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地の文様

 海に月と星が映っている。その海の名は孤独の海。昔、その世界の主は広い海に大切なモノを落としてしまいました。

 足元の影を失い、虚ろなその姿は哀れな虚像。虚像に残りし儚い意思は失くしたモノを探し続けた。虚像の意思は現実の体を上手く操れない。

 広く深い海の中のどこかにソレは在れど、どれだけ長い時間を探せば見つかるのか。

 足元に影の無い主は、自らの影を探す長い時間の内に、影無き実像に姿を変えた。実像の意思は現実の体を違和感無く操る。

 主の落とした大切なモノは箱に入っていた。その中身は……魂の欠片であり、その箱は魂だった。見つけ出したそれは長い時間の内に穴が空き、すべてが取り戻せない。影を取り戻せど足りないモノがたくさんある。

 影なき実像を持ちつつ影を取り戻した主は、見つけなければ、ナニが足りないのか気付けないことも多い。

 取り戻す手掛かりになるカギは…………。


 魔術師はパイプ椅子を二つ右肩に担ぎながらこの場所に訪れた。いつも通り、使い魔は魔術師が訪れたことに気付くと気配を現す。

 魔術師が世界設定を暗がりがあるとしか明示していないので、それ以外は何も無い。三人称視点……あるいは神の視点として、わたくしも登場出来るように努力したい。

「ねぇ、なんか地の文が”わたくし”とか言って出てきたけどいいの?」

「なんだ、今回は呪文を言わなくても出てきたな……いいんじゃないか? 練習だし」

「……あなたがいいって言うなら、いいけど。……急に地の文がわたくしとか言うから、つい出てきちゃった」

 使い魔は今はまだ何も無い世界を見回してわたくしを探す。そんな使い魔の前に背中を向けて立つと魔術師は呪文を唱えた。

「……夜の静寂 足元に影は無く 空を見上げれば月は雲の向こう 空に手を伸ばすと雲は流れ月が出る 月の光で影を見つけ振り向くと君はいた……」

 呪文を唱え終わると魔術師は振り向く。そこには、うつむいて髪をいじっている使い魔がいた。

「ありがと」

「なんとなくだ」

 そう答える魔術師だが、実は右肩に担いでいるパイプ椅子で肩が痛い。そんな素振りを見せないように振舞っている。

「地の文ってなんだか余計なこと言うよね。でも、それ下ろそうよ」

「あ、ああ。そうだな……なんだか下ろすタイミングが掴めなかった」

 パイプ椅子を肩から下ろすのを手伝おうとする使い魔だが、結局何も役に立たなかった。

「この地の文……ちょっと失礼じゃない?」

「文章を並べる練習を頑張ってるんだよ」

「そうなの?」

 使い魔は、魔術師と地の文のどちらとも無く疑問を投げかけた。わたくしの答えは、そうなんです。です。

「だ、そうだよ」

 魔術師まで地の文を読んだ。一応は、神の視点なのだが……。

「でもさ、魔術師が私で、使い魔がわたしで、地の文がわたくし……つまりは一人三役なんだよね」

「否定は出来ないが、こうして文字を並べて文章を並べているとそれぞれ性格が出来てくるものだよ。だから、君も私も地の文もそれぞれこの世界に存在している」

「あの……ごめんなさい。わたし、この世界の空気を読めてなかったかも」

 魔術師が少し強い口調で言うと、使い魔はしおらしく謝った。そんな使い魔の髪を風が優しく撫でた。

「気にするなよ。なんとも練習らしい感じが出て、むしろよかったかもしれない」

「……うん。地の文さんもありがとう」

 風で髪を撫でた効果なのか、地の文に”さん”が付けられた。

「確か神の視点では、私や君の心の内も地の文に並べることが出来るらしい」

 魔術師の言うことに使い魔は少し嫌な感じがして眉をひそめた。

「べ、別に嫌な感じがして眉をひそめたわけじゃないよ?」

 使い魔は地の文を否定したけれどそれは嘘だった。

「まぁ一応、私達は地の文は読めない設定だよ? 私たちの行動や心情、状況とかを説明してくれるものだからね」

「わ、わかってる……よ?」

 わかっているといいながらも、地の文を探して上のほうに視線が向く。

「さて、今回はパイプ椅子を持ってきたから座ろうじゃないか」

 魔術師はパイプ椅子に座ると、使い魔にも座るように勧めた。すると使い魔は無造作に置かれているパイプ椅子を魔術師の左側に運び座った。

「前回までのお話は、わたし達は立ったままだったんだね。立ち話だったんだ……」

「気がきかなくてスマンな」

「大丈夫だよ! 立ち話をしていたって描写は無かったし、過ぎたことだもの」

 ニコリと笑いながら、背もたれに背中を預け座り心地を確かめる。

「おお、そうか。……本当はパイプ椅子じゃなくて、もっと良いのがよかったんだけど、持ってきた感じを出すのに良い椅子だと二つも上手に持てそうになくてさ……」

「魔法とか魔術で出せばよかったんじゃない?」

「う~ん……得意、不得意があるってことで……」

「そうなんだ」

「うん、次回は丸テーブルを担いでくることにしよう!」

「次は下ろすのちゃんと手伝うね! あれ? でも、そういうのって使い魔の仕事じゃない?」

 おもむろに立ち上がると、両手を上げたり下げたりして手伝う練習を始める。そして尋ねた。

「少なくとも君の仕事では無いから大丈夫! 文章並べの練習を手伝ってもらってるし」

「ふふ! ……よし!! これで上手に下ろすの手伝えるよ!」

 イメージトレーニングが終わったらしく機嫌の良さそうな声を出す。そんな使い魔をパイプ椅子に座って見上げていた。目が合うと使い魔は優しく笑いかける。

「さて、丸テーブルどうやって持ってくるかな……」

 魔術師もニコッと笑ってから、照れ臭くなって目をそらす。

「……ふ~ん。照れ臭いんだ~」

 使い魔は地の文を読んで今の魔術師の心境に確信を持った。

「ああ、2000文字を超えてる。頑張って3000文字を目指すか!」

 照れ隠しに文字数を会話に出して流れを変えようとする。

「目指そう!!」

「よし! やろう!!」

「そういえば、今回は天秤を持って来てないんだね」

「うん、持って来てないよ。まぁ、必要とあらば出せるけど」

「それは出せるんだ……」

「アレは私のマジックアイテムだからね!」

「……違いがあるの?」

「なんとなくある。天秤はてんびんでも、アレは私の持っている力の一つだからね」

「なんとなく、よくわからないかも」

「説明は難しいんだよ……なんんとなくだけど、何らかのイミを持たせている場合は出せるという感じかな」

「わかった! ……ようなわからないような……まぁ、いっか!」

「深く考えてもしょうがない。なんとなくでいいはずさ」

「なんとなくだね!」

 とりあえずの答えが見つかり、立ったままだった使い魔はパイプ椅子に座った。わたくしが描写を忘れていたわけでは無い。

「……」

「地の文さんが描写しないと、わたしは座れない……あえて、会話の中で描写する手もあるけどね。地の文さんも頑張って!」

 神の視点を持つわたくしが、使い魔に気を使われた。

「すまないな、私も座るように促せばよかった」

「ありがと、でも大丈夫! どうしても座りたかったら自分で言うから」

「そうか、その時は遠慮なく言ってくれ! 私も気付くように気を付ける」

 今、魔術師のてんびんがここにあったなら、どんな傾きを見せるだろう。釣り合っているのか傾いているのか。

「あの天秤って釣り合っている方がいいの?」

「釣り合っていた方が気が楽だよ」

「そっか……今は天秤、釣り合ってると思う?」

 少し右上に視線を向けながら考えて魔術師は穏やかに答えた。

「たぶん釣り合ってるよ」

「じゃあ、気が楽なんだね!」

「まぁね! 若干、3000文字が気になってるけど」

「あ、3000文字超えたね!」

「意外と時間がかかってしまったけど、いい練習になった」

「最初の頃より上手くなった……と思うよ。たぶん……」

「だと、いいんだけどね。さて、今回もこの辺で終わりにしよう。ありがとう」

「ふふふ! 椅子を用意してくれてありがとうね!」

「次は丸テーブルを用意しよう」

「楽しみにしてる!」

 使い魔は機嫌よく気配を消した。そして、魔術師は文字を並べるのを終わりにした。地の文も同様に……。

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