感じだが、若干背伸びをしているところがある。

 容姿も実力も性格も完璧。冒険者になって、まだ数ヶ月なのに一気にBランクへと駆け上がりハウスをギルドから与えられた希望の星。


 このように、兄がだめだめで妹が完璧という正反対の兄妹なのだ。

 エルシーは、多くの冒険者達からパーティーに入らないか? と誘われているのだが、全部断りだめだめな兄アルヴィオと組んでいる。

 どうして、あんなだめな奴と組んでいるのかわからない。聞いても、兄だからとしか答えない。その兄は実力的にはDランクなのだが、エルシーとパーティーを組んでいることでBランクまで駆け上がっている。パーティーを組むことで、一緒にランク上げができるため初心者達は実力者達のパーティーに入ることが普通なのだが……アルヴィオはBランクには相応しくないとの声が多い。


「兄さん。準備はできた?」


 長剣と短剣を腰に下げ、エルシーは問いかける。


「おう。大丈夫だ。持っていくものはちゃんと全部あるし、寝癖だって……ありゃ」


 全然大丈夫ではなかった。後頭部のほうに、ぴょんっと寝癖がついているのに気づく。それを見たエルシーは小さく笑い手招きする。

 

「もう。しょうがないな、兄さんは。しゃがんで。私が直すから」


 いつもいつも、妹に頼り、妹が居なければ生きていけないんじゃないか? と。妹のエルシーもエルシーでアルヴィオにべったりであり、一度兄の世話は大変じゃないのか? と言われたのだが。

 全然そんなこと一度も思ったことがない、と言い切ったのだ。

 中には、これが本物の兄妹愛なのか……と言う者もいるが、嫉妬している者達も少なくはない。


「おはようございます、ワットさん」


 ワット。それはギルドの受付を勤める一人で、長い金髪を後ろで一本にまとめており、メガネがよく似合う男。

 二人がこのギルドに登録する時からの付き合いで、よく一緒に店で食事などもしている仲だ。


「おはようございます、エルシー。それにアルヴィオ。いやぁ、今日も気だるそうですね」

「いやぁ、やっぱり朝は苦手で。ワットさんは今日もメガネとても似合ってますね」


 ハウスから出てすぐ受付へと向かう二人。ハウスがある空間はギルドから行くことができる。なので、注目を浴びている二人がギルド内に姿を現すと。


「今日も馬鹿面を表しやがったぞ!」

「今日も、妹ちゃんにお任せか!! えっ? ぐーたらのアルヴィオさんよ!!」

「たく! エルシーちゃんのおかげでBランクになれたことわかってんだろうな!!」


 柄の悪い者達からこのような罵声が飛んでくる。それを聞いて、エルシーむっとするが手出しはしない。あんな者達に関わるぐらいなら、少しでも世界のためにクエストをこなしたほうがマシだと。

 

「いつものことながら、すごい言いわれようですね」

「いやぁ、もう慣れちゃっていますし。本当のことですから。それよりも、クエスト受諾をお願いしますワットさん」

「はい。では、端末を」


 クエストの受諾には、冒険者専用の端末があり、それをギルドの機械でスキャンすることで受諾することになっている。

 クエストは、クエストボードや端末からいつでも選択することができる使用だ。昔は、もっと原始的なものだったが、現在は科学の進歩により便利な世の中になっている。


「Bランククエスト。《グランゴーレムの討伐》を受諾しました。頑張ってくださいね」

「はい」

「それじゃ、いってきまーす」


 受諾し、端末を仕舞って二人はギルドを後にする。そして、ギルドから出た瞬間アルヴィオはエルシーの頭を優しく撫でる。


「よく堪えたな」

「当たり前だよ……あそこで暴れていたら、ギルド側にも、兄さんにも迷惑をかけていたから」

「それじゃ、行くか。魔物討伐に」

「うん」


 



・・・★・・・





「ねみぃ……」

「あ、兄さん。そのままじゃ頭が痛いよね。はい、膝枕」

「おー、さんきゅーマイシスター」


 とある日のこと。

 ハウスにある食材もなくなりそうになっていたので、二人仲良く買い物に出かけ一通り買い終わったところで、休憩をすることにした。

 もう行き慣れた公園のベンチで、心地のいい日差しを浴びながらアルヴィオはエルシーの膝枕で浅い眠りにつく。

 

「相変わらずべったりね。あんた達」

「あ、ルチルさん。三日ぶり、でしたね。遠征クエストは終わったんですか?」


 アルヴィオの髪の毛をエルシーが撫でていると、第三者の声がする。

 そこに居たのは、この街でも数少ない高ランクの冒険者。

 ルチル・エフェアルタ。

 五人居るAランクの内の一人で。青い鎧を全身に纏い、大降りの魔槍を振るう少女。その槍捌きは、Aランク冒険者にも匹敵し、魔槍から放たれる青き雷は鉄をも貫くと言われている。

 そのことから、ルチルは【蒼雷の魔槍使い】の二つ名を貰っている。

 黄金に輝き長い髪の毛をツインテールに束ね、彼女の意思の強さが見える赤い瞳はだらしなく妹の膝で眠っているアルヴィオを見つめていた。


「ええ。さっき帰ってきたところよ。そうしたら、ラブラブな空気が公園から漏れ出していたから見に来てやったのよ」

「……カップルはいないようですが」


 周りを見渡し、首を傾げるエルシーにルチルはため息を漏らす。


「あんた達のことよ、まったく。相変わらず、これは兄妹として当たり前のことーとか言うのかしら?」

「はい、そうですよ。兄さんが、心地よく眠れるようにしているだけですから」

「……まあ、あんた達が良いならあたしは別にいいんだけど。あ、そうだ」


 立ち去ろうとしたところで、ルチルは何かを思い出したようで、立ち止まった。


「明日の集まり、あんたも来るんでしょ?」

「もちろんです。行かないと、ハウスがなくなっちゃうかもしれませんから」

「あんなの真面目な冒険者達が広めた噂話よ。行かないだけで、さすがにハウス没収はないわよ。とはいえ、ギルドからは何か言われるだろうけどね」


 明日は、ギルドに認められた冒険者達の集まりがある。ギルドから認められた冒険者とは、なにもハウスを与えられた冒険者ではなく、各々の実力を認められギルドの名簿に名を刻まれた者達のことだ。

 そして、その集まりは最近どんなことがあったか。どんな魔物と出会った。今後どう活動していくかなどを話し合う。

 これは世界の平和のために重要な集まりなために、必ず出席するようにと。


「なるほど。ですが、本当かもしれませんから。兄さんとの生活ペースを守るために私は行きます」

「はいはい。それじゃあね。また明日」

「また明日」


 ルチルが去った後、しばらくしてアルヴィオは目をゆっくり開く。


「明日は、エルシーいないのかぁ」

「ごめんね、兄さん。でも、お昼だけだから。終わったらすぐ昼食を作るね」

「あんまり急がなくてもいいぞ。たまには俺のことを忘れて、高ランクの冒険者達との話し合いを楽しんでこいよ」

「で、でも」

「お前は、期待の新人なんだ。俺ばっかりと一緒にいないで、他の冒険者達と仲良くしたほうが今後のために俺はいいと思うんだよ」


 よっと勢いよく起き上がり、アルヴィオはしばらく空を見上げてからエルシーに笑いかける。


「そう、だね。うん、わかった。でも、兄さん一人じゃ偏った料理を食べそうだから昼食はちゃんと作っておくから」

「おう。頼む」

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