第一話~お前がしっかりしているから~
「よく集まった我がギルドの精鋭達よ。さっそくだが、今日の会議を始めようと思う」
ここは、ギルド内にあるとある会議室。
主にギルドの運営者達が使うところであるが、この集まりの時は特別に使うことを許されている。今回の会議に集まったのはBランクが十二人。Aランクが一人。Sランク冒険者が一人。
最高ランクのSランクは、二人。
その内の一人は、今はとある緊急クエストでギルドにはいないのだ。その他にも、ギルドから実力を認められた冒険者が複数人。
その中には、もちろんエルシーとルチルもいる。
「今日の議題だが、君達も知っている『魔物化』についてだ」
壇上で進行役を勤めているSランクの冒険者。
サングラスをいつもかけており、鎧は一切着用しておらず、まるでバーテンダーのような格好をしている異質な男。
名をダインスと言う。
これが本名なのか、それとも偽名なのか。それがわかるのがギルド本部の者達だけ。謎が多い冒険者だが、実力は本物であり、カリスマ性もある。
そして、ダインスが議題にした魔物化だが、これは今から五年前から起こっている現象だ。突然、人間や普通の動物達などが魔物に変化してしまう。
数年に渡り、研究した結果。ひとつの答えが出た。
「研究者達の見解は、魔物化は自発的に起こっていると出ている。だが、未だにその実行犯が見つかっていない状態だ。いや、もしかしたら実行犯を見つけた者達がいるが、その者達が魔物化してしまい報告ができなかった……のかもしれない」
ダインスの言葉に、集まった冒険者達は口をしばらく閉ざし、耳を傾けていた。
現在も世界中で、魔物化については研究、調査を行われている。
それなのに、五年経った今でも、完全な解明には至っていない状態だ。魔物は、世界創世の時代が存在していると言われている存在。
倒せば、素材や金を落とす奇妙な存在であるが。冒険者達にとっては、生活していくうえで必要な存在だ。
素材を使って武器や防具を作ったり、換金して生活費にしたり。倒せば、経験値と呼ばれるエネルギーを体に吸収され、成長を遂げる。
成長すれば、身体能力も魔力も上がり、新たなスキルも習得することができるのだ。
中には、魔物とは神々が地上で暮らす人々に与えし試練のための存在だと言う者達もいる。魔物は普通に人々を襲うし、作物だって荒らし、自然災害を起こす存在も確認されている。
確かに、このことから試練を与えし存在、というのは間違ってはいないのだろう。
「とはいえ、我々は諦めたわけではない。今も尚、謎の解明に向けて研究は続いている。我々も、人々の平和の暮らしのため助力を続けるんだ」
「おう! そうだな!!」
「やってやるぜ!!」
「俺達冒険者は、魔物なんかに負けやしねぇ!!」
魔物なんかに。
その言葉に、エルシーは眉を顰める。それは、エルシーの過去に関係することだ。魔物は、弱いものならば駆け出しの冒険者一人で簡単に倒せる。
だけど、本当に強い魔物は……。
「いい気合だ、お前達。さて、気合も入ったところで。今後の活動についてだが」
刹那。
大音量で響き渡る警報音。冒険者達は、その警報音に反応して一斉に立ち上がった。それもそのはずだ。
警報は、滅多な事じゃならないようになっている。
鳴るとしたら……。
「大事な会議の時に、魔物の軍勢か。しかも、この警報のレベル二か」
警報にも、レベルがある。
レベル一は、低レベルの魔物。レベル二は、中型の魔物がいるともの。最大レベル三は、これまで一度も鳴ったことがないので冒険者達の中で、知っている者はほとんどいない。
「おい、今ってほとんどの冒険者達が出ているんじゃなかったか?」
「まさか、それを狙って? ありえるのか?」
そう、この会議に参加してないAランクの冒険者のほとんどはもっとレベルを上げるために初心者達に付き添って近くのダンジョンに潜っている最中だ。
戻ってくるのは、一時間後。
「けど、問題ないわ。中型が混ざっていても、あたし一人でなんとかしてみせる」
騒ぐ冒険者達の視線を集めたのは、会議に参加した唯一のAランク冒険者ルチルだった。それに続き、エルシーも立ち上がる。
「そうですよ。ここに集まっているの、何度も中型の魔物を倒してきた冒険者達。レベル二の警報程度で慌てるようなことじゃありません」
「その通りよ! あたしは、北門のほうに行くわ! あんたは、南のほうに行きなさい! 他の者達は、東と西に向かいなさい!!」
・・・★・・・
「がっはっはっはっは!! 我が侵攻は止まらぬ! このままどんどん人間どもの住処を落としていくぞぉ!!」
「知性を持った魔物、てことは。お前、あいつの仲間か?」
「なんだ? 貴様」
警報音が鳴り響く中、魔物の軍勢はオーファンを目指し進行していた。
だが、そこに立ちはだかったのは……アルヴィオだった。
「聞いているんだ。お前は、あいつの。鮮血の魔物の仲間なのかって」
「鮮血の魔物? 知らねぇな。そんな奴。俺は、選ばれし存在! 他の魔物とは違い知性を持ち、こうして指揮をとることを許されている存在!! 俺は、このまま勢力を拡大し、人間ども根絶やしにしてやるつもりだ!!」
喋る魔物の言葉を聞いて、アルヴィオははあっとため息を漏らす。
「お前も違うのか。まあ、そう簡単に見つかったらここまで苦労しないよなぁ。あーあ、いつになったら会えるんだろうなぁ」
「なんだ? てめぇ、いったい何しにきたんだ? 俺達の邪魔をするっていうなら容赦は」
「あー、目的か。ひとつめはなくなったから二つ目を達しようかな」
魔物の言葉を遮るように、アルヴィオは喋り、ポケットから指輪を取り出した。
「なんだ、それをプレゼントしてくれるのか? 残念だったな。俺は物じゃ釣れねぇぜ!! くれるなら、お前の命を」
「さあ、付き合ってもらおうか。三分……いや、一分だけな」
またもや魔物の言葉を遮り、アルヴィオは指輪を右手の人差し指にはめる。
刹那。
いったいどこに隠していたんだ? と思うほど膨大な魔力がアルヴィオから溢れ出す。その圧に、喋る魔物はもちろんのこと、他の魔物達も恐怖した。
魔力は、生きているかのようにアルヴィオの腕に取り付き、形を変えていく。
「そ、それはまさか!?」
「魔装機ディスランス」
右腕には漆黒色の機械な篭手が装着され、これまた漆黒色の機械な槍が手に納められていた。明らかに、アルヴィオの雰囲気が変わった。
はっと我に返った魔物は、攻撃の指示を出そうとするが、もう遅かった。
「―――へっ?」
気づいた時には、世界が逆さまになっており、落ちていく中、にやっと笑うアルヴィオの姿が映る。そう、一瞬のうちに首を切られたのだ。
そこからは、一方的な展開だ。
逃げる魔物達も、立ち向かう魔物達もアルヴィオの猛攻に破れ、皆経験値としてアルヴィオに吸収されていく。
「……次、行くか」
周りに魔物がいなくなっても、アルヴィオは止まらなかった。
まるで、時間が続く限り動き続ける人形のようにゆらりと揺れ、姿を消す。
それから、二分後。
「兄さん。ここに居たんだね」
アルヴィオは、近くの木に背を預けぐったりとしていた。それをいち早く見つけたのは、妹のエルシーだった。
「よう、我が妹。すまんが、俺は動けない。ハウスまで背負っていってくれないか?」
「うん、任せて兄さん」
とても情けなく、恥ずかしい光景だ。
女の子に。それも妹に背負ってもらっている男。だが、この兄妹は全然気にしていない。それに、アルヴィオは本当に動けないのだ。
アルヴィオを軽々と背負って街まで戻った途端、冒険者達はもちろんのこと街の人達もどっと笑い出す。
「おいおい! 妹に背負われているのか!」
「うおっ! はっずかしいぃ!!」
「なんだ? もしかして、さっきの警報で腰でも抜かしたのか? アルヴィオ」
散々な言われようだが、アルヴィオはまったく気にしていない様子でいやぁ、その通りなんだよぉっと笑顔で答える。
そんな笑い声の中、一人だけ真剣な表情で近づいてくる者が。
「ねえ、あんた街の外から来たけど。本当は、何をしていたの?」
ルチルだった。
ほとんどの人は、アルヴィオの言葉を信じているがルチルは違った。
「警報の後、あたしはすぐ魔物達の討伐に向かったわ。でも、あたしが辿り着いた時には、もう魔物の姿なんてなかった。あたしには警報が嘘をついたとは思えないの」
「いや、俺は少しでもエルシーの役に立ちたくて一人で魔物と戦っていたんだよ。だけど、突然魔物の大群が出てきて、怖くなってずっと物陰に隠れていたんだ」
「……本当、なんでしょうね?」
疑いの目を向けるルチルに対し、アルヴィオはああ本当だ、と頷く。
「そう。まあ、そういうことならいいわ。なんだかすごく疲れているみたいだし。さっさとハウスに帰って寝てなさい。臆病者さん」
去っていくルチルを見送った後、アルヴィオ達もその場から去っていく。街中でも、ギルドに入っても、アルヴィオはずっと笑われていた。
そして、ハウスがある空間に辿り着き沈黙を保っていたエルシーがようやく喋りだす。
「兄さん……」
「どうした?」
「やっぱり、兄さんの本当の強さを皆に教えたほうが」
「いいんだよ、それは」
「で、でも! このままじゃ、ずっと兄さんは!?」
エルシーは知っている。アルヴィオがどれほどすごいのか。どれほど強いのか。どれほど……優しいのかも。
そして、どうしてこうなってしまったのかも。
声を荒げるエルシーに対し、アルヴィオはそっと頭を撫でてやった。
「だから、誓ってくれたじゃないか。こうなった俺の代わりに、お前が強くなって見せるって。だから、俺はこうやってのんびりと気楽に過ごせているんだ。お前が、あの時誓ってくれたから……。それに、冒険者にとって重要なのは、どれぐらい長く戦えて、どれだけ世界に貢献できるからだ。それはわかっているだろ?」
「うん……」
「俺は、大丈夫だ。それに、今の俺にしかできないことを俺はやっていく。今日みたいにな。それに、このほうが自由に動ける。俺の目的のためには必要なんだ」
全てを知ってりうエルシーはアルヴィオの一言一言が、身に染みていく。もう何度も聞かされたことだ。それでも、エルシーは兄があんな言われようをされるのが我慢できない。
「てなわけで……今日は疲れたぞぉ、妹ぉ。早くベッドに連れて行ってくれぇ」
だらーっと情けなくエルシーにもたれかかるアルヴィオ。そんなアルヴィオに、エルシーはうんっと力強く頷き二人のハウスへと歩き始める。
が、少し歩いたところでアルヴィオはとあることに気づきこんなことを言い出す。
「お? そういえばエルシー。お前、また成長したか?」
「え? そう、かな。自分ではそんな風には思わないけど」
と、エルシーは自分の胸に視線を向けていた。
「いや、俺は身長のことを言ったつもりだったんだけど」
「……」
こうして、微妙な空気のままハウスへと帰還したのだった。




