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第31話 仲良くしてくれたまえ?

 

 

 

 そろそろ、手紙を見つけた頃合いだろう。

 馬車に乗り込みながら、エアハルトが優雅に笑った。


「いやあ、あの二人が仲良くしてくれて嬉しいよ。仲睦まじくしていてくれないと、国民に示しがつかないってものだ」

「そうね、ハル。わたくしたちの仲が険悪だなんて誤解されても困りますから」

 足を組むエアハルトの傍らに座って、アドリアンヌが幸せそうに笑う。

 二人の様子を見守って、シャレットは深い溜息を吐いた。


「お言葉ですが、なにもこのようなやり方でなくても、よろしかったのではないでしょうか?」

 シャレットが指摘すると、エアハルトは大袈裟に肩を竦めて首を横に振った。

「僕は忙しいんだよ。父上ったら、難しい仕事ばかり押し付けてさぁ。これじゃあ、せっかくの夫婦生活も営めないじゃないか」

 エアハルトはアドリアンヌの肩に手を回す。

 けれども、アドリアンヌは「あら、人前で気安く触れないで頂ける?」と言って、さり気なく扇子でエアハルトの手を払った。その様子はルリスで「悪女」と評されたしたたかさを持っているが、少し照れているようにも思えた。


「だからと言って、アレク様を身代わりにしたまま、アドリアンヌ様を連れていかなくても……」

「大丈夫だよ、アレクシール君は見込みのある男だと思うよ? 女装すると、なかなかの美人だしね。アディには一歩敵わないけど」

「当り前よ。アレクはわたくしの次に美しい弟ですもの。でも、式のときは帰りましょうね。わたくし、ちゃんと自分の式には出たいわ。もうドレスも選んでいてよ?」

「勿論だよ。流石に、アディとの結婚式まで身代わりには頼めない」

 シャレットは再び溜息を吐く。この二人のために、アレクは女装し続けなければならないのかと思うと、少し複雑だ。


 だが、エアハルトがあまり王宮へ戻らないのは事実のようだ。

 これでは、国民に両国の親睦の象徴として夫婦の姿を見せる機会も減るし、世継ぎを作ることも難しい。

 世継ぎを産んでこそ、初めて政略結婚の意が成される。アドリアンヌが身篭るまでの間、アレクの役目は終わらないだろう。

 それに、今回の件で同盟に反対する一派が全て根絶やしにされたわけではない。虎視眈々と機会をうかがう者もいるのだ。


 また囮にされたのか。

 シャレットは、この王子は飄々としているようで、食えない男だと思った。だからこそ、国王も彼に仕事を頼むのだろうが。

 噂によると、彼もルリスとの和平を結ぶために外交官として一役買ったらしい。アドリアンヌとの仲を見る限り、推測だが、その頃に知り合って親交を深めたのではないかと思われる。


「そう難しい顔をしないでくれよ、執事君。君は今まで通り、アレクシール君を世話してくれたまえ」

「元より、そのつもりでございます」

 シャレットの返答に満足して、エアハルトはアドリアンヌの肩を引き寄せた。そして、御者に馬車を出すよう指示する。


「では、ごきげんよう。妹によろしくね。今度は異国の姫君を邪悪な精霊からお救いする話でもするよ」

 エアハルトたちの馬車を見送って、シャレットは一礼した。そして、晴れ渡った空を仰ぎ見る。


 澄んだ青空に浮かぶ太陽と、昼の月。

 爽やかな夏の風が、何処かから明るい歌声を連れてくる。和平の象徴として作られた曲を、子供たちが歌っているのだ。

 その声を聞きながら、シャレットは白亜が輝く王宮の中へと足を進める。

 奇妙で慌しいアレクの身代わり生活は、まだ終わりそうにない。

 

 

 

fin


 この作品は過去に書いたものを大幅に加筆改稿したものです。

 アドリアンヌとエアハルトの出会いについては短編「悪役も侯爵令嬢のたしなみ!」という作品を投稿しておりますので、そちらでお楽しみください。


 ここまで読んでくださって、ありがとうございます!

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[良い点] とても面白かったです。 とりかえばや でも、工夫がきいていて、引き込まれました。  [気になる点] もう終わり?! もっとふくらませても良いのではないでしょうか。 [一言] 続きを読みたい…
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